汚い大人が汚いことに手を染める。
そんなこと、彼女にはどうでもよかった。
ただ、自分を狙ってくる人間がいることに、殺意を覚えていた。
最初は。

日に日にそれは大きくなっていき、次第には手を出してしまったこともあった。

その日、彼女は地獄を見た。
動けなくなるまで、ひたすらに暴力を振るわれた。

客を傷つけてはならない。
それを破った者には制裁を。

そんなことを言っても、やっていることは所詮汚いこと。

一番上の人間が言った。

次に客に手を出してみろ。
今度はお前の身体を商品にしてやるからな。

市場では身体、そして命すら商品と化す。
だから、抗わないでここまでやってきた。

覚えたことは、外に居続けないこと。
ただそれだけだった。

怒りをぶつける場所もなかった。
相談することもできなかった。

しかし、彼女が涙を見せることはなかった。
涙を見せたところで何が変わる?
だったら生き続けることに集中しろ。
そう暗示のように繰り返していた。

*

その話を聞いた、いや、入手したとき、彼は僅かばかり困った。
これなら、すぐに動いた方がいい。
だが、まだ全体を把握していないうちに突っ込むのもどうかと考えた。

ここはまだ動くべきではない。

彼はそう結論付けて、動かなかった。
全てを把握してから動こう。
そのほうが、有利に立ち回れるはず。


「僕らしくないね」


彼は一人呟いた。


「だけど、これが最善かな」

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