カラコロ・・・コンコン!


玄関ホールから二階への長い階段の中段目にいたジョースター卿は上から落ちてきた小さな贈り物を拾う為、仕立ての良いスーツで膝をつき親指と人差し指で掴んだ。左右の窓から差し込む光がドングリの表面を照らした。

誰もいない上段に向かってジョースター卿は云った。

「ありがとう」





 その日はディオ・ブランド―がジョースター家にやってきた日である。

毒を盛るレベルで嫌っていた父親が漸くくたばったかと思えば信じられないことに自分はその父の伝手で貴族の家に迎えられることになったのだ。恩があるだのなんだの言っていたがどうせまた騙したんだろうと父親の事を全く信じていなかったが使えるものは使ってやるとディオはジョースター家に向かった。

そして屋敷の前に同い年らしい子供がこちらに気づいたのか様子を窺っている。

(あれがジョナサン・ジョースターか・・・)

間抜けそうな面をしている。ディオは鼻で哂い、馬車が止まると同時に外に鞄を投げ捨てた。注目が馬車に向けられた次の瞬間、ディオは飛び出した。華麗なジャンプ、そして着地、本来ならば無理なはずの体勢から身体を起こす、バァ―――ン!!と効果音が聞こえたことだろう。

決まった・・・ディオがそう思ったが


「(なっ・・・?!!こ、この汚らしいアホが!俺の華麗な登場シーンを見ていないだと?!!)」


てっきりディオに集中していると思ったジョナサンの視線は不自然に膨らんだ彼の上着のポケットに向けられている。何だ?と思いそちらを見ればジョナサンが隠すように手で視界を遮った。ちっと舌打ちしそうになったがジョナサンが「君はディオ・ブランド―だね?」と近寄ってきたので「そういう君は ジョナサン・ジョースター」と漸くお互いの視線が交差する。


二人の時間は犬の泣き声で終わりを迎える。はっ!はっ!と舌を出しながら駆け寄ってきたから犬嫌いのディオは躊躇いなく・・・


フン!!
――キャウウウン!!


可哀想にダニーは予期せぬ攻撃をまともに受けてしまう。当然ダニーの友人であるジョナサンは目の前で行われた非道に怒りを抱き、ディオを睨みつけた。逢って10分もせぬうちに彼らはお互いが相容れぬ存在だと本能的に理解した。


ジョナサンは何故かポケットを庇いながらダニーを抱きしめ、ディオに云った。
「君にこれ以上僕の友人を傷つけさせないぞ!!」


その時は何のことを言っているんだ思ったが数日もすれば使用人の立ち話を聞いて嗤った。


「(ハハッ!ジョジョの奴・・・あの歳でまだトトロなんておとぎ話を信じているのか!!)」


誰にも見えないジョナサンの友人。ディオはそれを嗤った。もし見えようものならジョジョの前であのダニーにしたように痛めつけてやろうと思ったほどだ。

ディオにとって滑稽なことにジョースター卿までその存在を信じているから救えない、この屋敷はやはりこのディオが物にしなければ誰かに騙されて落ちぶれるだろうと思った。


ディオの死んだ母もトトロの話を信じていた。
「小さな白い綿のような柔らかく、それでいてお日様のように温かいのよ!」
まだ小さなディオに懐かしそうにそう言っていたが母が死に、擦れていくと同時に子供の純粋さを躊躇なく溝に捨ててきたディオは13歳ながら全く信じていない。

だからジョナサンの語るトトロも彼の妄想だろうと馬鹿にした。


まだ夜が明けたばかりの早朝、咽の渇きを感じたディオは水差しを手に取ったが昨晩は寝苦しかったため空にしてしまったことを思いだし、時間も時間だからと厨房へ足を向けた。

明かりを取ってゆっくり階段を降りる。が、立ち止まった。


「(ジョジョ?誰かといるのか・・・?)」


ジョジョの声が聞こえた。自分と同じ方向から聞こえたということは目的も同じだろう。顔を合わせたくないと思ったディオはジョナサンが先に行くよう身を隠しやり過ごすことにした。だがジョジョは誰かと会話をしながらこちらに向かってくる・・・。

そっと覗いたディオが見たのは・・・


「なっ・・・!!?」

ばっ!と思わず漏れた声を抑えるため手で口を覆い、隠れる。


「あれ?今何か聞こえたような・・・ううん、気のせいだね。早く戻ろう、トトロ」


くいくい!と上下に頭を振る白い雲みたいな生き物はジョジョの肩に乗っていた。
茫然とそれを見送るディオ・・・・「トトロって本当にいたんだ」
彼の呟きは誰にも聞こえず消えていった。


住みついた生き物
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