バシャン!
水面が大きく波打って現れた漆黒に、待機していたコンラートは慌てて毛布を広げた。 眞魔国は冬を迎え、昼夜問わずに冷え込んでいる。 そんな中に招いてしまうのは心痛するばかりだが、どうあっても水を媒介にするしかないようで、主従の不満はぶつける先をなくしたままだ。 細菌やウィルスを持ち込まないために、水で全身を丸洗いされていると聞かされれば、その不満も口を紡ぐしかない。 有利は渋々納得していたが、彼を唯一の絶対君主と崇め、ベクトルを全て向けきっているコンラートには、到底納得の出来る話しではなかった。
「さ、寒い、てか冷たい!」
「お帰りなさい陛下、さあ早く出て」
「たたたただいまなななな名付け親、へいか…クシュンッ……いうな…ヘプシッ」
これはダメだ、寒くて歯が噛み合ってない。 かじかんで動きの鈍い有利にじれたコンラートは、広げた毛布を頭から被せるとそのまま抱き上げた。
「うひゃ…て、濡れる、あんたも濡れるってば!」
「構いません、直ぐに湯殿に行きますから暴れないで」
水で濡れた体は、外気にあてられてすっかり冷たくなってしまっている。 やはりどうにかしたいな…、せめて場所を魔王専用風呂に特定出来ないか――顔をしかめてコンラートは改めて思う。 残念ながら、スタツアの際に的を絞れるほど、魔力をコントロール出来るそんな器用さは今の有利にはない。 早く慣れて欲しいなという思いもあるが、場所を特定しない眞王への不満の方が遥かに高い。……口に出すようなヘマはしないが、本当にこの男、有利が第一と言って憚らないだけあり、眞魔国の創建者を平気でこき下ろしさえする。
「コンラッド、あったかい」
抱き上げられて不満を言っていた有利は、じわりと移るコンラートの体温にホッと肩の力を抜いた。 その幼子のような口調に、愛惜しさは増して、腕に力を込めて冷たい体を抱き締めた。
彼を思って上がった熱を、全部感じて欲しくて。 |