フガク&ミコト視点
フガク&ミコト視点
波風ユウ……俺が唯一友だと謂える男。
その男が今激戦区である水の国へたった一人で向かったらしい。
「何でですか!どうしてユウを一人だけ行かせたんですか!」
アイツを殺すつもりか、とフガクは三代目を初め上層部に食って掛かった。それに対し、何も返さない上層部にフガクは苛立ちを隠すこともなく音を立ててその場を後にした。
妊娠中のミコトは見るからに不機嫌な夫の帰宅に不安げな表情を浮かべる。
「あなた…もしかしてユウさんが、」
そこで思わず言葉を切ったのは、夫の顔は更に苦痛で歪められたからだ。
ミコトの脳裏でフガクの隣に立つユウの姿が甦る。お互い無言だったが、確かに二人は誰にも干渉できない絆で結ばれていた。
ミコトは知っている。フガクがユウを目標にしていたことを――…そしてフガクが写輪眼を開眼したのはユウを守った時だったと。
(もしユウさんの身に何かあったら……)
…――フガクはあの伝説の万華鏡写輪眼を開眼するかもしれない。
それはうちは一族としては誇らしく、妻としてはあまりにも悲しい結末だ。
最悪の想像を振り払う様にミコトは首を横に振る。
「ああ、アイツが危ない。ミコト、悪いが…『早く行ってあげてください』…ミコト」
早く、あなたが後悔しないように、と。
「大切な、友でしょう?」
「…ああ、かけがえのない…俺が信じられる唯一の人間だ」
「フフ…ちょっと焼けますね」
「っ?!!そ、それは…うっ、すまん」
「謝らないでください。私もユウさん以外なら許しませんよ」
「……ああ、」
「行ってらっしゃい。」
夫の背中を身に焼き付けるようにジッと見つめ、ミコトは二人が無事に帰還することを祈った。
*
時は三刻ほど前に遡る。
フガクがユウの任務内容を聞いたのは深夜のこと。もうすぐ生まれる我が子を心待ちにしていたフガクだが、宵の時刻に齎された情報は彼の幸福を奪うものだった。
暗部――それも根で使われる呼び出しの鳥。フガクは勿論暗部でも根でもない。ただ彼の元担当上忍が根の長であることがうちは一族であるフガクとの最初の繋がりを創った。
フガクを監視する役として存在したダンゾウを、彼は当然のことながら快くは思っていない。フガクが中忍、そして上忍と昇格してからはその縁も薄れたはずだった……。だがフガクの唯一無二の友がダンゾウのお気に入りということで二人の間には未だに切り離せない繋がりが存在した。
怪訝な表情で参じたフガクを一瞥したダンゾウだが、彼に見ろと一本の巻物を投げ渡す。
「…なっ?!!」
「見た通りだ。儂以外の上層部はユウを脅威と見做し、他国と組んで秘密裏にあやつを排除しにかかっている」
「……ダンゾウ様はそれでいいんですか!!」
思わず叫んだフガクだが、すぐさま後悔する。
「……いいわけがなかろう!」
この人がここまで感情を露わにするなんて……だがそれだけの価値がユウにはある。
あいつを死なせない。絶対に!
「…俺にこれを知らせたということは、」
「お前の好きなようにしろ……儂が動けば上層部が邪魔をするからのぉ」
「……貴方のことは嫌いですが、ユウに関しては信用しています」
「フン!はよう行け。儂はユウさえ無事で帰ればそれでいい、お主はユウの代わりに敵国で死んでもよいからな」
「……死にませんよ。ユウのために」
「………」
「では失礼します」
そして上層部に乗り込み事を荒立たせ、秘密裏の暗殺を阻止するフガクだった。