犯人を捕らえろ

執務室へと戻ったディーラは思わず息を吐き出し、椅子へと腰を下ろす。そのまま高級なデスクに突っ伏し、少し思考に浸る。

キメラを精製するためにどれだけの犠牲を出しているのだろう。人間をベースにしていることは明らかだしそれによって無関係な人達が巻き込まれている。
しかし、何故そんなものを作り出そうとしているのかがわからない。そして、人を殺す理由も。
根本から叩かなくてはいけない、そうは言ったもののどこから出現しているのか未だに掴めていない。クレーニヒが必死に探し出しているが、相手は慎重なのか、それとも相当のやり手なのか中々尻尾を出しはしない。騎士団に協力を仰げば、少しは負担が減るかと思いきやそんなことはなかった。
だが、交戦経験があるのはありがたい。戦う準備が些か楽になるだろう。

そんなことを考えていると、コンコンと控え目なノック音が響く。


「誰だ?」

「大元帥、クレーニヒです。少しお時間よろしいでしょうか?」

「入れ」


失礼します、と声が聞こえドアが開かれる。敬礼をし、クレーニヒは部屋の中へと。
ディーラは緩慢な動きで起き、身体を椅子の背凭れへと預ける。


「どうした?」

「怪しい施設を発見しました。そこへの潜入を許可していただきたく……」

「具体的には?」

「前に研究所として使用されており、今では廃棄されているのですが……時折、起動しているとのことです」


そういうことならば、あの二人を動かさなくてはいけない。さっきまで会議に出ていて憔悴しきっているエラルドには酷な話だ。だが、彼は真面目すぎる、だからきっとこれを命令すればなんの抵抗もなく行ってくれるのだろう。極秘にしておけ、と上から言われたことが今更になって妨害をする。ディーラは些かイラつきながら端末を手に取る。


「……エラルド、オルトをつれて執務室まで来てくれ」

『承知いたしました』


短い返事を聞き、通信が途切れる。ディーラは端末を放り投げ、はぁ、と深い溜め息を吐き出す。そんな様子にクレーニヒも困ったような表情を浮かべる。
最近、軍全体がぴりぴりしているのは恐らく、ディーラも憔悴しきっているからだろう。それでもこうして動いているのは彼女なりの意地なのだろう。


「……何か、お飲みになりますか?」

「……珈琲を、頼む」


クレーニヒの気遣いに、ディーラは申し訳なく思う。一番上がこんな状態ではいけないのにと思う反面、部下がこうして優しいからついつい甘えてしまう。
暫くすれば、再びノック音が聞こえて。


「エラルド、オルト入ります」

「すまないね……クレーニヒ、説明を頼む」

「はい」


コトリ、と卓上に珈琲が入ったマグカップを置きクレーニヒは二人に書類を手渡す。その際に彼はエラルドを見遣ると、少しやつれているようにも思えた。


「ここから南西の方角にある、廃棄地帯に一つの研究所が稼動しているとの情報が入りました。お二人にはそこに潜入をしていただきたいのです」

「……わかりました。今すぐ、の方がいいですよね?大元帥」

「そうだな。上層部は可及的速やかな事件解決を望んでいるためにね」


彼女はクレーニヒが淹れてくれた珈琲で一度喉を潤してから続けた。


「その場での判断は二人に任せる。だが、万が一危険だと感じた場合はすぐに引き返せ、いいな?」

「はい」


二人は揃って返事をし、敬礼をする。


*


「隊長、本当に大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……」


時間は深夜。他の特攻部隊の仲間達は眠りについているのだろうか。
そんな中、命令が下った二人は着々と準備を進めており、情報整理をしている。


「……サポート、頼む」

「はい……俺が先行しましょうか?」

「……そうだな、警戒しきれない気がする、今の状態じゃ……」


彼にしては、珍しく弱気の発言が連続しておりオルトは不安に思う。会議には直接参加しなかったが、話を聞くだけでどれだけ大変だったかは容易に想像できた。ディーラだって、一目見ただけで精神的に削られているのがわかった。

極秘任務を行うのは、実際は初めてだ。上層部がなぜ極秘にしたのかはわからないが、それなりの……上層部にとっては大切な、軍としてはバカバカしい理由がきっとあるのだろう。だが詮索するのもめんどくさい、目の前の任務に集中しなければ。

オルトは眼鏡を外し、サングラスをかける。あらかた準備が整い、エラルドに声をかけようとするが、ふと彼を見るとフードを握ったままぼうっとしていて


「……隊長」

「ッ、……」


声をかけられ、動きが止まっているのが理解できたのだろう、エラルドは慌ててフードを被り、その上から透明な分厚いゴーグルをつける。


「……たいちょ」

「なんだ?」


オルトはスッと両手を広げる。意味することを理解したのか、エラルドは少し迷ってから、フラフラと彼に近づきその身体に抱き付いた。背中に手を回して、オルトの肩に口をつける。
まるで子供をあやす様に彼はエラルドの背をさする。


「……すまない、ありがとうオルト」

「はい。たいちょ、そろそろ」

「あぁ」


メインは珍しくハンドガンのみ。サブにエラルドはコンバットナイフを、オルトはクロスボウを持っていた。あくまで制圧のみを目的とした武装だ。
制圧、そして犯人確保までスムーズに行けばよいのだが……

二人は部屋を出て、エレベーターへ乗り込み最上階へ。
小型ヘリが、用意されており、これで目的地へと向かう。


*


「ここでいい、あまり近付いて見付かるのもあとで困る」

「了解しました、エラルド中佐、オルト少尉……お気をつけて」


操縦者は声をかける。それに対しエラルドは目配せだけをして扉を開く。まだヘリは空中におり、並みの人間がここから地上へと落ちれば無事ですまない高さをホバリングしている。


「オルト、合図したら降りて来い」

「はい」


エラルドはそう言うとなんの躊躇いもなく、空中に身を躍らせた。下方は木々があり、雑木林となっているために地面はあまり見えない。

バサリ、とエラルドの背から緑の葉で出来た翼が出現しその場で停止する。まだヘリに乗っているオルトが扉から顔を出し合図を待っている。彼は片手を上げて降りて来いとの合図をすると、またオルトも慣れた様子でヘリから飛び降りる。エラルドは緑の蔓を出現させ、落ちて行くオルトの身体に巻きつけそのまま飛行を開始する。

暫く飛行していると、不自然に光る建物を発見。静かに降下していき地上へと降り立つ。


「オルト、頼んだぞ」

「はい」


なるべく足音を立てないように走り出すオルトに続く。建物は近くで見るとそこまで大きくはなく、一軒家と変わらない印象を受ける。しかし、外装は長年晒されていたためか朽ち果てここに住むことはできないと容易に想像できる。しかし、窓だったものからは淡い光が漏れ出しており、誰かがここを使用していることが窺える。
オルトはあたりを警戒、特に何もない事を確認してから建物へと近付いた。扉らしきものは少し修理した後が残っており、確かに手が入っている。

静かにハンドガンを引き抜き、オルトは扉に手をかける。

瞬間、異常な殺気にエラルドが気付き無意識にナイフを取り出して腕を後方へと振りながら振り返った。グチュリ、と何かを刺す感覚が確かに伝わってきてエラルドは正体を見る。
そこには、会議で見たキメラと似て非なるものが大きく口を開けてエラルドに襲い掛かろうとしていた。会議で見たものは翼が確かなかったはずだ。
音で気付いたのか、オルトも振り返りキメラへサプレッサーのついたハンドガンのトリガーを引いた。バスン、とくぐもった音が響き、銃弾が放たれる。

キメラは声を上げずに死んだようで、エラルドのナイフに重みが一気に増した。それを振り払うようにナイフを動かし、死体を見詰めた。


「大丈夫でしたか!?たいちょ!」

「あぁ、どうやら警備用のキメラらしいな……」

「でも……」

「恐らく、範囲内に邪魔者が入ったら動くシステムなんだろう。それか、臭いで区別しているか……だな」


憶測を並べるも、答えは出てこない。だから


「オルト、派手にやれ」

「……はい」


オルトも容赦せずに扉を蹴破り、内部へと侵入を開始。エラルドも背後を警戒しつつオルトに続く。中もかなり荒廃しておりとてもじゃないが住める環境ではない。だが、入り口のすぐ近くに不自然に真新しいカーペット、そしてそこが盛り上がっている。オルトが乱暴にカーペットを剥ぐと、床に扉が出現、おそらく地下へ続くものだろう。鍵がかかっているものかと思いきや、それはすんなりと開き二人は地下へと足を進めた。

階段を下って行くと、もう一つ扉が出現し、オルトがエラルドに目配せをする。彼は声を出さずに頷く。
ガァン、とオルトは再び蹴り開ける。


「だ、誰だっ!?」

「動くな」


エラルドの鋭い声音が響くのと同時に、オルトはハンドガンのスライドを手で引いて弾丸を薬室に装填。それを部屋の中にいた男性二人に向けた。


「なんで、ここが……!」

「兄貴、今完成したのがいる!」

「早く射出だ!」


奥の方から稼動音、エラルドは目を細めて左手にコンバットナイフ、右手にはハンドガンを握り締める。オルトも音に気付いたのだろうサングラスの下にある眼は警戒の色を宿している。

瞬間、何かが唸り声を上げ飛び出してくる。
二人はそれぞれ左右に回避、相手を見定めようとする。身体はライオンなどの四足歩行の動物を想像させられる、顔は人間なのだが、口元は明らかに牙と見られるもの、耳はあらゆる音を聞き逃さないようそこだけ獣染みている。尻尾も生えており、先端にははたまた何らかの動物の頭部がくっついており、それは忙しなく口を開閉しており不気味だった。
オルトはなるべく心を無にして、照準をキメラの眉間に合わせるが、それよりも早くエラルドが喉元に向かってナイフを振るっていた。
しかし、そのキメラが咆哮とも、叫びともとれない音を部屋に響かせた。瞬間、頭が直接揺さ振られ、眩暈と頭痛を発現させる。
怯んだエラルドをキメラは鋭い鉤爪で切り裂こうとするが、オルトがいち早く危険を察知し彼の身体を抱き寄せた。


「オルト、お前耳は大丈夫か!?」

「……ッ、?」


どうやら、声が聞こえてないらしい。先程の音で、元より聴覚が鋭いオルトには厳しかったのだろう、表情を歪めながら首を傾げる。
そこでエラルドは自分のハンドガンを彼に握らせる。
何をしようと気付いたオルトは頷き、二丁のハンドガンを構えた。

エラルドが駆け出し、オルトは照準を合わせる。再び、キメラが咆哮を仕掛けてこようとするところを、オルトは一寸の狂いもなく、キメラの喉元へと銃弾を連続で放つ。


「グギャア!?」


そのキメラは唐突に喰らった銃弾に咆哮をとめた。その隙にエラルドが脳天目掛けてコンバットナイフを突き立てる。程なくして、キメラは生命を停止する。


「な、なんだこいつら……!」

「動くな、こちらも無駄な死体を出したくない」

「ひ……!」

「膝をつけ、手を上げろ」


男性二人は言われたとおりに、地面へと膝をつき両手を上げた。コンバットナイフの刃の部分を口で挟み、懐からロープを取り出し二人を拘束。
無駄な抵抗をしないだけありがたい。まさかキメラとの戦闘はあると思わなかったが。エラルドはコンバットナイフをしまい、オルトへと視線を向ける。すると、耳を押さえており、いまだにその表情は苦しそうだった。

エラルドは早く撤退しようと、男性二人を立ち上がらせ、部屋を出た。
迎えのヘリは、すぐ近くで待機してくれていたみたいで、どっと押し寄せてきた疲労の波を感じざるを得なかった。


*


本部に戻ると、迎えてくれたのはフローラだった。前もってエラルドが事情を伝えたためだろう。まだ日が昇る前だというのに申し訳ない、と思いながら彼はオルトを彼女へと預けた。聴覚は復活したもののあまり左腕で拳銃を扱わないためか、少し痛みが残ってしまっていたらしくそれを診てもらうためにフローラを呼んだのだ。


「たいちょ、ちょっと行ってきますね」

「あぁ」


そのまま、エラルドはディーラの元へと向かう。男性二人も連れて……だ。
執務室の扉を軽くノックすると、中からディーラの声が聞こえエラルドは失礼します、と言いながら扉を開いた。


「……エラルド、二人が?」

「えぇ、この二人が一連の犯人と見て、問題ないみたいです」


思ってもいなかったことにディーラは僅かに目を見開いた。まさかこんなに簡単に犯人が捕まると思っていなかったし、しかも会議したのはものの数時間前だ、数週間ぐらいはかかると踏んでいたのだが……

後にいた男性二人はまさかエラルドが軍の人間とは思っていなかったらしく、少々蒼褪めている。だが意地なのだろうか、強気な態度は崩してはいない。


「へぇ、あんたが大元帥さんなのか、女だとは意外だな」

「……君達が、キメラを作り出した犯人かい?」

「あぁそうさ。すばらしいだろ?俺達の言いなりでかわいいものさ」

「なぜ、人を殺そうと?」

「それをあんたに伝える必要はないね……」


男達の反抗的な態度に、エラルドは思わずハンドガンを抜きそうになるが、ディーラが立ち上がったことによりその手は止まる。

彼女は耳打ちで彼に伝える。


「地下で吐かせろ、殺さないようにな」

「承知」


珍しく、冷酷な声音でディーラは言う。エラルドも半ば分かっていたように頷き男達を引き連れて地下室へと向かう。

地下は所謂、拷問所みたいなところで、犯罪者達の悪事を吐かせる為に作られたものだ。この場所を使う機会は滅多にない。それころ一年で数回、二桁いくかいかないか、それほどの使用率だ。
これを使う状況というのが、まず一つ犯人を怖がらせ素直にさせる、もう一つが……ディーラも本当はいけないと思っているのだろうが、個人的な理由で単純にイラついているか……その二つに分けられる。今回は後者だろう。
エラルドは息を吐き出して、二人をそれぞれ椅子に座らせ自分は目の前に立つ。


「なんだ軍人さんよぉ、ここで怖がらせて吐かせようってか?」


最初に遭遇したときの怯えた表情はなんだったんだ、というぐらいには今はふてぶてしく、笑みすら浮かんでいる男達。
エラルドも直接的な被害はなかったもののオルトに無理させてしまった原因を作った男達にひどくイラついている。


「早く話したほうが楽になれる。俺も無駄に体力を使いたくない」

「はぁ?てめぇ舐めてんのか?こっちは生きるか死ぬかっていう状態でやっと生きてるのによぉ、のうのうと裕福な暮らししてるてめぇなんかに話すことなんかねぇんだよ」

「……ほう?それが人を殺していい理由になるとでも思っているのか?」

「俺たちが直接やってるわけじゃねぇだろ?」

「それでも原因はお前達にあるだろう」


ピクリ、と男の眉が動く。


「んだよその偉そうな態度……てめぇ、狭間だろ」

「……だからなんだ?」

「いいよなぁ、俺達純粋にはない力持ってるもんなぁ?その力で普段も脅してんのかぁ?」

「……無駄な話はするな」


ふつふつと怒りが底から沸いてくる感覚に、エラルドは無意識にハンドガンのセーフティーロックを外していた。それには気付いていない様子で、男達は更に彼を煽る。


「狭間はいいよなぁ、その力で無理矢理俺達みたいな純粋を押さえつけられるもんなぁ?なぁ、お前の両親も狭間だったのか?」

「……」

「だんまりかよ。でも、純粋の大半って狭間のこと嫌いらしいし?実際俺達もそうだしよぉ」


そこで、地下にエレベーターが到着する。


「たいちょ……」

「お?片割れか。お前も狭間だよなぁ?」

「は……?」


話が分からず、来て早々話を振られたオルトは目を細め息を零す。


「なぁ、こうして人を脅すの楽しいか?俺達、なんの力もない純粋を脅してよぉ」

「……無駄口叩くなら、こちらの質問に……」

「てめぇらに話すことなんてねーよ。なぁ、何で軍人になったんだ?俺達みたいな純粋を脅したいからか?」

「……__!!」


言葉は違えど、それでオルトのトラウマを呼び起こすには十分すぎた。
兄を失い、強くなり、いつかは復讐しようとしていた当時の自分が呼び起こされ、彼は小さく声を漏らした。それに気付いたエラルドは振り返り、彼の肩をつかむ。


「オルト、しっかりしろ」

「……ぁ…………大丈夫、俺は、大丈夫です」


その様子に二人も気付いたのだろう。男達は続けた。


「なんだよ、図星かよ。もしかして、本当に殺したくて軍人やってんじゃねぇの?」


今度、その言葉に反応したのはエラルドだった。


「……おい」

「あ?」

「今から選択肢をくれてやる。ここで死ぬか、生きるか、どっちがいいか選べ」

「やっぱり殺したいんじゃねぇか!俺達とお前、かわんねぇじゃんか!」


ブツリ、と音が聞こえたような気がした。気が付けば、エラルドはハンドガンを引き抜いて撃鉄を起こし銃口を男達の片方へと向けた。
まさか、本当に銃口を向けられると思っていなかった片割れが慌てたように、だがまだ煽る口ぶりで言葉を吐き出した。


「んだよ、殺すのか?やってみろよ!てめぇみたいにのうのうと育って来た奴にできるか?」


暫く沈黙。そして、エラルドの冷酷な声音はこう告げた。




「死ね」




ガチ、と撃鉄が弾薬の底部を叩くことはなかった。銃声も聞こえない。だが、自分は確かにトリガーを引いたはずだ。なのに、何故弾丸が男を殺さない。エラルドはぎこちなく首を動かし、ハンドガンを見る。撃鉄が叩かなかった理由はすぐにわかった。そこには人差し指があり、それで叩けないようにされており鮮血が滴っている。無慈悲にトリガーを引いた、しかも弾丸のスピードを考えればどれだけの力で弾薬を叩いているのか想像できるだろう。それを指一本で止めるとなると、骨にヒビが入ることだろう。

エラルドは、次いでその指を辿って止めた人物を見た。


「な、んで……」

「たいちょ、今ここで、貴方の手を汚す必要はないですよ。銃、離してください、隊長」


カチャリ、と彼の手から滑り落ちたハンドガンをオルトは止めた手と反対の方で受け止め、撃鉄を再び起こし、壁へと向かって銃弾を放った。
男達は唖然としており、口を鯉みたいにはくはくと開閉させている。


「よかったですね、死ななくて」


打って変わって冷めた声音で、オルトは放つ。


「あくまで、殺すなって命令なので殺さなかっただけです。まぁ裏を返せば殺さなければ何してもいいっていうことなんですけど、どういう意味かわかります?」

「へっ……怖気つ……」


そこで、再び銃声。今度は話していた男の頬を銃弾は掠めていった。灼熱と激痛に男は呻き声を上げ、もう一人の男は情けない悲鳴を上げている。


「どういう意味か、わかっていただけていないみたいなので、どうします?指の一本ぐらい飛ばしても話ぐらいはできますよね?」

「わ、わかった!話す!だから……だからぁ!!」


その言葉に、オルトはうざったそうに銃口を向けた。


「最初からそうしてください。あとあまり大声出さないでください、目玉フッ飛ばしますよ?」

「ひぃぃいいっ!!」


完全に、男達は恐怖に支配されたようで、何度もごめんなさい、ごめんなさいと謝罪をしていたが興味なさそうにオルトはハンドガンを下ろしエラルドへと向き合った。彼の瞳は未だに彷徨っており、どこか恐怖を投影している。
また、エレベーターから誰かが降りてくる。


「二人とも」

「大佐」

「……銃声がしたが……」

「すみません、俺です……えっと、あとで報告書と一緒に始末書を提出するので……今は、あの、隊長を休ませてもいいですか?」

「……あぁ、頼む……指、どうした?」


エヴァライトはオルトの左人差し指から滴っている鮮血に気付き、尋ねる。


「それ、俺が……」

「エラルド……」

「すみ、ません……たい、さ……」

「いや、いい。オルト、後で事情を詳しく聞かせろ、あと始末書はいらん」

「……ありがとうございます、エヴァ大佐」


オルトはハンドガンもエヴァライトに預け、エラルドを支えながら地下室を後にした。何となく、今の二人の様子で事情は察した彼は溜め息を吐き出して、男達を見た。怯えた様子にそれなりのことをしたのだろう、だがエラルドとオルトを怒らせたのは紛れもない目の前にいるこいつらだと。

まぁ、自分の作業は楽そうだな、とエヴァライトは思う。


*


「怪我が絶えないですね、オルトさん」

「すみませんフローラさん……」

「ヒビ入ってるので、当分動かさないように。固定しておきますけど、十分気をつけてくださいね」


人差し指と中指を一緒に固定され、包帯を巻かれる。思った通りに骨にヒビが入っており当分は絶対に動かさないようにと釘を刺される。オルトは苦笑してフローラにお礼を言い、早足でエラルドの部屋へと向かう。眠ってしまっているのならそれでいいのだが、漠然と先程の事を悩んでいるのではないかと思い、心配になる。
エレベーターに乗り込んで特攻部隊専用のフロアへ。

すでに時刻は朝の六時を回っており、特攻部隊の仲間に鉢合わせることも多々あった。


「オルト、おはよ」

「おはよーっす!」

「どうした?その怪我」

「ちょっと銃が暴発して怪我したっす」

「気をつけろよ?メンテナンスきちんとしないとジャムるからなー」

「わかってるっすよ!」


こうやって怪我の言い訳をして、ようやくエラルドの部屋の扉へと辿りついた。ノックをすると、小さく声が聞こえオルトは入りますよー、と声をかけつつ中へと。
思った通りに、エラルドはベッドに腰を下ろしながら俯いていた。


「たいちょ、ただいま」

「……オルト、すまない、怪我……なんだって?」

「ちょっとヒビ入っちゃってるんで、しばらく動かさないようにって言われました!」


苦笑しながら、オルトは彼の隣に腰を下ろす。


「俺の、せい……で」

「たいちょーのせいじゃないですよ。俺がやりたかったから、やったんです。それに隊長も俺のこと落ち着かせてくれたし、お互い様です」

「……ごめん」


俯いて表情は分からない。だが、声音からして自分を責めていることは間違いなかった。だからオルトは彼を抱き締めた。


「大丈夫ですよ。隊長は命令に従って、殺さなかった。それに犯人はきっと吐いてくれます。それでいいじゃないですか」

「……オルト」

「大佐に、始末書はいらないって言われたんですよ。見逃してくれたんだと思います。だから、今はゆっくり休んでください、たいちょ」


そう言い、オルトは彼をベッドへと押し倒す。


「ね?」

「…………あぁ……おや、すみ」


エラルドは、ゆっくりと瞳を閉じ、意識を闇へと落とした。

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