天邪鬼




赤司くん、君は眩しいひとでした。目が、髪が、手 が、背中が、姿が、表情が、仕草が、立ち振る舞い が、そしてバスケが。君を構成する全てはひたすらに眩しくて。君は基本的に明るい場所に居るひとだったけれど、その光に霞むどころか一際眩しく輝いていました。僕はその光にひどく惹かれていたのです。

一方の僕は平々凡々、寧ろそれ以下。対照的な僕らの 唯一ともいえる共通点であるバスケすらも何の才能も持ってはいなくて、時折どうしようもなく苦しくなったりもしました。それでも好きで好きで堪らなかった から諦めることだけはできなくて、報われることはないと感じてはいながらも、せめてこれだけはと練習だけはひたすらに重ねました。そのうち、そんな僕を認 めてくれるひとも現れたけれども、結局のところは現状維持で、何かが変化することはありませんでした。

一向にパっとしない僕に好機が訪れたのは中二の時。 更にパっとしない僕のバスケの中に君はある特異性の欠片をを見い出しました。僕自身も気付いてなかったそれが、君という光を浴びて初めて芽を出した瞬間でした。僕はまたひたすらに練習を重ねました。君が見つけて貰ったただ一点に絞ってより長く、より厳しく。君に見限られてしまわない為と思えばいくらだっ て頑張れました。幸いなことに努力することが苦手で も嫌いでもなかったので全く苦にはなりませんでしたが。そして改めて君のすごさを思い知ったのです。見る影もなかったバスケットプレイヤーとしての僕は驚くほど急速に能力を開花させ、他に代わることのできない存在としてずっと憧れていた居場所を手に入れました。嬉しかった。君の目に留まったことも、君に認められる存在になれたことも、そしてなによりもずっと焦がれていた華やかなコートで、君のバスケを担えることが。嗚呼、なんと幸福な時なのでしょう。今ま でとは異なる距離で君を見ることでより分かる君のすごさ、より一層強く惹かれていくのに何の不思議もありませんでした。

バスケが自身の大半を占めている僕たちにとって、そのことはまさに僕たち自身を共有しているのと同じこと。そこから生まれる仲間意識に僕は徐々に溺れていきました。それは余りにも幸せな感覚。しかしいつの時代もそうであるように、幸福な時間というものは長くは続かないもので、僕たちの間にも例に漏れずその時は訪れたのです。きっかけは青峰君を筆頭とする君ら五人の才能の覚醒。そのことは僕が焦がれ続けたバスケの在り方を変えてしまうには十分過ぎました。そもそも、帝光の、君のバスケの根底にあるのは勝利主義。それまでチームプレイが機能していたのは、主義に反しない為にはそのやり方が一番有効であったから、というだけのこと。では、五人全員が一人で戦い得る能力を有していたら?答えは明確に僕の前に現れました。チームプレイは徐々に息を潜めていきました。辛かった。チームプレイが排されるということは すなわち僕の必要性も排されるということ。だって唯 一の武器すら仲間無しには成り立たない僕には一人で 戦う術はないのですから。一時は諦めようともしました。前の状態に戻るだけだ、また一から頑張ればいい、と。しかし、汚い人間の性とでもいいましょうか、一度知ってしまった蜜の味を忘れるのは困難なことでした。それにそもそも僕は諦めの悪い人間なのです。簡単に手放すことなど出来る訳もありませんでした。だから諦めることは止めにしました。僕は君のバスケを否定しました。

僕はバスケが好きだ。 僕はバスケが下手だ。 帝光では異質ともとれる僕の身の振り方を大概のひと は前者の所為だと言いました。間違ってはいないので す。確かに僕はバスケ好きを自ら豪語できるほどに無類のバスケ好きですし、いくら君のバスケに陶酔していようとも、僕の信ずるバスケの在り方は仲間の存在あってこそですから。しかし真実は後者なのです。困るのです。変わってしまった君のバスケの在り方では。勝利のみに固執させる訳にはいきませんでした。 個人プレーに徹させる訳にはいきませんでした。君の為でも君らの為でも、もちろんバスケの為などでも無い。ただひたすら僕の為に。君に僕を不必要だと思わせる訳にはいきませんでした。

とどのつまり、僕はまだ、君とバスケがしたかった。 君と並んでいたかった。しかしそれは叶いませんでした。人の夢と書いて儚いと読む、というのは本当のようです。僕のちっぽけな抵抗は実を結ばず、その後滅多に君と共に戦うことは出来ないまま卒業を迎え、結局バラバラの学校に進学しました。今、僕は誠凛にきて、素晴らしい仲間と環境があって、十分すぎるほどに満ち足りています。しかも勝ち上がることもできているのです。君が棄てたチームプレイによって。このまま順調にいけば、いずれ君と戦うことにもなるでしょう。ことは思った通りに進んでいます。

「勝ちましょうね、火神くん。」

「当たり前だろ!」

そしてもう一度刷り込んであげます。チームプレイこそが勝利をつかむのに必要なのだという戯言を。かつての君のやり方は間違っていませんでした。むしろ究極に正しかったのです。卒業まで一度も破られなかった無敗記録。それが何よりの証でした。だから目を覚 まさせる、なんていう言い方はしません。君の目を眩ませる。それが僕の最大の願いであり、目標です。黄瀬くん。緑間くん。青峰くん。紫原くん。周りはもう固め終えました。赤司くん、あとは君だけなんです。

さあ、一緒にバスケをしましょう?




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