俺と鬼の七日間



※現パロ→転生

例えば、体に身に覚えのない痣を発見したとしてどうするのが一般的なのか。些細なこととして放っておく?えらいこっちゃと病院に駆け込む?勝手な見解だけどさ、やっぱり大半は前者だと思う。だろ?そりゃ痣が異常にでかいとか、異常な痛みがあるとかならともかく硬貨サイズで特に痛みもないならほっとくだろ?だよな。よし、じゃあ放置だ。ということで、俺は捲し上げていたTシャツを離し、脇腹に現れた痣をなかったことにした。

気付いたのはついさっきの風呂の中。いつもなら烏なんとかでぱっと済ませてしまうのだが、今日は直前に見ていた旅番組、しかも温泉街特集の影響で、しっかり湯船にお湯を溜めて、忘れ去られていた試供品の入浴剤まで引っ張りだして、稀に見る寛ぎ方をしていた。エメラルドグリーンのお湯の中で体を伸ばす。ふと目を掠めた景色の中、といってもそこには湯に沈む自分の体しかないのだが、その脇腹の辺りに覚えのない影があった。
「…何コレ。」
汚れではなさそうだな、と思いつつ、一旦湯船から出て、掛けてあったタオルに軽くボディーソープを垂らして擦ってみる。案の定消えないし、薄くもならない。どうやら痣のようだ。あれ、今日何かぶつけるようなことしたっけ。今日の行動を順を追って辿ってみたが思い当たらない。ついでに2、3日前までいってみたが、やはり、ない。脇腹なんてぶつけたら普通気付くよなぁと思わないでもないが、なんせ無駄にでかい図体をひっさげて生きてるのだ。謎の痣の一つや二つあったところで謎でも何でもないだろう。というか、こんなこと今までにもごまんとあるわ、と結論付けて寝たら忘れた。

と言いたいとこだったが、そうは問屋が卸さなかった。次の日、鏡に映った自分の胴体には相変わらず謎の痣。何だか気持ち成長している気がするが、…気のせいだ。これは気のせいなんだ。時間が経てば治まる。うん、大丈夫。と見て見ぬ振りして三日目。……駄目だこりゃ。確実に成長してらっしゃる。三日で硬貨サイズから手のひらサイズって成長期にも程がある。しかも心なしか痛い。嘘。確実に痛い。これは流石に放置を決め込むのはマズいと判断し、取り敢えず友達に相談してみたところ、目視するなりすごい勢いで病院を勧められた。んな大袈裟なーとその場では軽口を叩いて気にしていない風を装ったけれども、痣が異常にでかいとか、異常な痛みがあるとかそういうことになっているのは一目瞭然だったから、素直に従って病院に直行した。

何故に夕方の病院はあんなに混むのか。もしかしたら、もしかしなくてもこれってヤバい病気なんじゃね?という不安を抱えつつ、保険証が見つからないというトラブルに見舞われつつ、受付を済ませてから小一時間。俺はまだ待合室に座っている。クーポン付きのフリーペーパーは読みおわり、暇潰し用に用意されている雑誌は興味の湧かないものだったが、暇すぎてペラペラと捲るうちにもう三周目だ。ケータイも持ってきてはいるが、病院という場で使って良いのか分からず、電源から落としてある。図体と髪色から誤解されやすいのだが、俺は意外と小心者だったりする。いい加減雑誌にも飽きてきた頃、ようやく俺の名が呼ばれた。ナースのお姉さんの可愛い声に呼ばれて、元健康優良児の俺はとぼとぼと何年ぶりかの診察室に足を踏み入れた。

白くて薬品臭い部屋の中には白衣に眼鏡おまけに神経質そうというステレオタイプどんぴしゃないかにも医者という出で立ちの医者が一人。椅子に座れと言われたから座った。カルテと思われるもの(俺には判断がつかない)にさらっと目を通した後、いつからどんな症状かを聞かれたから、三日前から脇腹に覚えのない痣と痛み、と答えた。それをカルテと思われるものに書き込むと、じゃあちょっと見せて、と言うから、素直に服を捲し上げた。まず視診、そして触診。痛みが強くなったかを尋ねられたが、さほどそう感じなかったので、特にはと返した。
「精神的なものでしょう。」
あまりにも平然と言い放たれた。なんでだ。訳が分からない。痛ぇし明らかにおかしいからわざわざ病院まで行ったのに、理由:精神的なものってなんだ。原因不明と何が違うんだ。少なくとも俺にとっては原因不明だ。
「痛み止め出しておきますから、痛む時に二錠ずつ呑んでください。」
「あ、はい。」
「急激な悪化がみられた際はまたお越しください。」
「あ、はい。」
「お大事に。」
「あ、はい。」
それでも権威からの言葉に反論できない辺りが典型的な日本人だなぁと思う。まあ、学のない俺の素人考えよりも、俺が一生に勉強する何倍もの時間を医学に費やしてきたであろう彼の言うことの方が正しいのだろう。正しくないと困る。

慣れない病院と慣れてたまるかな症状に気力という気力を使い果たした俺は、簡単な物を作るのすら億劫で、久々の卵かけご飯で取り敢えず腹を満たし、さっさと風呂に入って寝て、体力回復を図ることにした。何も状況が改善されていないであろう明日からの為にも。風呂はシャワーで手短に済ませて、この疲労の原因を極力目に入れないよう努めるも、見ない見ないと考えれば考える程にどうしても気になってしまい、ちらと目をやった先の現実にうなだれる。鈍く痛むそこには赤黒い痣。広がりに広がったそれはいっそひどい傷痕みたく見える。気味悪ぃ。これ以上気にしてもめげる一方なので、さっさと洗って風呂場を後にした。服を着ると視界に入らなくなるせいか、消えたみたいでちょっと気が楽になる。消える訳ないと分かっているだけに、自分の単純さにちょっと悲しくなる。明日起きたら消えてますよーに。無理難題を神様に押し付けてベッドにダイブした。

「増えとる……!」
なんということでしょう。医者が経過観察を言い渡したあれは、なんと二つに増えています。一つ目のでかい痣と傍らに発生した二つ目の小さい痣はさながら親子のよう。全く微笑ましくない。ついでに今日は遅れてはならぬ用事が有るくせに完璧に寝過ごした俺の寝汚さも全く微笑ましくない。ということで、体の異常を気にしたいところではあったが、ここは敢えて時計を気にして飛ぶように家を出た。この日はくそ忙しくて、自分の事とか全く気にできなかった。家帰って即刻寝落ちたし。忙しくて良かったなんて思ったのは人生初かもしれない。

朝。鏡の前で、やっぱりな。などと思ってしまう。悲しい慣れだ。案の定二つ目の痣もそれはそれは急成長。親をとって喰う勢いだ。まあ、それはともかく。痛ぇ。昨日までが比じゃないくらい痛ぇ。痛み止めをくれた医者gjと思ったが、やっぱり飲まなかった。俺、薬嫌い。耐えれないでもないし、耐えてみせてやんよ。…と気力だけで乗り切った。確かに耐えれたけど、体力、精神力を持ってかれてひどく疲れた。古い友人に頭痛持ちが一人いるのだが、あいつこんなんを頻繁にこなしてたのかと会わなくなった今、ささやかな尊敬の意を覚えた。その晩は痛みでなかなか寝付けなかった。疲れてんのに寝れないのは辛いな。

夢を見た。武器が舞って、血が飛んで、人が死ぬ夢。胸くそ悪い。変な時間に寝落ちたからか?脇腹が痛くて目が覚めた。身体中がだるい。これはいよいよ駄目かもしれない。気分を無理やりにでも正に転じようとカーテンを開けて朝日を取り入れる。眩しさに目が眩んだ。しばらく目が痛いくらいに。日中は処方された痛み止めを飲んで過ごした。背に腹は変えられまい。そのせいか一日中頭がぼーっとしてたから特筆すべきことは覚えていない。以上。

夢を見た。武器が舞って、血が飛んで、自分が死ぬ夢。長曾我部元親が死ぬ夢。そして目が覚めた。気分は晴れていた。体の痛みは消えていた。昨日痛んだ目には以前物もらいができたときに買った眼帯を付けて家を出た。向かう先は病院。何故急に思い出したのだろう。何故今まで忘れていたのだろう。早く話がしたい。体が付いていかない程に気持ちが急いた。

…やっちまったなぁ……。病院…に、着いたはいいが、…開いていない。しょうがない。まだ九時前だしな。焦った俺が悪い。出直すか、待つか。うーんと唸って立つ尽くす。よき、出直すか。不審者と思われても困るし。
「どうぞ」
帰ろうと病院を背にしたその時、図ったようなタイミングで入り口のドアが開いた。前回、痛み止めだけ渡して帰らせたあの医者だった。どうぞ、と言っているが、再度時計に目をやるとやはり診察時間前。しかし俺は医者の後に付いて中に入った。こいつは何があったか察している。だから静かに話ができる我が城へと招きいれた。中は前回とは打って変わってひっそりとしていた。おばちゃん達の談笑も、子供の笑い声も、加湿器の作動音もない。いっそ不吉なくらいだ。本来俺はこういう空気は好きでない。だが、良い場所だな、と思った。静かで人気もない。今切り出そうとしている話にはおあつらえ向きだ。医者が椅子に腰を下ろす。俺はそれに対面する椅子に腰掛けた。
「全部…知ってたんだろ。」
黙ってたって気まずいだけなので、早々に話を始める。
「意味も、治るわけないことも。だから痛み止めだけ出してさっさと帰したんだろ。」
何も言わないのが肯定だった。
「久しぶりだな……毛利。平凡な名字になってっから気付かなかったぜ。」
「お前に言われたくないわ、アホ乳首。」

俺のことを乳首呼ばわりしたことからも分かるように、元毛利には記憶があった。元毛利曰く、子供の頃に俺と似たような経緯で思い出したらしい。親に相当心配されたとか。怪我を負いやすい戦闘スタイルをとっていなかっただけまだマシだったみたいだ。苦労してんだな。と他人事だと一言で済ませられてしまう。自分に降り掛かるとあんなに焦ったのに。だからなんだって話だけどな。

それからいろんな話をした。遥か四百年前のこと。今までのこと。今現在のこと。これからのこと。辛かったこと。苦労したこと。嬉しかったこと。楽しみなこと。病院に勤める他の役員が来るまでの短い間だけだけど、あんなに仲が悪かったにも関わらず、話は尽きなかった。リミットがくると追い払うように帰されたが、また飲みながら話そうぜ、と携帯をふんだくって勝手にメアドを交換したのをなんやかんや止めようとはしなかった辺り、まんざらでもなかったのだと思いたい。

「探すのか?」
じゃあな、と手を上げ、帰る直前、掛けられた言葉に振り返る。誰をとは言わなかったが、きっと指しているのは俺が思い浮かべるのと同じ人。こういう言葉で形容するのは小っ恥ずかしくて好きじゃないが、長曾我部元親であった頃のいわゆる恋人ってやつだ。
「思い出しちゃったからな」
未練はない。元鞘に戻る気なんてもっとない。ノンケとして生を受けた俺には荷が重すぎる。でかい図体のくせに何故か『受け』側だったからなおさらだ。
「せいぜい頑張るがよい」
「はは、どうも。でもさ、割と楽なんじゃね?眼帯してる奴なんてそういないしよ。」
「…長曾我部。」
「ん?」
「痴れ者が!」
つまり、元毛利が言うには、俺にも今々記憶と傷が戻ったように、あいつにいろいろと戻っているとは限らない。と。なるほど。そりゃ道理だ。流石元毛利。自分が思い出したからって皆に記憶がある気がしてた俺とは大違いだ。
「まあ、どうにかなるだろ」
元毛利が呆れたようにため息をつく。俺は大きく伸びをした。生まれ変わったり、仇に会ったり。神様はどうも俺の上に奇跡を降らすのがお好きなようだ。もう一個くらいどうにかならないものか。神様に祈ってみる。賽銭も御守りも流れ星もないが、八百万もいるのなら一人くらい気紛れがいるかもしれないしな。あぁ、もしも会えてしまったらどんな顔するんだろうか。


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戦国ちかちゃんが死んで、現代ちかちゃんに移っちゃったテイストでいったら訳わからぬことになった。


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