夏休みの思い出

 珍しく雪乃が寝る時間よりも早く帰宅した相澤を出迎えたのは、笑顔いっぱいの雪乃と深刻な顔をした桜だった。
 見せたいものがあるとリビングに向かってパタパタと走って行った小さな背中を見送ってから、彼は彼女に顔を向けた。

「どうした?」

「実は―――」

そこで訊かされたことに相澤は、は?と眉間にしわを寄せる。そして、桜の悩みを理解したのは雪乃が寝てからだった。

***

「確かに、全然分かってないな」

 玄関で彼女から聞いていた話を雪乃に確かめた彼は小さくため息を零して、横目で彼女を見た。
 雪乃の前ではにこにこと笑みを絶やさなかった桜はマグマップを両手に包みながら、相澤を出迎えたときと同じように難しい顔をしている。

「ネットの写真とかも見せたんですけど、やっぱり実際に見たことのないものって分かりにくいみたいですね」

 コトリ、とローテーブルにマグカップを置いた彼女は大きくため息をこぼすと俯いた。

「そんなに深刻に考えるもんじゃないだろ。そのうち分かるようになる」

「それはそうなんですけど、今日、それで保育園の男の子たちにからかわれたみたいなんです」

 明らかにムッとした相澤は何も言わないが、顔に"そいつら、雪乃に気があるんじゃないだろうな"と書かれている。それに気づいて苦笑いを浮かべた彼女は、指摘したらもっと機嫌が悪くなるだろうなと、あえてそこに触れずに話し始めた。

 ちょうど桜が保育園へ迎えにいったとき、雪乃は数人の男の子に囲まれてからかわれていた。しかし、当の本人は何を言われているのか理解できておらず、首をかしげているだけ。迎えに来ていた彼女に気づいた雪乃は、駆け寄って不思議そうに聞いてきた。

『海と湖っておんなじじゃないの?』

『違いますよ……?』

桜から返ってきた答えに目をぱちぱちと瞬かせた雪乃は俯いて考え込んでいる。眉根をしっかりと寄せている様子は、まるで相澤のようだ。

『おうちに帰ったら、一緒に調べてみましょうか』

『うんっ!』

 そして、家で海と湖の違いを雪乃に説明したが、どれもこれもピンとこなかったようで、結果的に美味しいものがたくさんあるのが海、そうじゃないのが湖というところに落ち着いてしまった。

「お前、どんな説明したんだ」

 呆れた様子の相澤もマグカップを置く。就寝前の二人が飲んでいるのは、お土産にもらった寝つきをよくするハーブティーだった。

「湖は海より小さくて、海は大きな波があるって話したんですが、"波って何?"とか、"海はしょっぱいのに、なんで湖はしょっぱくないの?"って訊かれてしまって……」

うーん、と今でも頭を抱えている彼女に彼も口を閉じた。確かに、小さな子どもに見たことのないものを口頭で説明して理解させるのは難しいことだ。
そしてどうやら桜にもそれは難しいことだったらしいのは見当がつく。最近の雪乃の好奇心や知識欲には両親である相澤や桜を驚かせることが度々あるからだ。
きっと、"他に海には何があるの?"とでも聞かれた彼女はアレコレ思いつく限りのことを話し、結果、美味しいものが海にはたくさんあるということになってしまったのだろうと、まるで見ていたかのように相澤は正確にこの話を理解していた。

「消太さんなら、どう説明しました……?」

 まだ半分ほど中身が残っているマグカップへ相澤の視線が落ちる。

「そうだな」

少し考えてみて、これが一番合理的かと彼は目を横に座る彼女へ向けた。

「なぁ―――」

***

 夏らしい水色の空にはちぎった綿あめのような雲がぽっかりと浮かんでいる。吹き付けてきた風が、いつもとは違う匂いを乗せていることに雪乃はドキドキとして、彼らの顔を見上げた。

「すごいねぇ!」

 具体的に何が凄いのかは、その言葉だけでは分からない。しかし、何かを感じていてそれを伝えたくて仕方がないのだけはよく分かる。

「そうだな」

 ふ、と表情を和らげる相澤と同じように桜も雪乃へ微笑みかけた。

 休みを合わせた相澤と桜が雪乃を連れてきたのは、海水浴場。たくさんの人が楽しそうにしているこの雰囲気に雪乃の気分もふわふわと盛り上がっていく。

「パラソルを立てたら、お昼にしますか? それとも、先に入ってみます?」

「えっと、ええっと」

 帰宅した旦那を出迎える新妻のようなセリフだと思っている相澤の横で雪乃は、えっとを何度も繰り返す。昼食も魅力的だが、海水に触れてみたい気持ちもあって、きょろきょろとしながら迷っている。
 迷うと長いのは誰に似たのか。きっと桜に似たんだろうと思いながら、相澤は雪乃を見た。

「まだ時間的にも早いし、先に遊んできてもいいんじゃないか?」

 ぱあっと、顔を明るくさせた雪乃が、何度も頷く。どうやら嬉しさのあまり言葉にできないようだ。

「まずはパラソルを立てましょうね。海はそれからにしましょう」

さ、パラソルパラソル、と離れていく彼女を見送った雪乃は微妙な違和感に首を傾げた。

「ほら、雪乃も手伝ってこい」

「う、うん!」

パタパタと駆けていった雪乃を見た相澤は、やれやれと桜を見る。高校の頃に泳げるようになったとはいえ、まだ彼女は水に苦手意識を持っているようだ。

「消太さん、パラソルくださーい!」

 砂の上にレジャーシートを広げた彼女と雪乃は端が風で捲れ上がらないように、石や荷物を置いていた。

 待っている二人の元へパラソルとクーラーボックスを持っていた相澤が向かう。ニコニコと楽しそうにしている雪乃を見れば、不思議と相澤まで楽しい気持ちにさせられていた。

***

 いざ、遊ぶとなると雪乃は大はしゃぎだった。この日の為に買ってもらったワンピース水着は、白地にピンクのチェックとフリルが可愛らしい。

「見てください。雪乃、すっごく可愛いでしょう?」

満足そうに笑っている桜の前に出された雪乃はもじもじとしながら相澤を見上げた。

「あの、雪乃、変じゃない?」

「ああ、似合ってる」

俯きがちだった顔を上げた雪乃の髪は高い位置で、彼女と同じようにお団子にされている。彼の返事に嬉しそうに頬を緩ませた雪乃は、照れて少し赤くなっていた。

「雪乃、写真撮りましょう」

 今度は恥ずかしくなったのか、どことなく緊張した面持ちになった雪乃に、桜は、相澤も一緒に映るようにと促した。

「最初は消太さんと一緒に撮りましょう。その後は私と」

「う、うん」

無愛想な彼の手を握りながら恥ずかしそうにしている雪乃を写真に収めた彼女は、羽織っていたラッシュガードを脱ぐ。その下から出てきた、白くスラッとした手が惜しげもなく晒された。

「じゃあ、行きますよ」

 スマホのインカメラで撮ろうとしている桜の手から、相澤がスマホを抜き取る。

「俺が撮る」

「可愛く撮ってくださいね」

くすっと笑う彼女を無視して、相澤は顔を寄せ合って笑う二人を写真に収めた。スマホを受け取り、写真を確認している桜に近寄った彼は少し意外そうな声をかける。

「あの水着にしなかったんだな」

 相澤のいう"あの水着"とは、桜と初めてプールに行った際ときの白いビキニ。あれもあれでよく似合っていたが、露出する部分の多い水着は素直にいいと思うことができない。

「だって、消太さん、あの水着嫌なんでしょう?」

せっかく香山先輩が選んでくれたのに、あのときしか着られなくって勿体なかったですとぼやく彼女が着ているのはタンキニ。ノースリーブとショートパンツから伸びる手足は、まだ出し過ぎているように思えるが、あのビキニに比べればマシだと相澤も納得できた。

「あんなの下着と同じだろ」

「スケベな目で見ないでください」

もう、とムスッとしているものの、上目で見られればそれも可愛いだけで相澤は不満をぶつけられている気にならない。喉の奥で小さく笑った相澤は、先ほどから波打ち際に行きたくて、そわそわしっぱなしの雪乃に目を向ける。そして、彼女に行ってくると一言残して雪乃に浮き輪を持たせると、海岸へ打ち寄せる波に向かって歩き出した。

***

 最初は波を面白がり、近くに行ってはきゃーっと叫びながら逃げかえって来たり、相澤と手を繋ぎながら海に入ってみたり。どれもこれも初めて知ることばかりなだけでなく、非日常感がさらに雪乃を楽しませる。

 相澤に手を取ってもらいながら、浮き輪でぷかぷかと遊ぶ。波が来ると揺れるのも面白いし、底についていない足をバタバタをさせると前に進むのも面白い。初めて知る泳ぐという感覚に、きゃっきゃと笑っていれば、彼も微かに口元を笑わせている。こんなに楽しくっていいのだろうかと思うほど雪乃は今までにないほど大きな声を出して、海を楽しんでいた。

「そろそろ一旦上がるぞ」

「はーい」

 本当はもう少し浮き輪で遊んでいたかったけれど、パラソルの下で待っている桜に凄く楽しいということを教えたくもある。

 海から上がった雪乃は相澤の手を引きながら、自分たちのパラソルの元へと走った。

「お姉ちゃん、あのね! 海、凄いねぇ!」

目をキラキラとさせている雪乃の言葉では、海の何が凄いのかは分からない。しかし、その表情が何よりも雄弁に、海は楽しいことばかりで凄い!と語っている。

「ふふ、そうですね。楽しいから、もうお腹ぺこぺこになっちゃったんじゃないですか?」

 言われてみればとお腹をさすってみれば、きゅう、と鳴った。その様子に、桜の笑みがより深くなる。

「お昼を食べたら、かき氷も食べませんか?」

「かき氷? いいの?」

持ってきているのだろうかと首を傾げる雪乃に桜が、ほら、と指さす。そこには、更衣室を借りた海の家がある。

「あそこは着替えるところを貸してくれるだけじゃなくて、かき氷とか焼きそばも売ってるんですよ。私も海の家のものは食べたことがないので楽しみです」

(だと思った)

楽しそうにしている娘と妻を横目に見ながら彼は小さくため息を吐く。高校の頃は、こういった彼女の発言によく驚かされたものだが、まさかここでも聞くとは思っていなかった。

(高校まで泳げなかったから、海に興味がなくても当然か)

 昔を思い出していると、昔と変わらぬ声が相澤を呼ぶ。

「消太さん」

ハッとして顔を上げた彼に、桜が両手でタオルを差し出していた。

「これで砂を払ってください。そしたら、お昼にしましょう」

向けられた柔らかな笑みに、思わずドキリとしてしまった彼は見られないように、ふい、っと顔を背ける。目を瞬いた彼女は、相澤の赤くなっている耳を見て、目を細めていた。

***

 昼食を終えると、財布を持った桜が振り返った。

「消太さんも食べますか? かき氷」

「俺はいい」

水分補給をさせている雪乃の面倒を見ている相澤の返事を聞いて、彼女はパラソルの下を出る。遮蔽物のない浜辺に降り注ぐ日光を肌で感じながら、桜は一人で海の家に向かった。

 海の家は昼時ということもあり、相澤たちが更衣室を使ったときよりも混雑している。かき氷を求める列に彼女も並ぶと、海の家の壁に並ぶメニューを見た。

 想像よりもずっと豊富なメニューに感心している間にも列がどんどん進んでいく。聞こえてくる氷をかく音に気づいた桜は雪乃にはどのシロップがいいだろうかと考え始めた。

「ねえ、お姉さん」

「………」

 見えてきたメニューをじっと見ている彼女の目はまったく動かない。とん、と肩に触れられて初めて、自分が声をかけられているのに気がついた。

「え? あ、すみません。なんでしょう?」

 顔を上げた先にいたのは三人の若い男。見た目からは随分を遊んでいる印象を受けた。

「お姉さん、さっきから声かけてたのに、かき氷に夢中とか可愛いね」

「お姉さん一人? オトモダチと来てんの?」

桜の姿を下から舐めるように見た男たちの顔がニヤけだす。考えてみれば、海には出会いを求めて来ている人もいるか、と彼女は口を開いた。

「違います。今日は―――」

「ママ!」

 列をすり抜けた小さな人影が桜の足に抱き着く。ぎゅっと抱き着いてから、雪乃は顔を上げた。

「あのねっ! パパが雪乃も見て選んだ方がいいって!」

目を瞬いた彼女は、必死な様子の雪乃を見て彼に何を言われてここに来たのかを察する。おかしそうに小さく笑った桜の手が優しく小さな頭を撫でた。

「そうですね。思ったよりたくさん種類があったので、雪乃が選んだ方がいいかもしれません」

 窺うように男三人を見た雪乃は緊張で口を一文字に結ぶ。相澤の言う通り、この人たちの前で桜をママと呼べば、困っている彼女を助けられるのだろうか。小さな胸をドキドキさせていると、優しい手が雪乃を撫でた。

「ここには娘と主人と来てるんですが、それが何か?」

 にっこりと笑う桜に、声をかけてきた男たちはタジタジなって口をまごつかせている。ええっと、とまだ何か言おうとしていた男たちは、突然背筋に走った寒気に体を強張らせた。

「あ、パパ!」

 ナンパした女性をママと呼んだ女の子が手を振る先へと振り返った男たちの口から小さな悲鳴が上がる。
彼らが見たのは、血走らせた目で睨んでくる男がゆっくりとこちらへ向かってくる様子だった。

「うちのに何か?」

地を這うような声をかけられた男たちから血の気が引いていく。

「ス、スミマセンデシタ!!」

上ずった悲鳴交じりの声で謝罪した男たちは一目散に逃げだした。あまりの勢いに驚いてポカンとした雪乃は人と人の間をかき分けて走っていく彼らの背が分からなくなるまで、ずっと見ていた。

「まだ何もされてませんよ?」

「当たり前だ。何かされてからじゃ遅いだろ」

 フン、と鼻を鳴らした相澤の横顔を見ながら桜が口元に手を添えて小さく笑っている。

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」

 かけられた声の方へ顔を上げると人の好さそうなオジサンがニコニコと笑っていた。自分のことかと指をさした雪乃にオジサンが頷く。

「パパとママ、仲良しでいいねぇ」

 ハッとした相澤と桜が振り返ると、雪乃と海の家のオジサンが話し込んでいた。

「うん。いつも仲良しだよ」

純粋に褒められていると思っている雪乃は嬉しそうに笑う。冷やかされているというのは理解できない、幼い雪乃の代わりに、両親、特に桜の顔は真っ赤に染まり切っていた。

「いいですねぇ、美人な奥さんと、こんなに可愛い娘さんがいて」

「ええ。まあ」

 一切否定せず受け入れる相澤に更に恥ずかしくなった彼女は赤い顔を隠すように俯く。しかし、俯いたことで見上げてくる雪乃とバッチリと視線がぶつかった。

「どうしたの? 暑くなっちゃった?」

「え、えっと」

「パパとママとお熱いからね、オジサンまで熱くなってきちゃったよ」

大きく笑うオジサンにこれ以上しゃべらせまいと、彼女は焦ったように口を開く。

「あ、あの、ブルーハワイを一つ! ほら、雪乃も早く選んでください。他の方もまだ待ってますから!」

「あ、うん。えっと、イチゴください」

 お嬢ちゃんは可愛いから特別、なんて言葉と共にオマケをしてもらった雪乃は受け取ったかき氷に目を輝かせた。

「わあ! おっきい! ありがとうございます!」

嬉しそうな雪乃に笑みを返したオジサンは、今度はブルーハワイを相澤へ差し出す。

「はい。仲のいいパパとママにもオマケしましたよ」

「どうも」

人前で冷やかされて赤面しきっている彼女を堪能していた彼の手にあるかき氷にはストロースプーンが二本刺さっている。そのうちの一本が、彼の横から伸びてきた白い手に取られた。

「私たち、仲良しなのでストローは一本で大丈夫です」

 これまでよく動いていたオジサンの口が止まったのを見て、桜はにっこりと悪戯っ子のような可愛らしい笑みを浮かべる。

「それもそうですね! いや、気が利かなくって申し訳ない!」

大きく笑うオジサンの声に今度は相澤の顔が赤くなる。それに満足そうな顔した彼女は、彼の腕に自分の腕を絡めた。

「行きましょう」

 組んでいない方の手で雪乃と手を繋いだ桜に促されて相澤が歩き出す。黙って歩く彼の耳には、堪えきれていない彼女の笑い声が聞こえていた。

 戻って来たパラソルの下で雪乃はかき氷を口に運んでいる。たっぷりとかかった甘いシロップの部分を食べてはニコニコしている様子はとても可愛らしい。

「はい、消太さん」

青いシロップのかかったかき氷を乗せたストロースプーンを差し出された相澤は何のつもりだと眉間にしわを寄せた。

「落ちちゃいますよ? はい、アーン」

 引っ込める気のない桜に負けた彼が渋々口を開く。するりと口の中に残された氷はひんやりと甘く、想像通りの味だった。

「はい、もう一口どうぞ」

「もう勘弁しろ……」

 前を通る人に見られ、恥ずかしくないわけがない。普段、こんなことはしてこないのにと相澤が目元を赤らめながら見れば、桜はいつも通りの柔らかな笑みを返してきた。

「私たち、"お熱い"んですもんね?」

くすくすと笑う彼女の隣で雪乃がこてんと首を傾げている。何となく嫌な予感がしている相澤のラッシュガードを桜の手がしっかりと掴んで逃がさない。

「お熱いってなあに?」

「私が消太さんのことが大好きで、消太さんも私のことを大好きでいてくれてることですよ」

 納得したのか、ふうん、と言った雪乃は自分のかき氷を一口すくった。

「はい」

「え?」

今度は赤いシロップのかかったかき氷を差し出された相澤は目を瞠る。固まっている彼が食べるのを待っている雪乃は、なかなか食べてくれないことに表情を曇らせた。

「……雪乃のはダメ?」

 しょぼん、としてしまった雪乃が諦めて食べようとすると、小さな手が掴まれる。そして、ストロースプーンに乗っていたかき氷はパクっと彼の口の中へ入った。

「嬉しくてビックリしちゃったんですよね、パパ」

照れながら頷いた相澤に桜が笑う。耐えられない照れくささに、顔を逸らした彼の横にいる彼女を見た雪乃は自分のかき氷へと目を落とした。

「はい、ママ」

 もう一口、かき氷をすくった雪乃は彼女へとストロースプーンを差し出す。きょとんとした桜はすぐに嬉しそうな顔をして、ストロースプーンに口を寄せた。

「イチゴも美味しいですね」

 お返しにと青いシロップのかかったかき氷を差し出された雪乃は、喜んで口を開ける。ひんやりとして甘いのは同じなのに食べさせてもらうと、とても美味しく感じられた。

「かき氷、おいしいね」

 笑顔で頷いてくれた桜と、そっぽを向いたまま、そうだなと返してくれた相澤。そんな二人の一番近くにいられることに、急に大きな幸せを感じた雪乃も笑っていた。


 翌日、湖に連れて行ってもらった雪乃は、旅行の目的であった"海と湖の違い"を理解できるようになった。
海と湖、それぞれ楽しむことができた雪乃は、猫やケーキばかりが描かれたスケッチブックに海や湖の絵を描いていた。

 お絵描きをしている雪乃がいるリビングには、猫耳パーカーを着ているときの写真が飾られている。その横に新しく、三人で撮った海と湖での写真が二枚増えていた。

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