舞姫



※森/鴎/外『舞/姫』より
 佐助が♀






ある日の夕暮れのこと、下宿先に帰ろうとして通りかかった寂れた古い教会。
閉まりかかったその門に寄りかかり、声を殺すように泣く一人の女子を見かけた。
歳は自分と同じ頃であろうか。
緩く波打つその髪は路地に射し込む夕陽のように紅く、身に纏う艶やかな衣服にとてもよく合っている。
某の気配に気付き、振り返ったその顔は、口下手な某には表現出来るはずなどないのだがあえて一つ述べるのなれば、涙に濡れた長い睫毛に覆われた、深い悲しみを浮かべる鮮やかな緑は、どうして一目で頑なな某の心を、頭を、貫いたのだろうか。

その気持ちが同情だったのか、はたまた恋慕というものだったのだろうかは分からぬが、某は思わず傍に駆け寄り、
「どうして泣いているのだ。某に何か出来ることがあるやもしれぬ。話してはくれませぬか?」
と言葉をかけた。
自分でも呆れる程の大胆さもその時は気にならなかった。
彼女は驚いて某の顔を見つめていたが、へらっと笑い、
「ありがとう。えっと…、旦那、でいいかな?いい人なんだね。あいつと違って。」
そして、しばらく涸れていた涙が再びそのつるりとした美しい頬を流れ落ちた。
「初めて会った人にこんなこと頼むのも何なんだけどさ。旦那、俺様を助けてくれないかな?ちょっと大変なことになってて…。」
「うむ、某に出来ることなれば」
おきまりのような返事を返すと、ちょっと…重い話聞かすけど、としっかり前置きを入れて話は続けられた。
「…今まで、天涯孤独の身同士で支え合ったきた友達がいたんだけどね、遂に病気でなくなっちゃって。葬式…しなくちゃいけないけど、なんせお互いギリギリの生活でさ、正直そんな余裕なんかなくて…。」
話すうちに記憶が甦ったのだろう。
徐々に目は伏せられ、後にはすすり泣きの声が続くばかり。
そして某の目は彼女の震える細い首筋に注がれるばかり。
口調こそ軽いがその身に背負うものの重さが見て取れた。
「とりあえず今は家まで送ろう。落ち着いて涙を拭いてくだされ。人目を集めているゆえ。」
彼女は知らず知らずに、某の肩に寄りかかっていたが、この時ふと顔を上げ、初めて某を見たように、
「ご、ごめん…!迷惑だったよね!」
と焦りながら、恥じらいで赤くなった顔を手で覆い、某の傍から飛び退いた。


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深く考えたら負け。


本家『舞/姫』面白いよねー。


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