RE主の多重トリップ | ナノ
オビト、堕ちる



突然俺は見知らぬ土地に1人佇んでいた。
あれから一刻も早くスズの元に帰り、スズが俺の為に、俺の為に(大事なことだから二回言おう)作ってくれている夕餉が食べたい。

スズが待ってる。ホカホカの出来たてを食べずに俺が来るまで待って、冷めた飯を温め直して俺の正面に座り一緒に食事をとる。スズの顔を見ながら手料理を味わう日々、これが幸福と謂わず何と謂えようか。

スズに会うため、一分一秒惜しんで全速力で里に帰還する途中だった。後ろから聞こえる仲間の聲?知らね。

だが白い鳥のようなものに包まれ、目を開いたそこには見慣れた木々、土の地面、微かに聞こえる川のせせらぎもない。
あるのは空を灰色に染める煙、死体が焼けるような嫌な臭い、耳に入るのは醜い人間の怒声、悲鳴、咆哮、そう、見覚えのある戦いの風景。人によっては地獄と錯覚してしまうほど荒れ果てた土地。

なんだここは?


その時辺りに響き渡った甲高い悲鳴にハッと顔を上げた。だがすぐさま項垂れる。
少女の悲鳴に、一瞬スズのものかという期待と彼女を怯えさせたナニカに対する怒りが沸々と湧きがったが、俺がスズの声か否かを判別できないはずがない。すぐに別人のものだと気づいて間違えたことを後悔した。

悲鳴は未だ止まず。寧ろさらに甲高くなった。普通の神経なら助けに行くべきだろうが今の俺には関係ない。ああ、スズに会いたい。

大事なことだ。
俺は彼女がいないなら、どう生きればいい?

スズを探し走って時間はかなり経過している。本来ならとっくに腹に納まっているはずのオビトの夕食も冷めたどころか勝手に居候しているカカシの腹に納まっているはずだ。くそ、バカカシ後で締める。


ただでさえ三日もスズと離れて任務に駆り出されていたオビトの荒んだ心は今回の神隠し(?)で悪化する一方だった。なまじもうすぐ会えると期待していた分だけ絶望感も半端ではない。

以前のオビトの瞳に宿っていた明るい光も、今は消えかけている。

昏く澱んだ地獄の底のような瞳。
死に物狂いで走り回っていたせいか、その外見の荒れようからまるで幽鬼のようで恐ろしい。もし誰かに見られようものなら物の怪の類と疑われること間違いない。
幸いにも今はそんな余所者よりも自分たちの敵、王家の生き残りを始末することで頭が一杯な人間はオビトの存在に気づかなかった。


そしてオビトの傍を一人の男が通り過ぎた。仮面をつけた長髪の男は横を通る際、オビトの形相を見て一瞬ビビるが今やこの国全体が真っ黒に染まり、魔導士なんかは憎しみの権化のようだった。そのため、彼もその類だと1人納得し視線を逸らした。決してオビトが自分の手に負える化け物ではないと判断したからではない。
ブツブツと「スズスズスズスズスズスズスズスズ」などと永遠と誰かの名前を呟いていたのが不気味だったからでもない……はず。

各々が武器を片手に1人の小さな少女を追い詰めている。頭を抱え、地に押さえつけられた少女に男は近寄る。そしてつい先ほど大切な従者を失った少女…この国の姫だった少女は今や絶望の淵に叩きつけられていた。

その姫に向かって男が囁いた。彼自身の目的のために。


もう一度云う、仮面の男(イスナーン)は少女(ドゥニヤ)に言ったのだ。


「運命を、呪え」


だがそれはオビトの心にもストンといとも簡単に落ちた悪魔の囁きだった。





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