バレンタイン
巷では今日が特別な日で盛り上がっていることだろう。

それでも、軍はいつも通りだった。
訓練をこなし、会議をし……至って普通だったのだ。前までは。

午前中で会議をさっさと終わらせた大元帥のディーラは早足で自室に戻るといつもの軍服の上着を脱いで彼女の髪と同じ色のジャケットを着込む。そしてコートを羽織り鏡の前へと歩み寄る。髪の毛も整えピシッと直立不動で鏡を見詰める。変なところはない。準備もばっちり。


「……よし」


大元帥でもあろう彼女がここまで意気込む理由は二つ。
一つは戦場へと向かうとき。……今日は二番目の理由だ。

端末機に目を滑らし何もきてないことを確認してから軍用の通信機を取り出し繋げる。


「……少し、出かけてくる」

『承知です。何時頃戻ってこられますか?』

「……三時間後ぐらいには」

『分かりました』


いってらっしゃいませ、とクレーニヒは言う。ディーラもあぁ、と短く返事をすると通信を切りそれをポイと机の上に放り出した。
使わないものを持っていっても邪魔になるだけだ。時刻を確認すると待ち合わせの三十分前。目的地はほんの十分程度で辿り付ける。
ショルダーバッグを持ち、彼女は軽い足取りで部屋を出た。


*


待ち合わせの二十分前。別に早すぎというわけでもない。

……決して、浮かれて来たわけではない。断じてだ!……早く来ないかな!

そんなことを思いつつ着物を見詰め、おかしなところがないかを確認する。
今日は街の皆も何処かフワフワした雰囲気で今日が何の日かを知らしめてくれる。そしてそんな雰囲気を味わえる一人である。
結ばれた前髪は燃えるような赤、後ろに流れるは蒼。着物も鮮やかな蒼で整えられた男性は時計と街を交互に見詰め何処か忙しない。まるで遊ぶ相手を待っている子供のように。

そして、待ち人を見つけるとその表情が一気に明るくなった。


「ディーラ!」

「早いなガブ……すまない、待たせてしまったか?」

「いや、今来たところだ」


彼女を見た瞬間鼓動が高鳴るのを感じる。
月に一度……いや、それ以上に時間をとれない彼女がこうして時間を空けてくれたことに感謝しても足りないぐらいだ。


「それじゃあ、行こうか」

「お、おう!」


こういうのは男がリードするものだろ、しっかりしろ、とガブは言い聞かせスルリとディーラの手を取る。
すると、少し照れたように笑う、絶対に軍にいるときは見せない表情を見せてくれる。そして手を握り返してくれる。

短い時間を有意義に過ごすために二人は街へと繰り出した。


*


時間とは無常にも進むもので、三時間なんてあっという間で。


「……ありがとう、楽しかった」

「また、今度……こっちにいい店があるんだ」

「それは楽しみだ……あ」


何かを思い出したようにバッグの中を漁る。取り出されたそれは綺麗にラッピングされた小さな箱だった。
少し恥らいながらも、ディーラはガブへとその箱をおずおずと差し出しす。


「す、すまない、市販のモノなんだが……その、今日は……そういう日だろ?」


パチクリと目を瞬かせる。いや、理解もしていたし……実際はこのデートが……今日の贈り物だと思っていたガブには予想外だった。


「……う、うけと」

「ディーラありがと!まじ嬉しい!」


彼女の言葉を遮って、ガブはその小さな箱も一緒に手を握り、抱きしめた。
突然のことにあわあわと頬を赤くするディーラ。


「が、ガブ!箱つぶれる!」

「あっ、わりぃ!」


彼女の、軍で鍛えられた鋭い声に思わずビクリと身体を揺らし、謝りながら慌てて開放する。すると全く、と呆れたように笑った。それにつられガブも微笑を浮かべる。

ディーラは軽やかな足取りで彼に近付き、そっと唇を重ねた。
一瞬の出来事に、ガブは対応できなかった。ただ、キスされたとわかったのは小さな箱が手渡されたときだった。
頬から耳朶まで真っ赤にした彼女。そんなディーラが愛おし過ぎて、ガブは再び近づき唇を重ねた。



**
誰おま状態……!
かなちゃんほんとごめんなさい!でも書いてて楽しかった!ごめんなさい!
でも満足!よかったら……ほんと、こんなんでよかったら持って帰ってくださいな!


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