イタチが明と会って一目で恋に落ちたのは偶然であり必然だった。
明は賢い子どもだった。イタチ同様に、名家とはいかなくとも忍びの家庭に生まれていたら木の葉が誇る忍びへと成長していたことだろう。


しかしながら彼女は忍びではない一般家庭に生まれ、親も彼女の素質に気づいていてもそれを活かすことはさせなかった。店に来る客も上忍クラスになれば彼女の才能に気づき、忍びとしての道を進めてきたがそのたびに彼女の両親は「じゃああの子が死にそうになったとき貴方は自分の命を賭けてくれるのか」という問いには応えられなかった。忍びには死がつきものだ。誰かに強要されてなるものではない、自分の意志で選ぶ必要がある。

彼女の親は娘の才能に酔う以前に娘の幸せを望んでいた。


イタチ同様敏い子だった。だがイタチにはない、純粋さが彼女にはあった。
どれだけ強くなろうと手に入らない生来のもの。旧家に生まれたイタチがすぐに捨てさせられたものを彼女は誰よりも強くその心に持っていた。



うちは一族のクーデターが進められ、イタチの心は荒れていた。
どうしようもない、このままでは恐らく・・・。
その先は謂わずともうちはに未来がないことが明らかだった。争いを嫌う、優しい男には一族の考えが理解できなかった。いつからだろう、親が自分を見なくなったのは。

「うちはイタチ」ではなく、「うちは一族のイタチ」としてしか見なくなったのは。

何のために強くなったのか。少なくとも強さを求めたあの頃はスパイに抜擢されるためではなかった。
頭が痛い。胸も痛い。誰か、誰でもいい、俺を助けてくれ!!

イタチの声なき悲鳴を聞き取れる者はいない。相談したくともできない。板挟みにされた彼が向かったのは甘栗甘だった。

昔母親に買ってもらって以来、すっかりお気に入りとなった店。最近は忙しさの余り、ここで一服なんてする暇もなかった。ふらりと暖簾を潜り、適当に空いた席に腰かけ、イタチに気づいたここの奥さんに「いつもの」と常連らしい言葉を告げる。「はいよ」と返ってきて、奥の方に向かってそこで作っているのだろう店主の声も聞こえた。

出されたお茶を一口飲む。熱すぎず、絶妙な加減だ。湯呑を回すとお茶の濁りも変わる。
自然と口元が緩んだ。この感覚は久方ぶりだった。


もう一口飲んだところで「気を付けてね」という奥さんの声にはて?と疑問に思ったが、そういえば奥さんたちには娘がいたことを思い出した。歳をとってから出来た子だからか、かなり激愛しているらしい。その子が店のほうに顔を出すころには俺も暗部入りをしていたので忙しく、まだ逢ったことがない。

背後から近づく小さな気配に屹度この子がその娘なのだろうと予想した。
何となく、弟と重ねて「ありがとう」とでも言って受け取ろうと思った。

そして振り向き、彼女の顔を、その纏う空気を一目みて先ほどまでの頭痛はどこへやら、鐘が鳴り天使がラッパを吹いた。


言葉にすると『澄』、聖女ともいえる清らかな雰囲気に、なにより特徴的なのはこちらを見つめる凛とした眼差し。恐らくサスケと同じ年頃だろう、なら俺とは五つほど離れている。
だが構わない。彼女が欲しい。他の誰にもゆずりたくない。強い独占欲が俺に生まれた。


だから、





「・・・・お前の名前は?俺はうちはイタチだ誕生日は6月9日の双子座でAB型、歳は11、忍者登録番号は012110で中忍兼暗部に所属している。アカデミーは七つのときに飛び級で卒業した。身長は今は158センチほどだがまだ伸びるだろう俺の予想だと170後半は確実だ。好きな食べ物は昆布のおむすびとキャベツ嫌いな食べ物はステーキで好きな言葉は平和、趣味は甘味処巡り、特にここ甘栗甘が格別だと思う。家族構成は父、母、5つ離れた弟の四人家族、長男というのが玉に瑕だろうがうちの母は嫁いびりなどするような人じゃないし、万が一そんなことになっても俺が全てどうにかしよう。父が頑固者というか厳格な人だが屹度嫁には優しくなるだろうし、弟も素直でないだけで案外可愛いやつだ。稼ぎもあるし、将来有望だと自他ともに認めている」



呼び止め、つらつらと自分のことを語った。どこにも行かせないと握った手の小ささにすら感動し、欲情する。そんな趣味ではなかったはず、いや、彼女が俺より幼いだけだ、もし年上でも同じことをしていただろう。


この感情は彼女にしか向かない。

名を尋ねた。明という名を頭の中で何度も繰り返す。



俺は何のために強さを求めたのか、
戦争を回避するため?うちはとしての誇りのため?それを周りから求められたため?


違う、俺は

「明に会い、彼女を幸せにするために求めたんだ」


いま漸く分かった。嗚呼恋をして、生きる意味を見つけて、俺は今日という日を忘れないだろう。だからシスイ、俺は恋に生きるとたった今誓った。馬に蹴られたくなかったらこの手を離せ。俺の手は明の小さな柔らかく繊細な手を握るために存在するんだそれ以外のために使うなど無意味(ナンセンス)だ!



おわり


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