主人公&ネジ視点





俺はもう、燃え尽きたんだよ…。


本人曰くの絶望顔、周囲曰くの憂い顔、波風ユウ自身のオーラに気圧されて気づきにくいが、ユウは波風一族の不老遺伝子?を受け継いでいるだけあってか、その容貌は意外と幼い。

童顔といっても良いその顔を、茶屋で向かい合って座っているイタチの蕩けんばかりの恋情籠った熱視線が突き刺していた。

蒼風と言う名の暗部の正体をユウは半信半疑で調べた。彼自身の直感に従うならば、まさに「なんてこった!」な人間なのだが、人は事実でも信じたくないものがあるのだ。ユウは「嘘だ嘘だ嘘だ」と何十回も心の中で念じつつ調べ、その答えを得た。勿論、真実が清く正しいというのは稀である。

知ってしまった現実、否定できない真実。

ユウが現実逃避を図るのは至極当たり前だったし、茫然自失となった彼にイタチが引っ付き今のうちに既成事実を作ろと行動するのは必然だった。


正気のユウが聞けば「え?お前男の子だよね?」と訊ねるだろう。イタチは確かに男だ。そしてうちは一族の嫡男である。

何よりも今はうちは一族は絶賛里内で冷遇され中である。

そしてユウは里抜けしたとはいえ、その真実はユウを息子のように激愛しているダンゾウが暴露したせいで里人が知る、まさに悲劇の英雄。亡き四代目の後を継ぐべき火影候補でありながらも、上層部との溝が原因で就任できず、里を思って彼は里の中心からではなく、里の外から木の葉を守っている、と認識されていた。


要するに、波風ユウは英雄なのだ。

近づくことすら烏滸がましいと里人が思って遠くから眺めているだけの高嶺の花。


そんな男が悪い意味で目立つ「うちは」の人間と一緒にいる。それだけでも注目を集めているのに、まるで甲斐甲斐しく夫の世話をする新妻のようなイタチの態度とそれを甘受する(実際はただ流されているだけ)ユウ。


世間の目という武器をイタチが使ったのは、女ではないイタチが持つ、ユウ攻略のための方法だろう。彼は本気で自分の母親よりも年上の男で父親の親友を落とそうとかかっている。


周囲がイタチとユウの関係を誤解している頃、それまで呆然と意識を飛ばしていたユウは自分に突き刺さるイタチ以外の熱視線に気づいた(イタチのはいつものことだからとすでにスルーするのがデフォルトとなっている)。


ん?なんだ?

キョロキョロと視線を彷徨わせ、ユウと目が合ったのは。



「君は…」

「は、はじめまして」


嘗てのもう一人のダンゾウ班員、日向ヒカゲによく似た少年



***


ネジ視点


あの波風ユウが里に帰ってきている。


その知らせが里中に広がったのはかの人物が帰郷してから僅か数時間だった。

里の為に動いた。
一族の犠牲になったかもしれない。いや、一族のために汚名を被り、里を抜けたんだ。波風ユウを慕う人間が動かなければ彼は恐らく犯罪者として里から追われていただろう。

自己犠牲的な彼の行動は、俺にとって忘れようにも忘れられない家族と重なった。


父親を一族に殺され、分家という本家の奴らに飼い殺されるだけの道具。それが俺だ、俺の運命だ。

父を失い悲観しつつ、それを表に出さないよう気を張った。本家への憎悪を隠し、己を押し殺し、灰でも吸っているような気分で生きていたあの頃……父の従弟だという親類に教えられた一人の男の生き様が俺の心を救った。

そう、波風ユウという、一人の忍の背負った絶望と創り上げた平和が…



「君は…」

「は、はじめまして」


交差した視線、青い瞳は深淵を覗き込んだような錯覚を起こす。緊張してか身体が強張り、震える手が中々治まらない。忍界で恐れられている<赤い悪魔>が今、俺の前にいる。


「日向、ネジ」


ビクンッと肩が揺れた。何故、俺を知っているのか?そんな疑問に彼は答えない。思案するように俺に手が伸ばされ…伸ばされた?!

その手は俺の頭に落されゆっくりと撫でる。大きな手だ。まるで父上に撫でられた時のような暖かな気持ちが心に流れ込んできた。

波風ユウの後ろにいるうちはの嫡男の目に殺気が籠められているが、困惑しているのは俺の方だ。何故俺はこの人に頭を撫でられている?誰か説明してくれ。


「あ、あの…」

ややあって、なんとか声を掛けたが彼は相変わらず撫でる手を止めない。本気で困った。うちはイタチが湯呑を割ったぞ。


「君に頼みたいことがあるんだ」


協力してくれないか?と問いかけられ思わず頷いた俺は後になって考えても後悔していない。


因みにうちはイタチだが、湯呑の割れる音でうちはイタチの方に振り返った波風ユウが手当てをしたらあっさりとご機嫌になっていた。それでいいのかうちは一族。

そして俺に「俺のことはユウでいい」と彼の人の発言のせいでまた再び睨まれることになる。




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