中在家長次の嘆嗟



※現パロ
 長次目線
 『中在家長次の諦念』の続き。




小平太の住む寮の前。
深夜に似つかわしくない騒音が聞こえる。あれ?おかしいな。あいつの部屋は3階のはずだったんだが。駐車場にまで音は響いている。体育会系の野郎ばかりの社員寮だからまだいいが、一般のアパートなら確実に苦情がくる音量だ。

重い足取りで階段を上る。
ドアノブに手をかけた。中から聞こえてくる高笑い、破壊音、泣き声、断末魔。…帰りたい。全力で帰りたい。しかしグダグダ言ってもしょうがない。意を決してそっとドアを開けた。
「長次!来てくれたのか!おい、待て、ドア閉めんな!!」
「…手を離せ、抵抗するな。」
おかしい、確認出来るだけでも1ダースはある。空の一升ビンが。
「こんな化け物の巣窟に俺を置いてく気か」
「……。」
「痛い、痛い!無言で指折ろうとすんな!」

入ってしまった。既に後悔しかない。文次郎から与えられたミッションはごく単純。『寝かしつけろ』手段は問わないらしい。もう話が通じる状態ではないらしく、酔い潰してしまうか、実力行使を勧められた。

部屋の前でモタモタしている文次郎を押し退け、半ばやけくそに派手な音をたてドアを開ける。
パァーンッ
俺の頬を銀色の物体が掠めた。
「遅い!」
「てめえ!」
後ろには額を赤くし殺気を振りまく文次郎とひしゃげたア●ヒスーパードライの缶。
「泡盛が飲みたいと言っただろうが!」
「今何時だと思ってやがる!」
目の前の仙蔵はいつものクールさなど見る影もなく、今にも閉じそうな虚ろな目で、しきりに「泡盛、泡盛」と連呼している。強い訳でも無いくせに、カクテル、酎ハイは酒じゃない!とか言い張って、やたらと度の強い酒を好む仙蔵は節制しないといつもべろんべろんになり、翌日は二日酔いに苦しむ。いい加減学べばいいのに。とりあえずこの様子を撮って仙蔵に異常な憧れを抱いている女どもに流してやりたいと思った。

質の悪い酔っぱらいは文次郎に任せる(押し付ける)ことに決めた。それでも敵はまだ3人も残っている。…まあ、その中でも一番手におえない奴が俺担当なのは暗黙の了解で…。
期待に応えるべく、部屋の隅にいるそいつに目をやる。

余談だが、小平太の酔い方には三段階ある。
最初は、顔には出ない。意外と酒に強く、接待で飲むくらいなら大体これで済む。この時は普段の小平太と大差ない。若干陽気にはなるが、基本は平常のテンションだ。

次に、超暴君。
対友達だとここまでいく。店でこれを発動させると、店の修理代が酒代を遥かに上回る。あ、治療費もか。この状態が最も手が付けられない。というか、我が身の安全のため近づかないことをおすすめする。

最後に、欝。
これはまず発動しない。超暴君の小平太に怯まず、ひたすら飲み続けられる強者と飲む時。つまり唯一この幼なじみ六人の時しか出ない。確かに超暴君時より怪我、破壊の心配はないのだが、正直気持ち悪い。いや、気味が悪い。近づきたくない。

今、奴は部屋の隅で焼酎を傾けている。もちろん、欝状態だ。
「28にもなって“バコン”暴君って何、唯の自分勝手だし、長次にも滝ちゃんにも迷惑“ガシャン”かけてるし、物は壊すし、直さないし“ドコン”、始末書も読めたものじゃないし、しかもいけいけどんどんってなんだ、“メシャ”意味が分からん、なんかもう……」
「……。」
「…死にたい。」
…テンションがどうであれ、腕力に差はないらしい。壁に空いた無数の穴にまた新たなものが追加された。

……さあ、寝かすか。


「すごいな、小平太相手に無傷か。」
「慣れたものだからな。」
ポイントは“首の付け根に水平に”、だ。
「……流石。俺では缶やビンの砲弾の上に、無理やり引きずろうとして、腕を粉砕されかけた。」
差し出された右腕には手形の痣。
左腕にも無数の痣が見える。やはり暴君は暴君だったか。

「残りの2人を片付けてくるわ。長次は雑巾用意してもらえるか?」
「1人で大丈夫か」
「あの人外組に比べりゃまともだからな…」
「そうか…」
そして文次郎は隣の部屋に旅立った。

小平太の部屋に雑巾なんて立派な物があるわけがないので、タオルの山から傷んだのを引っ張りだした。ビンやら缶やらで埋まった流し台を掘り起こし、タオルを濡らす。ついでにゴミ袋も持っていってやろうと、棚をあさっていたその時、文次郎の断末魔が響いた。

ゴミ袋も雑巾もどきも放り出し、床に散らばる空き缶を蹴飛ばして、断末魔の聞こえた部屋を覗く。
「あ、長次。来てたんだー。」
ふわふわの髪に、爽やかな笑顔、右手に握られた度の強いウイスキー、足元でうつ伏せになって息絶えたウイスキーまみれの同級生。
そうか、飲まされたんだな。
文次郎は酒に強い訳ではない。
ただでさえ疲れている上にに急なウイスキーでは潰れるのも無理はない。屍となった戦友に合掌した。

爽やかな笑顔を携えた、一見素面の酔っぱらいは、潰れた獲物に興味はないらしく、先ほどまで人外組がはびこっていた部屋へ立ち去った。しょうがないので、殉職した文次郎を運ぼうと腰を屈めた時、横からタックルをくらった。不意討ちに加え不安定な体制のせいで大胆に缶の山に押し倒れる羽目になった。
留三郎の馬乗り付きで。
「うわぁぁ。…ひっく。長次ぃ…。」
留三郎もなかなかに厄介で、酔うと泣き上戸と化す。それだけならまだ良いが、人肌恋しくなるタイプらしくやたらくっついてくる。しかも普段から武闘派と言われるだけのことはあり簡単には振りほどけない。まあぶっちゃけ、うざい。仕事の邪魔をされ、飲んでもいない酒の席の後片付けをさせられている今、それはイライラを増幅させるのに交換抜群で、文次郎の電話の頃から徐々に増していった不快指数は遂にMAXに達した。どうせ酒の力が記憶なんて消してくれるだろうと割り切り、わりかし自由な右手を渾身の力で叩き込んだ。もちろん、鳩尾に。
「うぅー。いーたーいー。」
いや、倒れろよ。
結構いいの入ったぞ。なんで弱体化してんのに武闘派は捨てねぇんだよ。少し唖然としていると、留三郎の反撃。両手で顔を捕まれた。次に続くであろう頭突きに構えていると、慣れない感触。
口に。

……そうか、キスされたんだな、男に。
酔った留三郎がキス魔なことは噂に聞いていたが、まさか自分が被害者になる日がくるとは。現実に目を向けるのにこんなに時間がかかったのは初めてだ。止めろ、股間に手を伸ばすな。人肌恋しい、のレベル越えてるって。だいたいお前の守備範囲はショタとか言われるとこだろ?俺入ってなくね?

“ガシャン”
意識を飛ばし始めたところで、寝室から聞こえる物音に気付く。すぐさま現実に意識を引き戻し、上にいる変態を全力で押し退け寝室に向かう。

中では伊作がなんとも清々しい表情でCDケースを散乱させていた。手元を覗くと中身を入れ換えている。どれだけ鬱憤が溜まってたんだ。シンプルだが地味に腹立つことを分かってやってやがる。一通りやりきったらしくCDを棚に戻し、おもむろに立ち上がる。そして傍らのウイスキーを手にとって、人外組の枕元に近づいた。次の瞬間、違和感を感じさせない程自然に手を頭上に掲げた。Withウイスキーで。

ちょっと待て、何をする気だ。
まさかその人外どもにぶっかけるとかいわないよな?
しかし、意に反しボトルはゆっくりと傾く。食い止めようと伸ばした手が他の手に阻まれた。
「ちょうじぃ…!」
額に青筋が浮かんだ。

水平に近づくボトル、恍惚とした笑顔の魔王に、絡み付く変態。協力者はもういない。絶体絶命、目の前の2人にこの後ぶち切れるであろう化け物2人を加え、4人になる敵を1人で相手できる自信はない。死も覚悟しかけた時、火事場の馬鹿力とでもいうのか、自己防衛本能が働いた。

空いている左手で変態の頭を掴んで引き剥がし、それによって自由になった右手で魔王の頭をわしづかみにして引き寄せる。そして流れにまかせ、勝ち割る勢いで……。

漫画なら星が飛ぶような音だった。

衝撃で気絶し崩れおちる2人、宙を舞うボトルは窓ガラスを破壊し、ベランダの床への衝突によって砕け散った。入り込む風が心地よい。


終わった。
解放感と達成感を全身で味わう。こんなにも達成感のある仕事はなかなかないだろう。

……あ、仕事。やばい、もう日付が変わってやがる。家に着く頃には1時。今日は寝れんな。しかし、すぐに帰り、全力で取り掛かればとりあえず仕事は終わる。
よし、帰ろう。

そう決めた俺の足取りは来たときとは比べものにならない程軽い。床がごちゃごちゃなのも気にとめず、玄関、の前に冷蔵庫へ直行。

すぐさま扉を開いた。
思わず頬が緩む。
これか、仙蔵の言っていたのは。確かに俺好みの酒ばかりだ。くすねるのは一本だけのつもりだったが、一滴も酒を飲ませてもらってないにもかかわらず、この片付けという名の重労働だけをやらされたんだ、2、3本貰っていっても罰は当たらないだろう。

味も値段も考慮し究極の3本を選び出したが、やはり他にも目移りしてしまう。もう一本、とも考えたがうちの冷蔵庫の大きさ、空きスペースを思うとこれが限界だろう。しかしこれが飲めないのは惜しい。しかも味も分からん暴君に一気されてしまう可能性を考えると余計にだ。


ということで、味見することにした。
それぞれ一杯だけ、その程度なら事故らず帰れる自信がある。目の前に気になったものを全部並べ、とりあえず一番高そうな一本を注ぐ。酒が小さな波紋を描いた。
そしてそれを口に運ぶ。ここまでが俺の記憶に残るこの日の惨状の全てだ。




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キャラ崩壊/(^O^)\

まだ続きます→『中在家長次の惨劇



嘆嗟=嘆くこと。(広辞苑)


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