RE主の多重トリップ | ナノ
オビト、落ちる


俺は何のために生きている――?


絶望から希望、希望から絶望の道を彷徨い続ける俺に、生きている意味はあるのだろうか。


ある時は幼くして両親を失った。帰っても誰もいない昏い屋敷で膝を抱えて泣かなかったのは、明日になれば大好きなあの子の笑顔に会えるから、だから堪えられた。

ある時は火影になるという夢を諦め掛けた。身近にいる天才と自分との差を悲観して、無駄に意地を張って、自分だって努力しているのに追いつけないその背中から逃げてしまおうかと弱音を吐いた。でも死ぬほど好きなあの子の「大丈夫」「頑張れ」その言葉に奮い立って、また走ることができた。

ある時は一度死にかけた…いや、死んだと思った。だけど助かって、もう一度あの子と、嫌いだけどちょっぴり仲良くなれるかなと思い始めた天才の下に帰りたいと希望から始まった。だけど二人の下に帰った俺が見たのは、『あの子』を殺す『天才』の姿。託した想いを踏みにじられた気がした。そしてこの世界にあの子が、彼女がいない現実に絶望した。


それから暫くは地獄にいた。現実と言う地獄で10年近く偽りの姿で逝きた。尊敬した師を殺し、世界を歪め、里を滅ぼすつもりだった。
そう、だったのだ――。

手始めに同族から崩壊させようと目論んでいたあの日、栄華を誇った…いや、あの頃はもう衰退の一歩だったうちは一族を滅亡へと誘う前日、気まぐれに集落を歩き回った。平和な里、明日で終わることを知らないでただ笑っている人間。どうでもよかった。全てに無関心だった。

――だが俺は『彼女』を見つけた。

そして感じた幸福。
言葉にできない感動の波に胸が耐え切れないんじゃないか、と思うほど俺は唯一無二の光明との再会に涙した。止めどなく流れ落ちる滴が濁りきった世界への憎悪すら零れ落ちるような感覚。

それから色々あったが数年の時を経て、俺と彼女は恋人になった。



そう、俺と彼女が出会うことは運命だった。
俺という人間が生きる上で必要な酸素で、水で、太陽で、全てなんだ。


俺は何のために生きているか――?
――俺はスズの笑顔を守るために生きているんだ。



だから、


「ここは何処だ?」


そこは見慣れぬ土地。隣にスズがいない。辺りにスズの気配もしない。こっそりつけていた追尾用の発信器を確認してもスズの反応はない。


もう一度云う、

ここは何処だ






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