暴君抑制計画



空は青くて、風は穏やか、快い日差しに、ちらほらと咲き始めた花が目に鮮やかな素晴らしく清々しいマラソン日和。

なのにさあ――

何で皆そんなに強張った表情なの?

何でこんなに空気張り詰めてんの?

何で保健の後輩達は顔が青ざめてんの?

何で伊作はいつもの不運を封印してんの?

何で文次郎は腹から大量の血流して青白い顔で横たわってんの?

そして何より、
何で私は何も出来ずに呆然と突っ立ってんの?


全ての理由は明白で、私が文次郎に怪我させちゃったからなんだけどさ。確かに武器持ち出すくらいにはお互いぷっつんしてたよ?確かに結構いいの入ったよ?だけどさ、そんな大袈裟なことじゃなかったって、多分。

ねえ、私はどうしたらいいんだ?
何?水がいるの?分かった行って来る。


なんて思って全力疾走したのはたった数分前。

戻った私の目が捉えたのは、伊作の止まった手と、苦虫噛み潰したような皆の顔。これが何を意味するかくらい流石の私にだって分かってしまった。
力を失った手から滑り落ちる桶。なんとも滑稽な音をたて、水が飛び散った。


(なあ、嘘だろ?嘘だよな?)


「…う…、ああああぁぁぁぁ!!?」


そして私は飛び出した。


身体の奥から沸き上がるどうしようもない衝動をかき消すように、直視したくない現実を振り払うように、ひたすら走る走る。

裏山も、裏々山も、裏裏々山も越えて、もうどれだけ走ったかも分からなくなったころ、私の頭とはうらはらに凪いだ湖にぶち当たった。ようやく我に返って、熱かった身体が冷めだし、靄掛かった頭が冴えだした。やっと意識に入った息遣いはいつにもなく荒く、頭の中で反響するのが新鮮だった。

頭を冷やすついでに顔を洗う。
波紋が残る水面に醜く歪んだ私の顔が映った。


















「文次郎、文次郎」













「文次郎」









「起きろよ」


ガスッ
むくっ


「痛えよ、バカタレ。もう良いのか」
頭を抑えて起き上がった死体がそう尋ねれば、
「ああ、十分だ。あいつ、発狂して逃走したぞ」
けらけらといかにも満足そうな笑い声を上げる作法委員長。
「いやぁ、楽しかったぁ」
顔を綻ばせるのは保険委員長で、「いい反応だったな」
それに続くのはなんだか楽しそうな用具委員長。
「…見事」
表情は変わらずともしっかり乗ってくるあたり図書委員長も楽しんでいたのだろう。
「これで少しは大人しくなってくれたらいいんだがな」
最後に締めるは苦笑いの死体こと会計委員長。

そう、これは本の破壊、塹壕埋め、増える怪我人、かさむ予算、悪乗り、という各々の理由で、暴君こと体育委員長への恨みを持つ者が企んだ『加減を分からせよう作成』、まあ平たく言ってしまえばドッキリなのであった。

「先輩達もえげつないですねー。」との台詞を残して自室に戻っていったバレーボール砲弾の標的である不運委員会の協力も忘れてはいけない。


「それでは」
と誰かが声を掛ければ、何処からだしたのか、それぞれの手には酒。

「では、今までの苦労と今後への期待をこめて、」

『乾杯!』



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エイプリルフール記念。


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