とある依頼



「やべぇ!キール!」

「うぇえええっ!?」


後方に飛んでいった銃弾に、ヴェッテが叫ぶ。頬を掠めキールが断末魔を上げた。普段前線に行かない分、怪我はあまり負わないほうだ。それゆえに痛みに驚いたのだろう。
普段からキールを保護する形で四人は動いている。前線に行くのはヴェッテ、そしてエルラ。中距離でアロン。後衛はキールなのだ。


「い、ってぇ!」

「ッ……ちくっしょう!」


近くにあった鉄の板を掴み、思い切り上空へと投げ出した。それは綺麗にキールの身体の前で停止し、銃弾の嵐を防ぐ。


「もういいか!?」

「あぁ!キール!場所移動しろ!」


ブチリ、と板がヴェッテの元へと落ちてくる。空中で停止したのはアロンの糸によって板が保たれていたからだ。
そのとき、近くから短い悲鳴に似た笑い声が聞こえ、ヴェッテは振り返る。


「ひひっ、ひぃぃっ……!!」

「エルラ!」


今まで静かに戦っていたと思っていたが、それなりに人数が多かったのか。ヴェッテはアロンにチラリと視線を向けると彼は早く行け、と言わんばかりに顔を顰める。床を蹴り、最大のスピードでエルラの元へと向かう。すると、見ただけで三十人以上いる標的たちのど真ん中に彼はいた。


「エルラぁ!」

「ヴェッテ……!ぐぁっ!?」


腹に一蹴を繰り出され、思わずエルラは膝を折った。


「くそ……たれがぁっ!!」


ブワッと彼の身体に水が出現し、突っ込んでいく。エルラも体勢を立て直してショットガンを、ヴェッテもハンドガンを二丁取り出す。


「ヴェッテ!飛べ!」

「おう!」


彼の言われダンッ、と跳躍し飛び上がる。エルラは息を吸い込み、片足を上げ、ガンッ、と思い切り地面に叩きつけた。
瞬間、数十人が悲鳴を上げ地面に倒れていく。これを使うには隙がありすぎて今まで使えなかった。

その間に、ヴェッテが標的を打ち抜いていく。

だが、攻撃が当たらなかった標的がエルラに照準を合わせ銃弾を放つ。


「いっ、つ……!」


肩と太ももの肉と神経を銃弾は容赦なく削り取っていく。鮮血が噴出し、痛みに顔を歪めブチリ、と何かが切れる音がした。


「ひっ、……ひひっ……」

「げっ……」


ヴェッテが焦ったように振り返りエルラの腕に手を伸ばした。しかし__


「おい、邪魔すんな」


それに気付いたのか、エルラが静かに呟いた。彼の声音にビクリと身体が硬直し焦った笑みを浮かべ冷や汗を流す。

彼の表情は、笑っていた。パシン、とエルラの身体が一瞬だけ灰色の光に包まれ、そこから姿を消した。標的は驚き辺りを見渡すが、気付かぬうちに背後に回られ零距離でショットガンを放たれる。


「はっ……ふひっ……ひひっ、……おい、来いよ……ぶち殺してやる」


身体を軽くし、スピードを上げこのまま一人で相手するつもりだろうか。ヴェッテは見えないようにリロードしトリガーに手をかける。
勘付かれないように、護衛しよう。彼は内心で呟く。

標的が襲いかかる。エルラは残酷な笑みを浮かべ、ヴェッテは冷や汗を流し口元を引き締め、標的を見据えた。


*


「キール!大丈夫か!?」

「すげぇいてぇ!」

「それは耐えろこのクズ!」


相変わらず毒を吐きながら、彼は手に持っていた鉄パイプを振り回しつつ標的の動きを銀色の糸で止め、そこをキールがスナイパーで打ち抜く。
そこまでは順調だったのだが、隣から伝わってきた地響きにアロンがハッとして振り返る。今のは慣れた彼、エルラの能力だ。彼が能力に頼る場面なんて滅多にない。
ならば、どうして使ったのか。


「あいつ……切れやがったな……!」

「エルちゃーん!!うぉああああっ!?」


ガラッ、とキールがいた場所の足場が崩れる。


「んのぉ!」


銀の糸がキールの身体に巻きつき、グッとアロンの方へと引き寄せられる。


「さんきゅーっ」

「さっさと倒すぞこのゴミクズ共を!」


標的に鋭い眼差しを向けるアロンに、キールは引き攣った笑みを浮かべてスナイパーライフルを持ち直す。彼に前衛は無理だろうが、今は緊急事態だ。
しょうがない、とキールはフッと身体の力を抜き、息を吐き出す。瞳を伏せて、力を解放する。


「ッ……!!」


瞬間、バチィと電気音が響き床を蛇の如く電撃が這っていく。それは確実に標的に当たり身体の動きを止めジリジリと体力を削っていく。


「キールてめぇ……」

「非常事態だろ?」


ニッと笑顔を浮かべキールはゆっくりと辺りを見渡す。ざっと残りは数十人。倒すのには……数分で済むだろう。


*


既に朝日は昇っていた。
返り血が赤黒く太陽の光を反射している。


「あー昇ってるうぅー!?」

「まじかよゴミクズだなほんと」


本来ならば、こんなに時間かかるはずではなかったのだ。だが情報よりも標的が多く見付からずに行動しようとしたところ、どうやら依頼主に嵌められたようで待ち伏せしてありそこからずっと戦闘。
いつもなら使わない能力ですら解放してしまった。疲労が半端ない。
しかも地下で戦っていたために空気も悪かった。気持ち悪い。


「つかれたぁ……寝たい」

「はっ、やばいエルラが立ったまま寝てるぅ!?」

「ぁぇっ……」


キールの大声でハッと起きる。


「さっさと帰ろうぜー……」


ヴェッテの言葉に三人はおー、と疲れた声音で帰路を辿り始めた。

依頼主にも善悪がある。それをもやり遂げるのが、ダウンフォースである。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -