ひまわりたちに見守られて
悔しそうにしているなっちゃんも後を追いかけてきた私も汗まみれだ。
「なっちゃん、もう降参して出ようよ……」
次から次へ流れてくる汗を拭いながら提案してみるが、答えは最初から分かっていた。
「いーや、ここは意地でも自力で出る! 一位が無理ならそれくらいは絶対だ!」
すでに意固地になっているなっちゃんに深いため息が出た。きょろきょろとどちらに進むか考えているなっちゃんに苦笑いがこみあげる。
「よし、行くぞ! 透!」
暑い日差しの中で、また手を差し出してくれたなっちゃんが眩しい。
「うん!」
喜んでなっちゃんの手を取ると、彼は意外そうに目を丸くさせた後、照れたように笑ってくれた。
今日の私はあの日のなっちゃんのように伝えたいことがある。あれから私はきちんと答えを見つけた。なっちゃんといっくん。二人が私を好きだと言ってくれたあの日から何年も経ってしまったけれど、この答えは揺るがない。なっちゃんより先に伝えたいっくんは私の答えを受け入れてくれて、何も言わずに微笑んでくれた。その優しい微笑みが今も―――。
「おい、今何考えてた?」
「えっ!?」
明らかに不機嫌そう……というよりも怒っているなっちゃんに心の中を読まれたようでドキリとした。
「何回声かけても、ぼーっとして……。他の男のこと考えてたのか?」
怖いくらい言い当ててくるなっちゃんに私は曖昧に笑うことしかできなくて誤魔化していると、彼は拗ねた目をしていた。
「……郁弥か?」
「えっと、そう、だね……」
いっくんに似た目が寂しそうにすると私は嘘をつけなくなってしまって、正直に答えた。だけど、そのせいでなっちゃんが今よりも悲しそうな目をするから、すごい罪悪感で胸がいっぱいになる。ゆっくりと離れて行ってしまったなっちゃんの手。手に残る彼の温もりが、夏だというのに心を冷やしていくようなそんな不安を覚えさせた。
「こっちきて!」
無理矢理握ったなっちゃんの手。彼が驚いていることなんて知らない。そんなことより私はとても大切なことを決心して家を出たんだ。ぐいぐいと方向なんか分からずに突き進む。
「お、おい! 透? お前、何怒ってるんだよ?」
「怒ってない!!」
めちゃくちゃに突き進み続けていれば、迷路の道が急に狭くなった。そこで私はなっちゃんの手を離した。まだ私が怒っていると思っているなっちゃんはおろおろとして、何か言おうとしては口をへの字に閉じる。
「……ごめんね。なっちゃんにそんな顔をさせたいわけじゃないんだけど、私、なっちゃんの前だと甘えちゃうみたいで……」
言わなきゃ。そう思うとスカートを握る手に力が入る。俯いた視界からは細かいしわの入ったスカートがよく見えた。
「私、好きな人ができたよ……」
頬が少し熱い。その熱を感じながら、なっちゃんを見ると彼は目を丸くさせたまま真っ直ぐに私を見ていた。
「なっちゃんはまだ―――」
言葉の途中で強く抱き寄せられた。耳元で聞こえた声はツラい何かに耐えるように震えていた。
「嫌だ……。郁弥のところに行くな……。行かないでくれ……」
震えている彼の腕の中で笑みがこぼれた。
「早とちりだね、なっちゃん。ちゃんと聞いて?」
ゆるゆると私の体からなっちゃんの腕が離れる。見上げれば不安そうにしている目がちゃんと見えた。年上のくせに私のことになるとどこか余裕がない。それほど、まだ想ってくれているんだと嬉しくなった。
「好きだよ。夏也―――」
彼の両肩に手を乗せて、私はそのまま唇を奪った。離れて見てみれば、彼は放心状態で固まってしまったまま動かない。
「なっちゃん?」
目の前で何度か手を振る。すぐにハッとしたなっちゃんはどんどんとトマトのように真っ赤になった。
「い、今……透、お前……。え? これ、夢じゃないよな?」
混乱しているなっちゃんに私はくすりと笑う。
「ねえ、答えは?」
からかうように笑いかければ、なっちゃんは挑戦的な笑みで私を見下ろした。
「俺も好きに決まってんだろ!」
抱きつくのも抱きしめられるのも同時だった。さっきよりも嬉しい気持ちで抱きしめあった私たちはひまわり畑の中でもう一度キスをした。
ひまわり
〜愛慕/私はあなただけを見つめる〜