足りない
※BL・裏注意!
暑い。
その言葉しか浮かんでこない。
やるべきことがあるはずなのに、やる気が起きない。
彼、フールは椅子にもたれ掛かりながら天井を眺めていた。
テーブルには麦茶が入ったコップが置いてあるものの、表面に水滴を作っている様子から殆ど飲んでいないことがわかる。
情報屋としての仕事だって沢山あるがずなのに。
暑さ……そしてもう一つの事情によってやる気は削がれていた。
「……レムに会いたい」
誰に言うでもなく、ただポツリと呟いた。
腕で顔を覆いながら、彼は最愛の人を思い浮かべる。
最近、会う回数が減っている。
自分が情報屋で動き回っていること、そして彼、レムリアもまた仕事が忙しいこと。
その二つが重なって連絡すら取り合っていない。
(……そろそろ禁断症状出そう)
とかあほらしいことを考えつつテーブルに放り出された小型端末機へと手を伸ばす。
画面を開くと、無機質な文字が映し出されていた。
「……あ、これ送らなきゃ」
ただ送信ボタンを押すだけなのに、それすら面倒くさいと思ってしまう。
小型端末機の画面を消して再びテーブルに放り出すと、深い溜め息を一つ吐き出した。
耳障りな音の後に、彼のベッドの上に放ってあった携帯が震えた。
彼はすぐに立ち上がった。
さっきまで消沈していた何かが浮上してくる。ベッドに駆け寄りすぐに携帯を開く。
そして、ディスプレイを覗いた。
「……こ、ころ……したい……!」
物騒な単語が漏れる。ただの迷惑メールらしい。
椅子から立ち上がってベッドまで走った時間を返せ!と思いながらベッドに携帯を叩きつける。
そのままベッドに倒れこみ、瞳を閉じた。
部屋には時計の秒針の音だけが響いている。
彼はそれに耳を傾けながら意識を落とした。
*
とにかく会いたい。
会うだけじゃ足りない。
キスしたい抱きたい。
欲望に塗れたこの状況。
どうしてくれるの。
フールは寝返りをしようとして、ハッとした。
(寝てた……!?)
バッと思い切り上半身を持ち上げる。
その際にブランケットも持ち上がり、違和感を覚えた。
いつの間にかけたのだろう、と。
「あ……フール、起きた?」
「……レ、ム?」
椅子に腰掛けて彼はそこにいた。
一瞬、夢なんじゃないか、と思ったがすぐに現実だと理解する。
ぼやけた思考を何とか呼び起こしているとレムリアはスッと立ち上がってベッドの端へと腰掛けた。
「珍しいね、昼寝でも?」
伸びてきた手を、徐に掴むとフールは無意識のうちに彼を引き寄せベッドへと組み敷いていた。
視界が反転したレムリアは僅かに驚きながらもフッと笑みを浮かべる。
「……あ」
「無意識だったんだね」
「あー……そうだね、うん」
「フール」
スルリ、とフールの首に自分の腕を絡めて妖しく笑った。
「ねぇ?抱いて?」
彼の言葉に、抑え切れない衝動が身体の底から這い上がってくるのを感じた。
口元がつり上がる。
「優しくする気ないからね?」
「うん……いいよ。フールになら、めちゃくちゃにされたい」
「最高の誘い方」
乾いた唇を舐め、フールは貪るようにレムリアへと口付けた。
舌を侵入させ、口内を弄る。
レムリアはただされるがままで、彼を感じていた。
「ふー……る……ッ……んぅ」
彼から漏れた甘い声にゾクゾクする。
その声でもっと名前を呼んで欲しい。
フールは手際よく彼の服を肌蹴させその白い肌に手を滑らせた。
小さく身体を揺らし反応を示すレムリアを彼は妖艶な笑みを浮かべて見詰めている。
胸の小さな二つの突起に触れると声が漏れた。
「ひぁ……ん」
「もっと……もっと聞かせてよ……!」
一つの突起を口に含み舌で転がす。
さっきよりも大きく、甘い嬌声が部屋に満ちる。
満足そうに目を細めて、彼は下へと手を伸ばした。
「……可愛い」
「んっ……あ……っ!」
下着越しに何回か上下に擦り、更に中へと滑り込ませる。
先走りした液が手に絡み付いてくる。
思い切りズボンを脱がせ、彼はレムリアのいきり立った自身を口に含んだ。
「あっあっ……!!フール……!」
「ん……」
舌を使い手を使い、確実に彼を絶頂へと追い込む。
「もっ……む、りぃ……!」
身体を仰け反らせ、レムリアは欲望をフールの口内へと放った。
彼は嫌な顔など見せずに、淡々と口内に吐き出された白い液体を喉へと流し、笑みを浮かべる。
また彼も我慢できなさそうに自身を取り出すと、すぐにレムリアを貫いた。
達したばかりで身体が敏感になっているところに、大好きな彼が入り込んでくる。
「ひゃあっ!」
「あっは……いい声」
いつもの大人しいフールが見えない。
そして、大人気歌手……今は活動を休止しているが、こんな彼誰が想像するだろう。
ただお互いを確かめ合うようにただ体温を貪りあう。
引っ切り無しに漏れる嬌声、行為独特の匂いにフールは酔っていた。
「ふーる……ふー、る!」
「んっ……何?レム」
「好きっ……だよ……」
「……うん、僕も愛してる」
一つ口付けを落として、それを合図に律動を早める。
「はっ……ひゃっ……んっ……!ひゃあっ!!」
「っ……!」
ほぼ同時に達した。
レムリアは再び仰け反りながら白い液体を自分の腹へとぶちまけ、フールは快感に顔を歪めながら彼の中へと欲望を注いでいた。
*
既に日は沈みきって空には星が瞬く時間帯。
ベッドの端に腰を降ろしながら彼は煙草の煙を吐き出した。
背中には最愛の人、レムリアが寝息を立てている。
行為の後に残る倦怠感を押し潰しつつ、彼は煙草を凍てつかせ、テーブルに置いてあった小型端末機へと手を伸ばす。
緑のランプが点滅し、とあるメッセージの受信を知らせる。
画面を開き操作盤を叩いていると、その表情が険しいものになっていった。
彼はすぐにシャワーを浴びて新たな水色のパーカーを羽織りレムリアへと置手紙を残す。
「……また暫くお預けになりそう……レム、またね」
安らかな寝息を立てている彼に優しく口付けを落とす。
すぐに小型通信機を耳に取り付けて玄関へと向かった。
これならもう少しゆっくり彼を味わえばよかった。
そんな小さな後悔を胸に落としながらフールは改めて画面へと視線を落とす。
闇市にクラヴィンが攫われた。
その一言だけが綴られていた。
「……足りないや、やっぱり」
あれだけじゃあ足りない。
もっと一緒にいたい。
「はぁ、でも……こっちだって大切な仲間だ」
瞳に真剣な光を灯す。
彼は夜の街を駆け出した。
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bkm