どうか幸せで



※死ネタ
 伊作目線


文次郎が死んだ。

意識がないまま保健室に連れてこられた彼は、新野先生や僕を筆頭とする保険委員の三日三晩の治療も虚しく、明け方呆気なく十五年という短い生涯を終えた。相手は腕のたつプロ忍だったらしく、傷は深く急所を的確に突いており、先ほど呆気なくとは言ったものの、意識を失った後、三日も持ちこたえた生命力には流石と言うべきなのだろう。

また、生命力だけでなく体力、知力なども一目おかれ、学園一忍者しているとも言われていた彼が卒業を向かえられなかったことは学園に多少の動揺を与えた。しかし、六年間で培った死への慣れのせいか、この学年はさほど荒れず、その日の晩には慎ましやかに葬儀が行われた。けれどやはり、六年の重みは大きく、彼と親しかった者はもちろん、たいして交友のなかった者でさえ、程度は違えど皆涙を流していた。

唯一人、立花仙蔵を除いては。

仙蔵が起こした文次郎の死と関わった行動といえば、青白くなった彼の顔を見て「……文…次郎…」と微かな声で名前を呼んだのみだ。その姿は僕に違和感と少しの恐怖を覚えさせた。しかし他の者は、立花は冷静だから、プライド高いから、心配しすぎだ、などと言い相手にしてくれない。だが、実は仙蔵は表面からは想像出来ないくらいには涙もろい。それに何より、仙蔵と文次郎は恋仲にあったのだ。それも、微笑ましい……を通りこして鬱陶しいと思う程度に依存し合っていた。その仙蔵が文次郎を失って動じない訳がない。
長次、留三郎、さらには基本人のことには疎く、大雑把な小平太までもが同じことを思ったのだから、きっと間違ってはいないだろう。

表面は今までとなんら変わりないが(それが今回の違和感や恐怖の原因で、顔に出やすいタイプならよかったのにと思うわけだが)いつ取り返しのつかないことをやらかしてもおかしくない。仙蔵は思い詰めるとやらかすタイプ、というのは、僕ら四人は身をもって理解しているので、気を紛らわせてやることに全力を尽くした。

バレーに誘ったり、酒を持っていったり、後輩を連れて押し掛けたり、毒薬トークをかましにいったり…
ばっさりと断られたり、質の悪い絡まれ方をされたり、炮烙火矢を投げられたり、悪趣味だと言われたり、と一見良いとは言えない反応だったが僕らは皆安堵した。
何故なら、仙蔵が笑顔を見せたから。
このままいけば、文次郎の死に向き合うのも、立ち直り、また元通りに忍の道を歩むのも時間の問題だと思っていた。

しかし、それは間違いだったと気付かされた。

耐えられるはずがなかったのだ。
いくら僕らが賑やかさを繕おうと、彼が独りで戻るのは六年間、文次郎と共に生活し、彼の面影が残る部屋。そこに存在するのは自分だけだということの淋しさ、虚しさ、その他諸々の感覚は目や耳から入る情報よりも、強く、鋭く、文次郎の死を仙蔵に叩きつけた。

そして、仙蔵の拒絶も僕らの想いも嘲笑うかのような圧倒的な力で仙蔵の精神は蝕まれ、壊された。
いや、葬式の時点で既に壊れていたのだろうか。

しかし、それを確かめる術はもうない。

僕らは今朝、二人目の仲間を失った。



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過去とは違う幸せを』に続きます。


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