オビト視点






或る日、俺たちの先生が云った。


「ん!ところでカカシは知っているけど、二人は知らないと思うからそろそろ紹介しようと思う人がいるんだけど…」

「ちょっ、待ってくださいミナト先生!あの人をコイツに紹介するんですか?!!」
 
「(この野郎!)」

オビトを指さして猛反対するカカシ。その顔には普段の冷静さはない。


 「(カカシがこんなに取り乱すなんて…)先生…その紹介したい人って誰ですか?」

 「ん?俺の兄さん」



ニッコリと微笑んで応えるミナトに、尋ねたリンは目を見開く。

 

「うそ!あの波風ユウ上忍ですか?!!」
 
「あ?誰だよ…それ」
 
「オビト知らないの?次期火影とも噂の…あ」
 
ミナトが火影を目指していることを知っているリンはしまったと口を閉ざした。その反応にミナトは苦笑する。


「アハハ、リン、別に俺と兄さんは火影の座を巡って争ってないよ。寧ろ逆さ」
 
「逆…ですか?」
 
「ん、俺はね、ほんとは兄さんを火影にしたいんだよ。でも他でもない、兄さんが俺に言ったんだ『お前は火影になれる』ってね。そしてこうとも言った。『俺はお前を支えたい』って
……嬉しかったよ。俺はそんな兄さんが誇れるような弟になりたいんだ」
 
「「「………」」」

オビトとリンはミナトの兄に会ってみたいと思った。噂でしか知らない波風ユウではなく、弟を想う兄としての彼に。

 


そして当日。

ミナトと仲睦まじく談笑している男にオビトたちは目を奪われた。

(すっげぇ)

オビトは遠目からだがユウを見たことがあった。それというのもユウがよくうちは一族の集落に足を運んでいるからである。長のフガクと仲がいいらしい。俺とカカシみたいに嘗てスリーマンセルを組んだと聞いたことがある。(自分がカカシと将来的にあんな風に仲良くなれるとは思えないけど)

その時は行きも帰りもフガクが傍にいた。そしてオビトのようにユウに気づいた人間の目から隠していたため、じっくりと見たことは無い。ただ覚えているのはクシナのように鮮やかな赤い髪が綺麗だと思ったことだけ。

そして今、オビトはこれまでで一番間近からユウを見ている。服の上からでも解る、鍛え抜かれた身体。背中に背負った身の丈以上の薙刀から放たれる異質な気配。噂ではあのダンゾウが用意した札付きの代物らしい…他にも色々とダンゾウ印の禁術を会得しているとかなんとか。


そんなことを考えていたが、こちらを見下ろす蒼い瞳に呼吸がとまりかける。
オビトの隣にいたリンが気を引き締めて挨拶した。

「はじめまして…のはらリンです」

流石リンと感心する一方で、オビトもこの雰囲気の中、平然としているカカシに張り合ってか動揺を隠して挨拶する。
 
「俺はうちはオビト!」


その後続く無言。額から汗が流れる。こちらを見定めるような鋭い眼差しが柔らいだと思えばユウが閉ざしていた口を開いた。


「ああ、はじめまして。俺は波風ユウだ」

隣のミナトの顔に「俺の自慢の兄さんだよ!」って書いてある。そんなミナトに向けられるユウの瞳が優しげに細まった。

(あ……、)

ドクン、と胸が鳴る。ユウのその目が、死んだ両親が自分に向けていたものと似ていると感じた。もう二度と手に入らないそれに。


もっと俺を見てほしい。寂しい、一人にしないで……

もっと、もっと……


手を伸ばすが、背を向けたユウには届かない。こっちを見てと視線を送っても見向きもされないことが無性に泣きたくなった。

オビトの視線の先には、そんなユウに頭を撫でられ嬉しそうなカカシの姿。

カカシを見る、ユウの背中。


(なんでいつもカカシなんだよ…!!)


憮然たる思いを禁じ得なかった。




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