カカシ視点
カカシ視点
父さんが死んだ。雨こそ降らないが、不気味なほど薄暗い空の下で。
父さんの葬儀には俺でも知っている有名な忍者が参列した。たとえばミナト先生の師匠だった三忍の自来也さま。その場で一番俺と親しいのはミナト先生だったから、心配してか俺に「大丈夫かい?」って聞いてきたけど、大丈夫ってなにが?
無意識にあの赤色を探すが、いない。そりゃそうだ。だってあの人は今、長期任務に出てて、知らせはしたけどすぐ帰ってこれる距離じゃない。
でも、
ザワザワ。
(おいユウ上忍が来たぞ!)
(嘘だろ!?丸二日はかかる道のりだぞ?)
(でもあの人しかいないだろう)
「……あ、」
ユウさん。来てくれたんだ。
あんな綺麗な赤色の髪に、惹きこまれそうなほど深い青い目の持ち主は、ユウさんしかいない。見間違う筈がない。
一瞬でその場が静まり返る。ユウさんがゆっくり父さんの遺体に近づき、すぐそばで膝を折る。白い指先が青白い父さんの顔を優しく撫でる。いつもは羨ましいと思うそれに、今日は何も感じないのは、きっとその手つきがいつもと違って悲しみを帯びているからだろう。
「うっ、」
なんだろう。涙が出ないのに胸がすごく痛い。目から出ない悲しみの象徴が胸から零れるように痛む。
痛い、痛いよユウさん。助けて・・・。
「……とう、さん、は…間違って、たの?ルールや掟、より仲間を選んだ父さん、は、」
父さんは忍として間違っているんでしょうか?
そこまで続けなくとも、ユウさんは解っただろう。俺は父さんの骸をみたときから思っていたことを口にした。
辛くて、でもユウさん以外信じられる人がいなくて、兎に角俺はこの時彼にしか縋れなかった。優しいこの師匠が俺の伸ばした手を払うことがないと知っていた。この人の重みになると解っていながら弱い自分をさらけ出した。
「…少なくとも俺はお前のお父さんの『仲間を優先する』って信念で助けられたよ。あの人が間違っていたなら、俺はそれ以下の人間だよ」
周囲から非難され、それに負けた父さんは最期とても小さくなっていた。そんな父さんをいままで尊敬していた分、幻滅も大きく、俺は心の底で父さんを否定してしまった。口癖のように云っていた「仲間を大切にしろ」という教えでさえ、無意味と思ってしまった。
だけど、ユウさんはそれに助けられたという。俺が父さんよりも尊敬し、皆が火影さまに憧れる中でこっそりユウさんみたいになりたいと願っていた強い忍者は否定しない。父さんを、父さんの信念を。
グルグル渦巻く感情に押しつぶされないように俺はその日ずっと、ユウさんに抱きついた。