ミナト視点



ミナト視点


 兄さんが帰ってこない。

ダン!と机に思いっきし拳を落とした。ミナトの普段の優しげな容貌が見る者の背筋を凍らせた。偶然目撃した一族の人間を一瞥し、ミナトはその場を後にする。



 アカデミーを卒業して、下忍になった俺は優秀だってよく周囲に云われている。でも必ず、「お兄さんみたいになれるといいね」って付け加えられるから、まだまだ兄さんには敵わないんだろう。だから一族の皆にお願いして一日でも早く兄さんに追いつきたいからと修行を見てもらってたら、気を使ってか、兄さんが帰ってこなくなった。

 毎日修行して、でも兄さんに会いたくて会いたくてたまらなくて。
アカデミー時代、転校してきたクシナちゃんの綺麗な長い赤い髪は、兄さんと同じで、いつも目を惹かれた。何事にも冷静沈着な兄さんとは真逆な性格だけど、二人とも人の目を集める才能を持ってる。卒業してからもクシナちゃんが気になって仕方なかったのは、大好きなユウ兄さんに似ていたからかもしれない。

 とある事件をきっかけに、クシナちゃんとは仲良くなれたと思ったのに…兄さんと一緒にいる時間が短い、というか全くないから、嬉しさ半分、悲しさ半分なのがここ最近の俺の心情だ。


「はあ〜」


口からため息がでる。気分転換に修行を中止して、お団子食べに来たけど、このお団子だって兄さんと一緒に食べられたら何倍も美味しいのに。もう食べたくないけど、残すのはもったいないから仕方なく口に入れようとしたら、店の近くにいた女の子たちの黄色い悲鳴が聞こえた。

「「「「きゃあ〜〜〜/////ユウ上忍よ!!」」」」


あ、兄さんだ!
嬉しくて今まで何処に行っていたのとか、今日はお休みなの?とか聞きたいことも謂いたいこともいっぱいあるけど、まずは思いっきり兄さんにぎゅってしたい!
急ぎ席を立とうすれば、俺はありえないものを見てしまった。


「やーの!」
「ん?どうした?」
「ん!だっこ!」
「はは、抱っこしてほしいのか?」
「う!はーく!」
「ハイハイ。ほら」
「きゃああ!」
 

なに、あれ…。

見知らぬ幼児と手を繋いでいたかと思えば、その子どもに強請られて抱き上げる美形は見間違うはずがない、兄のユウだ。


「(もじもじ)あのね!」
「カカシ?」
「かーし!にぃ、すきぃ!」
「俺?」
「ん!」
 
あろうことかあの餓鬼、俺の兄さんを「にぃ」とか呼びやがった!しかも上目遣いつきとかあざとい!

(お願い、兄さん、それは云わないで!)

次に兄の口から出てくる言葉を聞きたくないと思うが、現実は俺には厳しかった。

 「ん!俺もカカシが大好きだよ」

<俺もミナトが大好きだよ>

それは、俺だけに向けられる言葉と笑顔だったのに

兄さんの腕の中でうっとりと顔を赤らめる幼子を敵だと認識した瞬間だった。




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