立派な
血統軍本部、一室。
高級木材を使った大きなデスクの前で淡々と書類を片付ける女性。
そして巨大な棚の前で書類整理をしている女性。
部屋にはこの二人だけがいた。
棚の前にいる、肩まで伸びてる金髪を揺らしながら彼女が口を開いた。
「……大元帥、聞いてもよろしいでしょうか?」
「ん?」
書類にペンを走らせながら大元帥__ディーラは視線を書類から離さずに彼女に続きを促す。
少し言葉を選んでいたが、回りくどいのがあまり好きでない彼女は直球に聞くことにした。
「大元帥は何故、軍に?」
「……唐突だね」
流石にディーラはペンを止めた。
「どうして?」
「……これが」
重ねられた書類から一枚取り出し、彼女へと差し出す。
「……なるほど。こんなところにあったのか」
差し出されたそれは、入隊直後の診断書だった。
いくつもの情報が記載されているそれをディーラは微笑を浮かべながら目を通し、椅子に背を預ける。
「フィラのはないのかな?」
「……大元帥に見せられるものではありませんよ。もとより、戦闘が苦手で本当はフローラと衛生機関への所属を希望してましたから……」
苦笑で彼女__フィラは本当のことを吐露する。
意外な言葉にディーラは僅かに目を見開いた。
今では特効部隊をエヴァライトと共に指揮している彼女だからこそ、驚かざるをえなかった。
フィラみたいに、戦闘が苦手でも軍に入る人間は少なくない。
衛生機関は主に治療を目的としているところであり、内部には講義も組み込まれており全て習得した者が初めて指揮できるようになる。
会話に出てきたフローラがその一人であり、今では講師も担当しており少佐という地位も授かっている。
フローラと共に、ということは彼女も一時期は衛生機関に身を置いていたのだろう。もちろん、途中で諜報部や戦闘部隊に移行することは可能だが訓練を一からやらなければならないデメリットが出てくる。それ故にそれを行う者は殆どいないに等しい。
だが、一つだけそのデメリットを無くす方法がある。
大元帥との立ち合いに勝利、または引き分けまで持って行くこと。
これは戦闘部隊に限った話であり、諜報部や衛生機関にも同じような内容でデメリットを消すことが出来る。
「フィラは大元帥と……?」
「……えぇ。勝てはしなかった。けど、何とか大元帥の背中を取れて……」
「すごいな」
「ありがとうございます」
ディーラが率直な感想を述べるとフィラは照れながら笑う。
「……何故、衛生機関を離れようと思った?」
「……情けない理由ですよ。……負傷者を出さなくすればいい。それなら戦おう、と」
なんとも、彼女らしい答えだった。
「……いい理由だ……私の方が情けないな」
デスクに書類を置き、ディーラは立ち上がると高級感漂うソファーにフィラを勧めた。彼女も書類を元に戻し、頭を下げながら腰を下ろす。
二つのマグカップを手に取り、コーヒーメーカーにあった珈琲を注ぐと角砂糖が入った硝子瓶をテーブルに置いた。
「砂糖は?」
「一つでお願いします」
一つずつそれぞれのマグカップに入れ、軽くスプーンで回し差し出す。
「ありがとうございます。……大元帥の理由は……?」
「……憧れさ。私の父上が、立派な方でね」
「……父方は今……?」
「もういないよ。まだこの国が外交をしている時に、撃たれた」
何となくだが、この帝国が他国に一切干渉しない理由が理解できた。
「……」
「そんな悲しそうな表情をするな。私は寧ろそのことがあって、此処にいられるんだ。この国を、父上のためにも守ろうと思ったんだ」
「……本当に、立派な方だったのですね。今のディーラ大元帥のように」
フィラの言葉にきょとんとしているディーラ。その意味を理解するのに数秒を要した。
そんな彼女の様子に笑いを零しフィラは再び口を開く。
「貴方が大元帥でよかった……私達はディーラ大元帥についていきますよ」
「……これからもよろしく頼む」
ディーラも微笑を浮かべた。
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