渡した竹筒の水を飲む小さな後輩は、子供らしく遠慮なく含んでいる。 これがい組の一年だったら、恐縮して潤す程度のひとくちで返されるだろう。いや、そもそもオリエンテーリングが始まって早々に水筒を空にする、なんて事はない筈だ。 ろ組は潔癖な面が強いから、自分の竹筒でしか飲まないかも知れない。
一応、所謂は間接的な接吻にあたるのだから。
雷蔵はんくんくと喉を鳴らす乱太郎を見下ろし、そんなことを考えた自分に首を振る。 ちょっと待って、うん、落ち着いて僕。こんなの別に同性同士で、しかも後輩に対して気にするものじゃないだろう? 接吻、だなんて。 自分と間接だなんて。
「不破先輩ありがとうございました!」
「どういたしまして。近くの川で水汲みながら行こうか」
「はい!」
ちゃぷちゃぷと少量になった竹筒を腰に下げ、乱太郎の小さな手を繋ぐ。 水で潤った子供らしいふくふくの唇が、やけに目についてしまってドキリとした。 しゃがんで目を合わせれば、きょとんとしながらも近くなった目線に、素直に嬉しそうに笑顔を見せる。 ああ、うん、可愛い。
「はれ?」
ごめんなさいすみません! 誰に謝れば良いんだ、土井先生か、山田先生か。やはり乱太郎のご両親にだろうか。 小さな唇を奪ってから、雷蔵は悩み癖を発症させた。 そこはまず接吻された本人に謝るべきだろう。 第三者が居たならそうツッコめたが、今は幸か不幸か二人しかいない。 呆然と口を開ける乱太郎、頭を抱え込んでしまった雷蔵。
見回りにきた教員が、首を傾げたのは言うまでもない。 |