犯行予告時刻まで、あと――…。 時計の秒針がカチリと動いた。 口端が上がり、怪盗キッドこと黒羽快斗はお決まりの科白を口にした。 「Ladies and Gentlemen!!」 そう言い切った後にボッカーン!と激しい爆音を響かせ炎上した目的地に目を見開いた。 「あれ?なんで勝手に爆発したの?」 京極明は手の中に握る操作装置を確認して異常がないことに首を傾げた。 時限爆弾ではないそれが発動するのは恐らくキッドが侵入するだろう右側の窓が開閉されると同時に連動的に爆発するよう仕掛けれれていたのに…、とそこまで考えて上を見れば見慣れないけど見知ったシルエットに「あ、」と声を洩らした。 「ぜぇ、はぁ、・・・・お、オメェーマジ信じらんねぇ。ほんとに本物使ったのかよ」 「あ〜……や!めいたんてーさん」 明は自分の計画が失敗したのは彼のせいかと認めるなり次の手を思考した。最終手段の我が兄はウォーミングアップがてらに毛利蘭ちゃんと手合わせ中だし、園子ちゃんもそっちに行ってもらったからここには自分しかいないと計算していたが成程…名探偵さんは来ちゃったのか。 「大丈夫?息切れすごいね」 まぁ落ち着けと持参した水を差しだせばグイッと一気に飲んだ。おお、男らしい。 「はぁ…っ。なーにが『大丈夫?』だ。お前怪盗キッドを殺すつもりか!?」 はて?と首をさっきとは反対方向に傾げてみる。 「なんで?」 「(コイツ本気で分かってねぇのかよ)だから、爆弾なんて仕掛けたら普通死ぬだろ」 「来なければいいじゃん」 明は真顔で言い切った。 態と事前にそのことを目の前の探偵にばらしたのもそのためだ。要はどこかで聞き耳立てている怪盗さんがビビッて来なければいい。そしたら危なくない、私もみっしょんこんぷりーと!棒読みでそういえば何故か項垂れるコナンくん。 面白いので取り出した携帯でパシャリと一枚写しておく。 「あ、まあ、いや、だから!」 「ご、ごめんなさい!わ、私…本当は怪盗なんて怖くて!」 「(はっ!そう、そうだよな。いくら頭がよくてもコイツは正真正銘小学生なんだから普通は怖がって過剰なことやらかすのも頷けるか)そっか。なら俺と一緒に『な、わけないでしょー ばぁーか』…」 ピシリと音を発てたように硬直するコナン君。 どうせだからもう一枚写しておいた。 にしても可笑しいなぁ。昔真実お兄ちゃんがよく炎上させてたからこれが普通だと…あ、普通じゃないか。でも今回燃やしたのって近隣に影響がない建物だし、京都とか東京都丸ごと火をつけたわけじゃないのになぁ。 あれ?どこまでが普通で許される範囲だっけ? うーんと唸っていたら隣の名探偵から「ダメだコイツ早く何とかしないと」とかブツブツ呟かれた。失礼だなぁ。 「大丈夫?コナンくん!明ちゃん!」 「あ、蘭…姉ちゃん」 「……」 凄い音がしたから来たんだけど二人とも怪我はない?と心配する彼女に応えるコナンくんは「はれ?」と気の抜けた声を洩らしてそのまま蘭さんに凭れかかるように倒れた。 「コナンくん?!」 「大丈夫だよ、ちょっと黙っててもらうために眠らせただけだから」 「え…?」 「ダメだよねぇ、よく知らない子どもから飲食物をもらうなんて。何が入ってるか分からないのに…ね?怪盗キッドさん」 ――いや、普通のガキが睡眠薬なんて飲食物に盛らねぇよ コナン君を抱えた状態の蘭…もとい怪盗キッドは目の前で悪魔より悪魔らしい兇悪な笑みを浮かべる小学生に戦慄した。近頃のガキ、まじ怖い。二ィィと上がった口端にとてもじゃないが無邪気に笑って自身のマジックを褒める公園のちびっこと同年代とは信じたくなかった。寧ろ同じ人間なのか。 腕の中の名探偵もそりゃあ怪盗じゃなければ死んでるんじゃね?ってくらいのことをしてくる。が、それはあくまで獲物を盗ってからであって、盗る前に命の危機を感じたのは久しぶりだ。 ブルリと震える肩を何とか抑えて引き攣りそうな声も我慢する。ポーカーフェイスは忘れるな、か。だけど親父…それは相手にもよるんじゃね?これ絶対やばいって。 「いいなぁその顔…他人の不幸は蜜の味って言ってたまことさんの気持ち、ちょっぴり分かるわぁ」 あ、そっか、コイツ真性のゲスだ 命からがらその場から逃れた怪盗キッド。翌朝の新聞の見出しに『キッド、盗みに失敗』と書かれていたが逃げたことに後悔はない。 (最も出会いたくない恋人があの名探偵なら、アイツは ) 同時刻、お手柄だと褒めれら明は兄のまことさんに勝ってもらったドーナツを美味しそうに頬張っていたとか。 逆に考えるんだ、逃げて正解だと |