「……そうですか、わざわざ、ありがとうございます」
アドルフはお礼を告げると、携帯を閉じた。
「クラヴィンは?」
「無事に目を覚ましたらしい」
アドルフと翠螺の怪我は既に完治していた。
彼は手加減をしていたのだ。
攻撃を。そして、その後すぐに治療もしてくれていた。
申し訳ないことをした、とアドルフは思っていた。
彼が本当に軌銃を救う気がないと勘違いし、攻撃を仕掛け、怪我を負わせてしまった。
ならばどうしてアドルフはあそこで倒れてしまったのか。
これは気付かぬうちに礫を精製されていて、首筋に見事当たってしまったのが原因。
情報においても、戦闘においても彼が一枚上手だった。
そして、二人を危険な目に合わせないようにしたのだろう。
「まったく……やり方が気に食わない、が……彼らしい」
「そうですね……」
翠螺が淹れてくれた紅茶を喉に流しながら、アドルフは一枚の写真を見つめていた。
これはかつてクラヴィンが持っていた写真である。
あの、大量の亡骸が並べられた写真。
これを撮るために、彼は頻繁にあそこへ足を運んでいたのだろう。
しかし、よく撮れたものである。
「無残なものだな……」
「決定的証拠を得るまで、動けなかったのでしょうか?」
「そうだろうね。……彼には驚かされる」
翠螺が納得いかないといった表情をアドルフは見逃さなかった。
「賄賂だよ」
「……?」
「口封じのための……ね。この写真なしで取り押さえるのは……おそらく不可能だった」
警察だって人間だ。
誘惑に揺らぐことだってある。本当はいけないのだろうけど。
だから、クラヴィンはこの写真を手に入れるまで、動かなかった。
この写真を見せられたら、動くしかないだろうから。
「……だったら、最初から……」
「彼のプライドだろうね……全てを見ないと納得いかない……」
ソファーに深く腰をかける。
「その点では、彼は警察より優秀だよ」
心の中で呟いた。
すまなかった、ありがとう、と。
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