主人公視点


大蛇丸さんのアジトで暮らして数年。どうしてこうなったと謂わずにはいられない。
そしてもう一つ報告する、俺、親になりました。

おぎゃあ、と赤ん坊の泣き声が隣の部屋から聞こえる。ああ、またか。


速足で俺は自室から隣(といっても歩いて数分はかかる)の扉を開けた。

ガチャリと開閉の音とともに更に大きくなる泣き声が耳に届く。


「大蛇丸さん…変わりますよ」
「ああユウ」

部屋の中はまさにファンシー。可愛らしい蛇のぬいぐるみ、子ども部屋らしい内装。コンセントや段差は赤ん坊用に配慮されている室内は、今まさに怪獣の様に泣き叫んでいる我が子の部屋である。

ぐったりと目の下に隈を拵えた大蛇丸さんとはここ数年で随分と打ち解けた気がする。子育てを一緒にしているからだろうか。彼の部下ともそこそこ話せるようになったと思う。

彼の手から受け取った、あの日のナルト同様、腕に伸し掛かる重み。生命の重さだ。
頭部にはふさふさの赤い髪。俺の腕に移ったことで、ピタリと泣き止んだ赤子の瞳は、俺と同じ蒼。

昔のミナトのように泣き虫で、だけど笑顔が可愛い子。


「いい子だ、イツキ」

よしよしと揺らせばキャッキャッ笑う。ほんと可愛いなコイツ。


「もう、お母さんよりお父さんがいいのね。ユウ以外にはあんなに泣き虫なのに!」

ムスリと膨らむ大蛇丸さんに、俺は顔が引き攣る。そう、これだけは慣れない。

「別に貴方は母親ではないでしょう」

「まあ酷い!この子は私とユウの愛の結晶でしょう!」

おい、誤解を招く。そのいい方やめろ。

「フフ、だってユウの遺伝子から私が作り出した子どもよ?私たちの子じゃないなんて言わせないわ」


そうだね。
今の俺は死んだ魚のような目をしているだろう。労わるように大蛇丸の部下の子が肩をポンポンと叩いてくれた。その優しさが逆に傷にしみるぜ。


思い出すのは1年前。
俺は大蛇丸さんに頼まれて遺伝子情報を提供

暫く引き篭る大蛇丸

三週間後、「出来たわよ!」とご機嫌で登場する大蛇丸

液体の中に浮かぶ黒いナニカ

数か月後、段々人の形をしてくる

そして、十月十日。赤ん坊が生まれた。


遺伝子的には俺の子らしく、外見的特徴は俺と同じ。まあ泣き虫とかは昔のミナトに似ている。
母親ポジには大蛇丸さんが何故か居座った。止める人間は、いない。そして驚いたことに名づけ親はダンゾウ先生。これはもう、逃げ場がない。


俺は今、子育てに忙しかった。


****

補足
波風イツキ
試験官ベイビーな主人公の息子。成長すると赤髪ミナトっぽくなる予定。赤ん坊時代から父親大好きで母親振る大蛇丸が苦手。会う度にお小遣いくれたり、誕生日や記念日にプレゼントを送ってくるダンゾウには愛想よく振舞う。戸籍上はナルトの従弟で一つ下。



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