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整合された庭


叶さまリクエスト

人魚石IFマダラ娘


***




これはまだ五大国に隠れ里が出来て間もない頃のお話である。

他国で世を騒がせる泥棒がいた。
泥棒と言っても人殺しはしないし、狙うのはいつも裕福な家庭ばかり、
その泥棒は代々泥棒家業に営む家の出身で、一族の中でも飛びぬけてその手の才能が高かった。泥棒歴20年の大ベテラン、ここ最近で一番大きかった仕事は大名家の財宝を頂戴したことだろう。

鮮やかな手際、新聞の一面を飾った彼は有頂天だった。
一族の者から讃美の声に浮かれていたのである。


(俺は今なら何でもできる!!どんな家だって敵なしだぜ!!)


しかし胸を張り堂々と道を歩く彼の耳に届いたのは讃美に混じった、今まで誰も出来なかった挑戦の話が聞こえた。いつもの彼なら不可能だと感じただろうが今の彼は無謀な挑戦に挑むことにしたのである。


「じゃ!いってくる!」


見送りではなく引きとめてくる家族を余所に彼は颯爽と家をでた。目的の屋敷に着くころには時間もいい頃合いだ。月明かりも乏しい空は彼らにとって最高な条件である。

天も俺の味方だなぁとご機嫌で浮き立つ足を出来るだけゆっくりと動かした。


彼が狙った屋敷は今まで何人もの同業者が挑んだが帰ってこれなかった魔窟。陽の下でみたらさぞかし立派であろう屋敷も丑三つ時には不気味にしか思えない。

しかし今の彼にはそんな屋敷も光り輝く黄金の塊でしかなかった。


「先輩たちの調査ではあの屋敷の子ども部屋がねらい目だったはず・・・」


先人たちの犠牲を無駄にしないのが彼らの掟だ。なんとこの魔窟の主は親馬鹿で有名らしく、一人娘の子供部屋に30畳以上の広さを与えた上に高価な着物や玩具用の物置として他に何部屋もあるらしい。
なんて贅沢な餓鬼だ。親も親である。

仕事は違えど敵はかなり高名な忍びの家系らしい…だがここ数年は戦争も起こっていなため以前ほど脅威ではないとされている。屋敷の見取り図も尊い犠牲の下作成済みだ。

浮かれているとはいえ俺だってプロだ。下準備だってばっちりだ。

「いざいかん!」



・・・そうやって意気込んだはずだった。

「(おいいいいいいいい!!なんだよこの広さ!!)」


無事侵入できたはいいが、情報よりも部屋の広さが半端ない。よくよく見ると屋敷全体が地図と違うような・・・でも類似点があるのでここ数日で増築したのか?一体どうやって?


それにしても不気味な部屋だ。子ども部屋らしく内装は可愛らしいが、溢れんばかりのぬいぐるみの数は可愛いを通り越して軽く恐怖してしまう。ぬいぐるみの軍隊収容所のような部屋はこの後三部屋も続いたせいでもある。

四部屋目には桐ダンスが所狭しと並んでいる。そっと開けてみればいい反物ばかり入っている。それに手を伸ばそうとして思い留まる。皆にデカい口をきいてここまで来たのに持って帰ってきたのは子供の着物だけとは俺の名前が廃る!!


彼はそのまま奥へ進むことにした。五部屋目には本棚。流石に衣装部屋は一部屋か。ちょっと意外だと思ってしまうあたり彼もこの屋敷の非常識さに慣れてきている。
しかし彼の予想に反して衣装部屋ならぬ衣装ハウスがすぐ近くにあったりする。しかも現在進行中で家は増えいたりもする。一夜どころか一瞬で小さなログハウスを建設できる男が屋敷の主にこき使われているのである。


六部屋目の前で彼は人の気配を感じた。ところで何故忍びの屋敷でここまで侵入して家の人間に気づかれないかといえば彼の一族の秘薬を呑んでいるからである。解毒薬とされる対を呑まなければ一族の者にも認識されない謂わば透明人間になれる妙薬の効果は彼に自信を持たせた。


彼は取っ手に掴み、そしてゆっくり開く。



そこは情報通りの三十畳くらいの寝室。玩具部屋を越えてから家のつくりが変わっていたため部屋の内装も可愛らしさはあるが古風になっている。
外側からは見えない位置にあったので気づかなかったが今どき珍しい寝殿造り。渡殿を慎重に進めば今の季節、窓を開ければ快適に眠れるからか格子を開けて寝たのだろう。ふふ、泥棒には好都合だ。

中央の御帳台に人の気配が一つ。なんて贅沢者の子どもだ。
にしても随分大きな・・・兎に角騒がれると面倒だから身体に害のない薬を嗅がせてぐっすり眠ってもらおうと近づいた。

深く布団を被っているため顔も見えない。

布団に手を掛けゆっくり捲って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒィィッ!!?????


すぅ・・すぅ・・と気持ちよさそうに眠るのは可愛い幼子ではない。予想外に大きな子どもでもない。大人だ。大の大人、それも男だ。しかもイケメンだ。


自分よりやや年下の男が桃色の布団に包まっているだとッ?!!

屹度幼い少女の部屋なのだろうと思ってしまうほど御帳台の周りは巨大な兎やら猫のぬいぐるみが鎮座している。その中に囲まれて眠っている。



今までにない恐怖だ。この仕事をしていると人間って外見と趣味は一致しないことくらい重々承知だったがこれはない。普通イケメンならこんな幼女趣味満載な空間すら溶け込めるスペックを持っているものだが何故だろう、この男からは寒気と恐怖しか得られない。

ここは危険だ、今すぐ手を引こう。

ゆっくり後退していくが布団を捲ったせいで露わになった顔が歪められた。起きるのか?!しかし男は顔を歪めるだけでその気配はない。それどころか突然泣き出した…鼻を啜り、さめざめと眠りながら泣いている。


「うっ・・・ぐすっ・・・・名前ぇぇ〜・・・」

声も美声だが背を丸め桃色の布団に包まりながら情けない様子を見せてくる。


「(しかもよく見るとコイツあのうちはマダラじゃないか?!!)」


男はそのイケメンを知っていた。燃え盛る戦場でもっとも禍々しくその存在を主張していた化け物の恐ろしさを一度だけ見たことがあったのである。

そう、泥棒の彼が侵入したのはマダラの屋敷である。彼と、弟と、娘の三人で暮らすには広すぎる屋敷で使用人はここに住んではない。娘の部屋に侵入したのにいたのはマダラである。イズナはマダラが明日まで帰らないと思ったので姪を連れて千手にお邪魔している。仲が悪い癖によく一緒にいる扉間とイズナに挟まれた名前はギャーギャー騒ぐおっさん二人を余所に綱手とミトで癒されていた。
まあ結果ダッシュで任務を終え帰宅したマダラは出迎えも書置きもない屋敷で一人寂しく寝ることにしたのであった。



なんとかこの屋敷から抜け出した泥棒の彼は金輪際忍びの屋敷には手を出さないと心に誓った。


***


おまけ ミトと綱手と名前の会話


「綱もちゃんと自分のお部屋は綺麗にしないとダメよ?でも名前のお部屋は凄いわよね」

「・・・ああ、あれ。」

「ぬいぐるみだらけだよねー!名前姉ちゃんだから可愛いけど、前にまーだのおっちゃんがいたのには気持ち悪かった!」

「(もう見慣れたからなぁ)」


翌朝イズナと帰宅すると名前の自室で眠るマダラがそこにいたそうな。



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