心配事


※共演部屋『そんな日常』の続きっぽいもの。読んでいた方がわかりやすいかもしれないです


「スコーピオ、最近地下街に行ってるよね?」

「あ、ばれてた?」


サングラスの青年は特に悪びれた様子もなく、ヘラヘラと笑いながらフードを被った少女を見遣る。そんな彼に普段はあまり動かない表情を、怪訝なものへと変えて言葉を続けた。


「しかも、誰かと戦ってる」

「ただのじゃれ合い、気にしないでいいってことよ」


そう、スコーピオは毎日のように地下街に行ってたそこに住んでいる女性二人に会っているのだ。しかも彼女が言ったとおりに挑発して戦いを仕掛けている。普段ならば放っておいても構わないのだが、彼が戦っているのは地下街の番犬と呼ばれている少女なのだ。相当の実力の持ち主だろうし、もう一つ彼には問題がある。


「……サングラス、割られたらどうするの?」

「……アリエスは心配性だねぇ、お兄さん嬉しいな」


わしゃわしゃ、とフードの上からアリエスの頭を撫でると彼女は少し照れたような表情を一瞬だけ浮かべたが、キッと睨みつけながら手を払いのける。


「茶化さないで。スコーピオは少し体質が違うから、相手に迷惑かけるでしょ、もし割られたら」


スコーピオは過去に人体実験の被験者だったことがあり、その時に別の人格を作り上げられた。視界によってコントロールするのだが、彼はそのコントロールが出来ずに、破壊衝動に突き動かされ暴走状態となってしまうのだ。だからいつもサングラスでわざと視界を悪くしている。元からスコーピオは戦闘に長けており、アリエスもよく特訓に付き合ってもらっている。だからこそ、彼が暴走したらどうしようもなくなる、と分かっているのだ。仮に暴走を止められたとしても、無傷では済まないだろう。

彼は強い。サングラスを割られることなんて、そうそうないだろう。だけど、もしのことを考えるとアリエスは不安を拭えなかった。

そんな彼女の心情を察してか、スコーピオはなるべく心配をかけないように微笑んだ。


「だいじょーぶ、お兄さん強いの知ってるでしょ?」

「知ってる、だからこそ……」

「……どうしたら、信用してくれる?」


彼はアリエスのフードに手をかけ、後ろへと下ろした。綺麗な蒼の髪が現われ、それに手を絡ませる。


「……とっくに信用してる、バカ」

「知ってる。でも、もっと信用して欲しいな?」


彼女の顔を覗きこむと、いつものアリエスらしからぬ、とても不安そうな表情を浮かべていた。スコーピオは両手でそっと彼女の頬を包み込む。


「……あんまり、無茶しないでね。信用してるから」


ボソリ、と呟かれた彼女の言葉に彼はニコリと笑みを浮かべた。


「ん、ありがと。じゃあ笑って?女の子がそんな顔してたらもったいない!」


その言葉に、アリエスは戸惑った。だけど、スコーピオの手をそっと払いのけると、薄っすらと微笑んだ。先程よりも、不安が少なくなっていた。

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