02
試験は順調に進む。第一回戦でイタチさんが「アイツよくも俺のサスケを!」と憤怒して試合に割り込もうとしたのを必死で止めつつ、「俺を見ろよぉ!」などと涙目な情緒不安定気味+中身おっさんで見た目少年のオビトの手をぎゅっと握りしめていた。
中忍になることよりも班員を止めることの方が大変。流石のスズも顔に疲れが出ていた。心配したアスマに声を掛けられるが、紅の前で親しい言動は余計な騒動を生む。しっしっと手で追い払い、顔を手で覆った。
「スズ大丈夫か?」
「大丈夫よ(オビトが暴走しない限り)」
スズに微笑まれたことか、それとも手を握っていることか。どちらにしろポワーンと花を飛ばしてホヤホヤしているオビトが一瞬可愛いと思い、そんなこと思った自分がどうかしていると頭を振る。ふと顔を上げれば丁度試合は終わっていた。
「次、かがちスズVSうちはフェレット」
え?
*
記憶によれば、カブトは棄権している。そのカブトの班員は木の葉のサスケ、砂のカンクロウと当たり、予選敗退するのだが、現時点では確かにその二人は敗北していた。
だがしかし、思い返せばカブトは棄権していなかった。丁度参加、不参加をハヤテが訊ねている時、スズはオビトを諌めるのに忙しくそんなこと気にしている余裕はない。よって、彼女は掲示板に表示された名前に目を見開く。
「(え、ちょっと待って。確かに対戦相手が原作通りなら私たちは班員同士かカブトと戦うことに…)」
別の意味で蒼褪める。だって相手はイタチだ。あのうちはの天才忍者だ。万に一つも勝ち目はない。
「おいフェレット。スズに傷一つでも負わせてみろ、俺がお前を殺してやる」
「……」
無言でイタチは下に降りた。スズもそれに続く。
向かいあるイタチとスズ、そして上の梯子に足を掛け腰の刀を構えるオビト。後ろでアスマが羽交い締めして止めていなければ一緒に下まで降りていただろう。
スズは気丈さをすっかり失っていた。イタチのせいではなく、上からの視線で。
肌は雪のように血の気と温もりを失い、瞳は硝子玉のように見開かれている。うっすらと涙が眦に残り、今にも零れそうなそれを見せないように俯く。
不審に思ったイタチが顔を上げ、その視線の主を探した。
――カカシだ。
「(また厄介な人に)」
妹のように可愛がっている少女に纏わりつく男、そして穴が開くほど凝視している元暗部の先輩。彼女は男運がないんじゃないかと思わずにはいられない。イタチは彼女の為にも一刻も早くこの試合を終わらせようとした。元々勝つ気はない。
「なぁなぁサクラちゃん。あの二人なんで動かねぇ―んだってばよ?」
「莫迦ね、あれは幻術を掛け合ってるのよ」
カカシに幻術タイプだと謂われているだけあって、サクラはそれを素早く見抜いた。
スズが解いて、フェレットがまた掛ける。その応酬に、先に敗北し膝をついたのはフェレット。佇んでいたスズの眼に光が戻り、ホルスターから苦無を取り出し、左手で身体を、右手で首に苦無をあてがう。決着がついた。
「勝者、かがちスズ」
本戦出場、決定。
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