フガク視点




フガク視点

 
 あのはたけサクモさんが死んだ。殉職でも病気でもない。いや、ある意味病気かもしれないが、里人に裏切られて死んだと云っていい。自殺だった。


サクモさんと直接的面識はない。だが俺の目標であり永遠のライバルの波風ユウとは歳の差を越えた友人だったそうだ。く、悔しくないぞ!ユウだって俺のことをライバルだと思ってくれているはずだし!友人よりもかけがえのない存在に決まってる!

 兎に角そのサクモさんの葬式にはユウは間に合った。上役から長期任務を言い渡されていたにも関わらず、サクモさんの事を聞いて飛んで帰ってきたのだろう、いつもの余裕が消えうせたような焦った態度。きっちり整った身だしなみすら乱れている。

「サクモさん・・・」


ポツリと名を呼んだっきり、下を向いたままのユウにかける言葉が見つからない。
だが、そんなユウに気づかない愚か者が口々にサクモさんを中傷する。俺が「いい加減にしろ」と咎めようとする前に、ユウが動いた。正確には鋭い殺気を飛ばした。

背筋が凍り付くような殺気。身を切り刻まれるような、いっそ死んで楽になりたいと思うような冷たいそれ。ヒカゲと三人でマンセルを組んでいた頃も俺たちに何かあれば放っていた殺気だが、それよりも重く鋭くなっている。あの頃より磨き上げられた刃物のようなとげとげしさがある分、向けられた相手はここにいることすら後悔しているだろう。

俺でさえ後退りしてしまう。だが俺が止めなければ、



「やめろユウ」


肩を叩き無理矢理止める。こっちをみろ!と。いまユウがどんな顔をしているのか想像もつかない。邪魔をされ怒っている?嗚呼、顔が見れないことがこんなにも恐ろしいなんて。
早く早くと急かす俺の内心を知らず、ゆっくり振り向くユウ。その綺麗な青い瞳には俺の強張った表情が映しだされる。静謐な雰囲気に似つかわしくない鋭い双眸に圧される。
ごくッ。息を呑む音が聞こえた。


「フガク君…ああ、わかってる」

…――わかってるよ。

目を伏せ殺気を鎮めているユウ。その臥せられた双眸から流れる涙に、ユウは本当にサクモさんを大切に思っていることが窺える。



ああ、サクモさん。貴方が憎い。

俺なら、俺が貴方の立場だったらユウはこんなに美しい涙を見せなかった。貴方だからこそどれだけ辛いことにも真っ直ぐ向き合っていたユウが感情を露にしているんだ。


「ほら、これを使え」


これ以上サクモさんを想って涙するユウを見たくなくて、ハンカチを差し出す。
小さく礼をいい、ユウはそれで顔を隠した。その間に俺は写輪眼を開き、未だにユウの殺気で固まっていた屑どもに「失せろ」と威嚇する。退散する人間に気づきながらも顔を隠し続けるユウに俺自身も拒絶されているのが解る。

俺はこんな時でもお前に必要とされないのか。

その場にサクモさんの息子だけを残し、俺たちは出ていった。





prev  next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -