共闘
「僕が……ですか?」
「頼めないかな?」
「あのですね……僕はただの一般人ですよ?」
「それはどうかな?」
蒼髪の男性は珍しく笑みを消していた。
対象に女性は薄っすらと微笑を浮かべている。
カフェの奥、他の人に聞かれないように小声で二人はいた。
なぜこのような場所で話をしてるのかは彼女の立場が関係ある。
「そもそも、貴方の軍にそんな怠け者はいないでしょう?」
「いなかったらどんなに楽か……」
「……それでも僕が出て行く理由はないでしょう」
「今、軍は人手が足りないんだ。頼む」
彼女が頭を下げると、困ったように彼は肩を竦めた。
そして短い溜め息を溢す。
「分かりました……ですから、大元帥が簡単に頭を下げないでください」
「助かるよ。じゃあ行こうか」
伝票に手を伸ばそうとしたが、先に彼がそれを掴んだ。
僅かに驚いている彼女に微笑を浮かべる。
そのままレジへと向かっていった。
*
血統軍、第三訓練場には数人の軍服に身を包んだ人影、そして先ほどカフェで彼女と話していた彼。
そして、浴衣を着ている男性もいた。
「で?どうして君もいるんだい?」
「ディーラに頼まれたんだ」
浴衣の彼、ガブは腕を組みながら言った。
それに対して僅かに目を細めながら彼、クラヴィンは呆れたように肩を竦める。
一般人の彼らがここにいるのは他でもないディーラの頼み。
軍には毎日精進する者もいればただ地位などを手に入れたいだけの輩も少なくない。
そいつらを根から叩き直すというエヴァライトの提案で機会を設けた。
しかし思っていた以上に人数が多く軍人もそこまで時間を持て余している訳ではない。
だから、ディーラが最も信頼している二人を連れてきた。
それがこの二人、情報屋のクラヴィンとディーラの彼女であるガブ。
「……まぁいい。で?ディーラ、何すればいいんだ?」
「ただの腕試しさ。今からそこにいる二人と戦ってもらいたいんだ」
「大元帥さんよぉ……俺達軍人ですぜ?それがこんな奴らに負けると思ってるんですか?」
ニタァ、と嘲笑うような笑みを浮かべながら軍人の二人組みの片方が言った。
それに賛同するように隣の男は短い笑い声を上げる。
その言葉にガブはピクリと眉を動かして男達を見た。
明らかに怒っている。
「んだと……?」
「ガブ、すまないな……でも戦った後にも同じようなことが言えるのかい?」
ディーラも鋭い眼差しを向ける。すると少しだけ後ずさるものの笑みは浮かべたままだった。
「まぁ、いいじゃないですか。僕達にも武器はあるのですか?」
クラヴィンは携帯を見つめながらディーラに言う。
あぁ、と呟きながら彼女は控えさせてあった軍人を呼んで剣を受け取った。
それをそれぞれ二人に渡す。
微笑を浮かべながら彼女は帽子を被りなおした。
「じゃあ、始めるよ」
「……俺、いらねぇわ」
「そうかい?クラヴィンは?」
「僕は取り合えず持っとくよ」
ガブから剣を受け取りディーラは下がった。
鞘から抜き放った剣を地面に刺しながらクラヴィンは束ねてあった髪を解き、少し上の方へと結び直す。
どうやら何だかんだ言いつつやる気らしい。
ガブは笑みを浮かべながら彼に視線を向けた。
「いくぜ」
「言われなくても」
慣れた様子で剣を持ち直し構える。
瞬間、軍人の一人が地面を蹴ってガブへと突っ込み剣を振りかぶった。
それを後方へ飛び避けると咆哮する。そして今しがた突っ込んできた軍人との距離を詰めて一蹴を繰り出す。
素早い攻撃に面を喰らいながらも軍人はすぐに足を動かした。
流石に軍に入ってるだけのことはある。
もう一人の軍人はガブの背後を取ろうと思いつつもクラヴィンの意外な剣舞に襲われ自分の身を守ることで精一杯のように見える。
それに、軍人と同じ剣のはずなのに彼は軽々片手で扱っているのだ。自分ですら両手で持っているのに、と驚きを隠せないこともあり少しだけ動きが鈍い。
当のクラヴィンは少しだけ結んであった髪をうざったく思いながらガブの様子を見ていた。
「一旦、距離を取るよ」
「あいよっ」
金属独特の音を響かせ、クラヴィンは相手を弾き飛ばすと礫を精製して牽制する。
相手も剣で急所に当たりそうな礫だけを弾いて体勢を持ち直す。
ガブは咆哮し冷気を纏った牙を作り出し威嚇する。
僅かに顔を歪めながら相手は一閃すると後方へと飛んだ。
思った以上の実力にディーラは僅かに感嘆していた。
二人の戦闘力が高いことは知っていたが、もう一年以上も軍に使えている人間と互角__いやそれ以上に戦えていることに驚きを隠せずにはいられなかった。
そして、二人のチームワークも素晴らしいものだ。
本当に軍に引き入れたいものだ、と思いながら肩を竦める。
「ていうかお前、剣使えるのか?」
「まさか、見よう見真似だよ」
この会話を聞いていた軍人二人はどこが見よう見真似なんだよ! と内心突っ込みつつ眼差しを鋭くさせた。
二人の闘気にガブは笑みを深める。
「じゃあ、行くか?」
「足引っ張らないでよ……」
腕を伸ばし電撃を精製する。動けないクラヴィンを狙う二人。当然のようにガブは彼を守るように攻撃を繰り出す。
眩い光が溢れた。その後に轟音。
「ぐっ……それ……反則、だろぉ……」
「真剣勝負に反則も何もないだろう?そんなんで軍人になれるなんて甘くなったものだね」
相手を見下しながらクラヴィンは剣を持ち直す。彼の言葉にはディーラも痛感させられた。
試験に合格してしまえば血統軍になれる。それも見直した方がよさそうだなと思案する。
残りは後一人。
しかし、軍人は既に膝を折ってしまっていた。
既に戦う意志がクラヴィンの一撃で削がれてしまったらしい。
ガブは溜め息を吐き出しながら踵を返したが、クラヴィンはその軍人に剣を向けた。
「立ちなよ。まだ勝負はついてないだろう?」
不敵な笑みと共に繋げられた言葉に軍人は面を喰らっている。
「やめろ!」
「何?」
「もう決着はついただろ?」
「……戦場でもそんなこと言えるの?」
振り上げた剣をゆっくりと下ろしながらクラヴィンは身体をガブへと向けた。
あまりに冷酷な眼差しに思わず唾を飲み込んだ。
「今は違うだろ」
「……まぁ、いいや」
興が削がれたかのように剣を鞘に収める。
結局、訓練になったのか分からなかったが無事に終えることが出来た。
二人の軍人をそれぞれの部屋に戻らせ、ディーラは二人をつれて自室へと向かう。
「二人とも、ありがとう。助かったよ」
「別に、ディーラの頼みだったしな」
ガブの言葉に僅かにディーラは頬を染めると微笑を浮かべる。
「で?もう帰っていいのかい?」
「軍に入る気は?」
「ありませんよ」
踵を返して、クラヴィンは早足に部屋を出て行った。
残された二人はしばらく沈黙を貫いていたが彼女がスッとガブの傍に寄り添い口を開く。
「痛感させられた。軍はもっと強化しなくてはいけないとね」
「お前のせいじゃないだろ。本人のやる気次第じゃねぇのか?」
「それでも、私は大元帥という立場にある……」
俯く彼女を優しく抱きしめながら、ガブは囁いた。
「俺もついてるからな?」
「……ありがとう、ガブ」
彼の温もりに浸りながら、ディーラは微笑んだ。
HAPPY BIRTHDAY!かなさん!
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