01
スズは本戦出場をかけた予選後、極度の緊張のために、夜も眠れぬ日々を送った。だがそんな日々も三日だけ。流石にスズの眼の下にくっきりと刻まれた隈を見つけては、彼女命を公言するオビトが黙っていない。無理矢理一緒の寝台に入り、ギュッと彼女を抱きしめれば、耳に届く心音に安心したらしくスズは久しぶりにぐっすり眠った。
翌朝。ふと、目を覚ます。どうやら眠っていたらしいと、頭の隅が状況を把握する。背中に回された腕の逞しさ、近くで見る精悍な顔。男性にしては温かい体温に包まれ、ふわりと顔を綻ばせる。
「オビト、起きて」
「んっ、まだ、もう少し…」
このままでもいいかなぁと思う自分もいるが、がっちりホールドされた状態では他に何もできない。起きて、ご飯作れないよ、と揺すれば徐々に瞼を開くオビトの眼に宿る、驚愕。
「へ…?」
「おはよ、オビト」
余談だが、オビトの目には窓から差し込む朝日がスズの後光に見えたらしい。
オビトが赤面して飛び上がるまで、あと…。
*
クスクス、
「笑うなよ」
「だって、」
オビトが自分からやったことなのにあんなに照れるなんて、と。別に男女の疚しいことがあったわけでもないのに過剰な反応を示すオビトについ、笑みがこぼれる。
「忘れてたんだよ!」
「フフ…」
絹を裂くような悲鳴、といえば聞こえはいいが、実際には三十路間近な青年の低音による悲鳴だ。男にしては高音が災いしたのか、オビトは恥ずかしそうに顔を覆った。
「あ〜///ところで、昨日はちゃんと寝たんだよな?」
「うん。オビトの御蔭です」
そう返せば赤面再び。「
お、おう」と返すだけで精一杯だった。
そんな反応が可笑しくてクスクス笑えばまた冒頭のやり取りが繰り返される。ちょっとやり過ぎたかしら、と反省しつつ拗ねてそっぽを向いて、マグカップ(引っ越した時に購入したお揃い)に牛乳を注ぐオビトの背に向かって声をかけた。
「ね、オビト」
「ん?」
「今夜も一緒に寝ようね」
「ッ?!!」
ガシャンとマグカップが床に叩きつけられた。
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