主人公視点
ユウ君、五歳です。弟があの波風ミナトだと知った俺は真面目に修行に取り組みだした。
どうせ将来的にミナトの方が優れてるって解るはずだし、そうなったら俺後継がなくていいし。でもこの世界は危ない。非常―に危ない。だから死なないように俺は死ぬ気で勉強している。ミミズみたいな達筆な字も何とか読める様になったが、それでも視界にいれれば眠くなる。そんな時は脳内で素手で地面をたたき割るくノ一や物騒な背後霊を出現させる一族を思い浮かべる。あら不思議、眠気も吹っ飛ぶ。
さあやるか!と本日二度目の眠気が吹っ飛んでから、巻物に視線を落とせば下の部屋から響く騒音、基、ミナトの泣き声。最近母さんもミナトの夜泣きで疲れてたはずだし、休憩がてら変わってこようと部屋から出ることにした。
襖をあけると、中からはわんわんと泣きじゃくる赤ん坊の声と、少し疲れたような、でも優しい声が聞こえる。
「ミナト、どうしたの……」
「ひっく、ふっ、あぁ、ぁあああん」
赤ん坊ってあんなに泣いて大丈夫なのかな。ちょっと心配になるくらいミナトは毎日泣き続ける。
「母さん・・・」
「あら、勉強はいいの?ユウ」
コクンと頷き、大口を開けて怪獣のように泣きわめくミナトを見つめる。
音の凶器のような泣き声を使えば敵を倒せるかもしれないと、いざというときに使わせて頂こうとか考えつつ、母さん(ママさんは卒業した)からミナトを受け取る。
「ふっ、あ、ああ!」
「……、」
「やっぱりユウじゃないと嫌なのね。」
何故かミナトは俺が抱っこすると一秒で泣き止む。何故だ。
安心したような、それでいて少し寂しそうな表情を浮かべる母さんの目元には隈が出来ており、このミニ怪物のような弟に手を焼いていたのがありありと窺える。それを一瞬で終わらせる俺ってなんかすみません。ベビーベッドに戻そうにも赤ん坊とは思えない強さで服を掴まれてるから引き離せない。
「ミナト、泣くな。男の子だろう」
「ぅう〜〜・・・あい!」
赤ん坊だ。赤ん坊なのにこちらの言葉が解る様なミナトが将来有望過ぎて逆に怖い。あれか、天才は赤ん坊の時から天才なのか?
苦笑しつつ俺はミナトが寝付くまであやし続けた。