泣かない強さ



※攘夷時代
 銀時目線




雨音と泣き声が耳に障る


「おい、」
「あ…、坂田さん…。ご無事ですか?お怪我は?」
「いや、大丈夫。それよりどうしたの?やけに騒がしいね。」
「…それが」

しどろもどろで的を得ないなんとも分かりにくい話だったが、要するに、

高杉率いる鬼兵隊が大打撃をくらったらしい。


鬼兵隊に割り当てられた部屋の前はさらに酷いことになっていた。

泣き声、喚き声、叫び声、足音、さらに一刻程前から振り出した雨音、
全てが混ざって頭に流れ込む。


「…っ、こりゃひでぇな。」

障子を開けば音も、そして匂いも酷くなる。
血の、いや、死の匂いか。明日には人数が確実に三割は減ってるだろうな。

(高杉が居ねぇな…。まぁ、死んでることはないだろうが。)


「おーい、君。高杉知らねーか?」
「あ、坂田さん…。高杉さんならおそらく自室に…」


『なんだよ、高杉は!部下がこんだけやられたってのに無関心かよ!?』
『薄情過ぎんだろ…』


「……」
「あの…」
「ん?」
「高杉さん…帰ってきてすぐ自室に籠もってしまわれて…。一言すら無かったのが腑に落ちないのかと…。」
「ふーん、そーなの。まあいいや。俺、ちょっと高杉のとこ行くから」
「あ、はい…」



――――――――

「おーい、高杉ー。」
「……」
「入るよー。入っちゃうよー。」
「…来んな。」
「んー、やだ。」
「来んな!!」

まあ、そもそも了承など得る気もないので勝手に障子を開けて中に入る。

案の定、あいつは部屋で小さくなっていた。
目を合わせるどころか顔すら上げようとしない。



「…大変だったね。」
「……入るなっつただろ。」
「お仲間んとこ行かなくていいの?」
「…知らねぇよ。」
「文句言われてましたけど?」
「関係ねぇ。」
「どうしたの、ピリピリして。らしくないよ?…いや、らしいっちゃらしいか…。」
「うるせぇな。出てけよ…。」



やだよ。つーか、今のお前をほっとけるわけないっしょ。
そんな風に茶化せば
意味分かんねぇよ。と
強がりな言葉が返ってくる。

「あれ?分かんないんだ。」


人のことには敏感なくせに、自分のことには酷く鈍感。
だって、今お前、


「泣きそうじゃん。」
「…泣いてねぇよ…。」
「声、震えてるけど?」
「うっせぇな!俺にかまうな!!」

紫がかった綺麗な髪が揺れると、今は少し潤んでいる目がこっちを睨む。


「やっとこっち見たね。」


「っ!」
「ほら、目元も赤いし、何我慢してんの?」
「平気だってんだろ!」


ぎゅっ


「っな!何してんだ、貴様は!!」
「泣いていーよ。」
「っ!?」
「俺の前でくらいは強くなくていーよ。」
「な、なん…だ。そ……。」

黙ったかと思えばすぐ

ぽたっ


「…うぅっ、…。」

涙と共に、小さな嗚咽が漏れだす。


畜生、可愛いな、おい。
頼むからぶっ飛んでくれんなよ、俺の理性。


そんな生殺しの状態が半刻程続いた頃だろうか。

不意にとつとつと語りだした。

「死んだ仲間の中に(それなりに)親しくしてた奴がいた。」とか
「自分を庇って死んだ奴がいる。」とか
「死に慣れてしまった自分が嫌。」だとか。


普段の高杉からは想像出来ない程に脆く弱々しい言葉を、俺は軽く相槌を入れる以外はただひたすら黙って聞いていた。


話終えた頃には大分落ち着いたのか、泣き声も止まった。



静かになってしばらくすると、微かな寝息が聞こえてくる。

もう寝ちゃったのか、つまんねーなぁ。くらいは思ったけど、精神的にも身体的にもかなりキツかったんだろうし無理もない。


ホントは仲間の弔いもしたかったんだろう。
けど仲間の前では強い大将でいたい、泣き顔なんか見せられない、という不器用な思いがさらにこいつを追い詰めて…





もし……、もし俺がこいつに好きだと打ち明けられたら、
天人とか、悪意とか、罪悪感とか、全てのことから守れる立場に立てたとしたら、こいつは少しでも救われるんだろうか。


でも、そんなことはしない、出来ない。
俺も、きっとこいつも、まだ『仲間』という繋がりを捨てきれないから。


畳の上に高杉を転がすと、引き出しから引っ張りだした毛布を掛けてやる。


きっと、俺はずっと、こいつの強さ故の脆さを理解した振りをし続ける。

『仲間』として大切にしているように見えるように。


「ごめんね、俺も弱いんだ。」


伝わらないと知りながら、まだ赤い目元にキスをひとつ落とした。



願わくはこの不器用な生き物が、二度とその乾いた瞳を涙で濡らす時が来ないことを。




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銀魂にはまってたとき、リア友にいわれて書いたもの。


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