宣戦布告
よく晴れた空には雲一つない。かつてのオリンピックに代わる雄英体育祭は天候に恵まれた。
空を見上げた相澤は手で影を作りながら目を眇めた。今日は暑くなりそうだ。体育祭に対して、自分はやる気も意欲もさほどないが防人はどうしているだろうか。
学年ごとに異なる会場で行われる雄英の体育祭。様子が気になっても出番がある限り、簡単に抜け出すこともできない。早くとも彼女のいる会場へ行くには昼頃までかかるだろう。
周囲ではやる気に満ちた同級生たちが準備体操がてら気合を入れたり、気の早い者は違うクラスの人間にケンカを売ったりしている。絡まれないように、ひっそりと隅の方へ移動してもこの喧騒からは抜け出せない。
何気なく胸に手を置く。考えるのは今日の為に努力を重ねた防人のことだった。
(今日が終わったら)
ちゃんと言葉にできる自信はまだない。けれど、自分の気持ちを伝える覚悟だけはしていた。
ワアアアア!と、割れんばかりの歓声とともに体育祭が始まった。
***
予想通り、相澤の体育祭は昼前には終わった。元々、目立つ気もない彼にとって体育祭は重要なことではない。それに、こうして早く終わったからこそ、防人の様子を見に行くことができる。
約束したあの日から、防人と一緒に昼を食べるようになった。今日もそうするつもりだった相澤だが、ケータイに入ったメッセージに眉を顰めた。
『調子はどうですか? 私は最終種目まで残れました。今日のお昼ですが、午後に向けて集中したいので抜くことにしました。直前の連絡になってしまって、すみません』
返信はせず、そのままケータイをポケットへ突っ込む。
きっと、集中したいのは本当だろう。しかし、昼食を抜くというのは、何か思い詰めているか、緊張しているかだろう。どうしたものかと思案して、結局、相澤は一年の会場とは違う方へ足を向けて歩き出した。
目的のものを買い、ビニール袋を片手に歩きながら、どこに行くべきか考える。
(防人なら多分)
今頃、一人でいるのは間違いないし、おおよその見当はつく。ただ、どこの辺りだろうかと歩いていると、見覚えのあるような男子生徒とすれ違った。
「相澤先輩、ですよね?」
声をかけてきたのは今しがたすれ違った男子生徒だ。爽やかな見た目をした彼は、相澤が振り返ったのを見るとにこりと笑って見せる。
「あ、初めまして。僕は一年の椎名です」
顔だけではなかなか思い出せそうになかったが、その名前を聞いて、"ああ"と納得する。先日、防人の隣を歩いていた噂の相手だ。
「その椎名くんが、俺に何か?」
胡散臭く思っていますと態度に出す相澤に、参ったとばかりに椎名は肩をすくめる。
「いえ、別に? こんなところで何をなさっているのかなと思っただけです。あ、もしかして防人さんですか? 彼女なら昼食は摂らないそうですよ。彼女、最近は相澤先輩とばかり昼食を摂っていますから、たまには僕ともと思ったんですが残念です」
随分とよく動く口だと思う。そして、彼もまた相澤が胡散臭く思っているのを隠さないのと同じように、あからさまに敵意をその目に込めている。先ほどからにこにこと笑顔を振りまいているが、最初から彼の目は笑っておらず、奥には敵意しかない。
「だから探しても無駄ですよ」
「別に俺は何も言ってないよ」
よく喋るのは余裕がない証拠なのか、余裕ぶっていても椎名の声からは僅かな焦りが見て取れた。
「じゃあ、なんでこんなところに? 二年生は別会場じゃないですか」
「俺は一言も防人に用事があるなんて言ってないけど、君はなんでそんなに俺に突っかかってくるんだ?」
ないとも言っていないが、なんて心の裡 で思いながら本当のことを言うつもりも相澤にはない。そもそも、相澤が防人に会おうと会うまいと彼には関係がないし、自分たちの関係に口を出されるのは不快だった。
「いえ、彼女に会うんでなければ、それでいいんですよ」
口元をニヤリと歪ませた椎名には、これまで見せていた爽やかさはない。相澤に向けられているのは、どこまでも挑発的なものだ。
「僕は防人さんが好きなので、無闇に近づいてほしくないだけなんで」
ギリギリのところでしていた牽制が、はっきりとした宣戦布告に変わる。目の前の彼は自分に強い自信を持っていて、必ず防人を振り向かせる気なのだろう。
不意に、先日、山田に言われたことが頭に過 る。屋上で相澤が防人が誰と付き合おうと関係ないと言ったことを気にかけた彼は言った。
『あんなこと言ってたけどよ。もし、相手が惚れた女なら関係ないことはねぇんじゃねーの? 好きになっちまったんだから、自分に関係あんだろ』
あのときは何も言えなかった。理解はできたが、今、この瞬間まで本当にそれでいいんだろうかと、どこか自信がなかったのかもしれない。すとん、と当たり前のように落ちてきた言葉に応えるように相澤は目を軽く閉じてから椎名を見る。
「それは防人に言うことで俺に言うことじゃない」
"余裕がないね"と言外ににおわせて、じっと彼を見つめる相澤の目は、椎名の宣戦布告に応えていた。相手が奥歯を噛みしめている間に、背を向けた相澤は、もう振り返ることなく歩き出した。
***
一年生の会場が近いわりに、ここはとても静かだった。繁った木々の隙間からこぼれた陽の光を、彼女はぼんやりと見上げている。今の防人の胸には強い不安しかなかった。
苦手だった徒手での戦闘もなんとか形にした。それでも、分からない今日を考えると不安が拭えない。考えれば考えるほど、不安が全身を巡って食欲も失せた。始まる前からこれでは何もできない。昼休みの時間をすべて使ってでも気持ちを立て直そうと、目を閉じて傍らの木にもたれかかった。
「防人」
聞こえてきた声は幻聴だろうか。不安に耐えられなくなった心が聞かせたものかと思っていると、また声が聞こえた。
「寝てるのか?」
ゆっくりと確かめるように目を開ける。そこには、木漏れ日を背景に自分を覗き込んできている相澤がいた。
「あ、相澤、先輩?」
驚いて目を丸くさせている彼女に、相澤は眉を寄せて首を傾げた。
「他に誰に見えるんだ?」
「い、いえ、相澤先輩にしか見えません、けど……」
あれ?と思って、ケータイを確認する。送信し忘れてしまったかと思ったメッセージはきちんと送られている。
「あの、メッセージ見てませんか? 私、今日のお昼は―――」
「―――読んだ。分かってる」
防人の言葉を遮りながら、相澤は彼女の隣に座る。ぽかんとしている防人に、彼は持っていたビニール袋から購買で買ったものを取り出した。
「ほら、ちゃんと食っとけ」
「え、いや、その……」
言い淀みながらも、差し出されたそれを受け取る。防人の両手に乗っているのは、いつだか食べてみたいと話したクロテッドクリームのサンドウィッチだった。
「これ……」
「どうせ、あれこれ考え込んでたんだろ? 余計なこと考えないで、ちゃんと食え」
もう見慣れてしまった、いつもと同じ彼の昼食。隣で栄養補給食を齧り始めた相澤に、防人の表情は今日初めて緩んだ。
「お見通しでしたか」
「……まあな」
思わぬ言葉に彼女は目を瞬いて動けなかった。じわりと温かくなる胸の鼓動を感じながら、くすりと笑みがこぼれる。
「これ、本当に食べてみたかったんです。それだけでも嬉しいのに、相澤先輩が覚えててくれたから、もっと嬉しいです」
「そうか」
言葉は少ないが、ちらりと相澤を窺えばその横顔が少し赤くなっている。先ほど一人で感じていた不安はなんだったんだろうと思うと安心からか、きゅうと小さくお腹が鳴った。
「あ」
まさかと思いながらもう一度隣を見てみれば、丸くさせた目をパチパチと瞬かせた彼がこちらを向いている。
「あ、あの、き、聞こえて……?」
酷く狼狽える彼女の口がわなわなと震える。もう我慢できなくなって、ついに相澤は噴き出した。
「プッ! ははは!」
お腹を抱えて笑う相澤に、見とれて呆けていた防人はすぐに我に返って頬を膨らませる。珍しい彼の様子をもっと見たいとも思うが、今はそれどころではない。
「も、もう! なんでそんなに笑うんですか!! わ、私だってお腹くらい空くんですよ!」
「お前、さっきまで何にも喉を通りませんって顔してたくせに……!」
恥ずかしいのに、珍しく大きな声を出して笑った相澤を見られて嬉しいと思ってしまう。ズルいなぁと思いながら顔が熱くなってしまうのを隠せなかった。
「食べ物を見たからお腹が空いたんじゃないです。……相澤先輩が傍に来てくれたから」
不安だったり、嬉しかったり、恥ずかしかったりで感情がぐるぐると駆け巡って訳が分からなくなってくる。顔が火照っているのを感じながら、また相澤を窺うように見れば、彼は何かに気づいたように、"あっ"と短く声を上げた。
「それ」
高く結い上げた髪を指さす彼の言いたいことが理解できた防人は赤い顔で微笑んだ。
「ええ、前に相澤先輩にもらったものです」
彼女の長い黒髪を結んでいるのは、相澤の捕縛武器。指先で優しく触れる様子から防人にとても大切にされているようだ。
「これがあると、情けないことはできないなって励まされるんです」
微笑んでくる防人に相澤の胸が跳ねる。こそばゆくて仕方がなくて顔を背けた。
「先輩、遠慮なくいただきますね」
両手を合わせてから、彼女がサンドウィッチを食べ始める。どうやら好みの味だったようで、一口食べると嬉しそうな目をして次を口に運んでいた。横目にその様子を見てから、相澤も食事を再開する。
風が木々の間を走り抜けていく。木漏れ日が揺れてキラキラとしている中で微笑む防人に相澤もつられて口元に笑みを見せた。
-13-空を見上げた相澤は手で影を作りながら目を眇めた。今日は暑くなりそうだ。体育祭に対して、自分はやる気も意欲もさほどないが防人はどうしているだろうか。
学年ごとに異なる会場で行われる雄英の体育祭。様子が気になっても出番がある限り、簡単に抜け出すこともできない。早くとも彼女のいる会場へ行くには昼頃までかかるだろう。
周囲ではやる気に満ちた同級生たちが準備体操がてら気合を入れたり、気の早い者は違うクラスの人間にケンカを売ったりしている。絡まれないように、ひっそりと隅の方へ移動してもこの喧騒からは抜け出せない。
何気なく胸に手を置く。考えるのは今日の為に努力を重ねた防人のことだった。
(今日が終わったら)
ちゃんと言葉にできる自信はまだない。けれど、自分の気持ちを伝える覚悟だけはしていた。
ワアアアア!と、割れんばかりの歓声とともに体育祭が始まった。
***
予想通り、相澤の体育祭は昼前には終わった。元々、目立つ気もない彼にとって体育祭は重要なことではない。それに、こうして早く終わったからこそ、防人の様子を見に行くことができる。
約束したあの日から、防人と一緒に昼を食べるようになった。今日もそうするつもりだった相澤だが、ケータイに入ったメッセージに眉を顰めた。
『調子はどうですか? 私は最終種目まで残れました。今日のお昼ですが、午後に向けて集中したいので抜くことにしました。直前の連絡になってしまって、すみません』
返信はせず、そのままケータイをポケットへ突っ込む。
きっと、集中したいのは本当だろう。しかし、昼食を抜くというのは、何か思い詰めているか、緊張しているかだろう。どうしたものかと思案して、結局、相澤は一年の会場とは違う方へ足を向けて歩き出した。
目的のものを買い、ビニール袋を片手に歩きながら、どこに行くべきか考える。
(防人なら多分)
今頃、一人でいるのは間違いないし、おおよその見当はつく。ただ、どこの辺りだろうかと歩いていると、見覚えのあるような男子生徒とすれ違った。
「相澤先輩、ですよね?」
声をかけてきたのは今しがたすれ違った男子生徒だ。爽やかな見た目をした彼は、相澤が振り返ったのを見るとにこりと笑って見せる。
「あ、初めまして。僕は一年の椎名です」
顔だけではなかなか思い出せそうになかったが、その名前を聞いて、"ああ"と納得する。先日、防人の隣を歩いていた噂の相手だ。
「その椎名くんが、俺に何か?」
胡散臭く思っていますと態度に出す相澤に、参ったとばかりに椎名は肩をすくめる。
「いえ、別に? こんなところで何をなさっているのかなと思っただけです。あ、もしかして防人さんですか? 彼女なら昼食は摂らないそうですよ。彼女、最近は相澤先輩とばかり昼食を摂っていますから、たまには僕ともと思ったんですが残念です」
随分とよく動く口だと思う。そして、彼もまた相澤が胡散臭く思っているのを隠さないのと同じように、あからさまに敵意をその目に込めている。先ほどからにこにこと笑顔を振りまいているが、最初から彼の目は笑っておらず、奥には敵意しかない。
「だから探しても無駄ですよ」
「別に俺は何も言ってないよ」
よく喋るのは余裕がない証拠なのか、余裕ぶっていても椎名の声からは僅かな焦りが見て取れた。
「じゃあ、なんでこんなところに? 二年生は別会場じゃないですか」
「俺は一言も防人に用事があるなんて言ってないけど、君はなんでそんなに俺に突っかかってくるんだ?」
ないとも言っていないが、なんて心の
「いえ、彼女に会うんでなければ、それでいいんですよ」
口元をニヤリと歪ませた椎名には、これまで見せていた爽やかさはない。相澤に向けられているのは、どこまでも挑発的なものだ。
「僕は防人さんが好きなので、無闇に近づいてほしくないだけなんで」
ギリギリのところでしていた牽制が、はっきりとした宣戦布告に変わる。目の前の彼は自分に強い自信を持っていて、必ず防人を振り向かせる気なのだろう。
不意に、先日、山田に言われたことが頭に
『あんなこと言ってたけどよ。もし、相手が惚れた女なら関係ないことはねぇんじゃねーの? 好きになっちまったんだから、自分に関係あんだろ』
あのときは何も言えなかった。理解はできたが、今、この瞬間まで本当にそれでいいんだろうかと、どこか自信がなかったのかもしれない。すとん、と当たり前のように落ちてきた言葉に応えるように相澤は目を軽く閉じてから椎名を見る。
「それは防人に言うことで俺に言うことじゃない」
"余裕がないね"と言外ににおわせて、じっと彼を見つめる相澤の目は、椎名の宣戦布告に応えていた。相手が奥歯を噛みしめている間に、背を向けた相澤は、もう振り返ることなく歩き出した。
***
一年生の会場が近いわりに、ここはとても静かだった。繁った木々の隙間からこぼれた陽の光を、彼女はぼんやりと見上げている。今の防人の胸には強い不安しかなかった。
苦手だった徒手での戦闘もなんとか形にした。それでも、分からない今日を考えると不安が拭えない。考えれば考えるほど、不安が全身を巡って食欲も失せた。始まる前からこれでは何もできない。昼休みの時間をすべて使ってでも気持ちを立て直そうと、目を閉じて傍らの木にもたれかかった。
「防人」
聞こえてきた声は幻聴だろうか。不安に耐えられなくなった心が聞かせたものかと思っていると、また声が聞こえた。
「寝てるのか?」
ゆっくりと確かめるように目を開ける。そこには、木漏れ日を背景に自分を覗き込んできている相澤がいた。
「あ、相澤、先輩?」
驚いて目を丸くさせている彼女に、相澤は眉を寄せて首を傾げた。
「他に誰に見えるんだ?」
「い、いえ、相澤先輩にしか見えません、けど……」
あれ?と思って、ケータイを確認する。送信し忘れてしまったかと思ったメッセージはきちんと送られている。
「あの、メッセージ見てませんか? 私、今日のお昼は―――」
「―――読んだ。分かってる」
防人の言葉を遮りながら、相澤は彼女の隣に座る。ぽかんとしている防人に、彼は持っていたビニール袋から購買で買ったものを取り出した。
「ほら、ちゃんと食っとけ」
「え、いや、その……」
言い淀みながらも、差し出されたそれを受け取る。防人の両手に乗っているのは、いつだか食べてみたいと話したクロテッドクリームのサンドウィッチだった。
「これ……」
「どうせ、あれこれ考え込んでたんだろ? 余計なこと考えないで、ちゃんと食え」
もう見慣れてしまった、いつもと同じ彼の昼食。隣で栄養補給食を齧り始めた相澤に、防人の表情は今日初めて緩んだ。
「お見通しでしたか」
「……まあな」
思わぬ言葉に彼女は目を瞬いて動けなかった。じわりと温かくなる胸の鼓動を感じながら、くすりと笑みがこぼれる。
「これ、本当に食べてみたかったんです。それだけでも嬉しいのに、相澤先輩が覚えててくれたから、もっと嬉しいです」
「そうか」
言葉は少ないが、ちらりと相澤を窺えばその横顔が少し赤くなっている。先ほど一人で感じていた不安はなんだったんだろうと思うと安心からか、きゅうと小さくお腹が鳴った。
「あ」
まさかと思いながらもう一度隣を見てみれば、丸くさせた目をパチパチと瞬かせた彼がこちらを向いている。
「あ、あの、き、聞こえて……?」
酷く狼狽える彼女の口がわなわなと震える。もう我慢できなくなって、ついに相澤は噴き出した。
「プッ! ははは!」
お腹を抱えて笑う相澤に、見とれて呆けていた防人はすぐに我に返って頬を膨らませる。珍しい彼の様子をもっと見たいとも思うが、今はそれどころではない。
「も、もう! なんでそんなに笑うんですか!! わ、私だってお腹くらい空くんですよ!」
「お前、さっきまで何にも喉を通りませんって顔してたくせに……!」
恥ずかしいのに、珍しく大きな声を出して笑った相澤を見られて嬉しいと思ってしまう。ズルいなぁと思いながら顔が熱くなってしまうのを隠せなかった。
「食べ物を見たからお腹が空いたんじゃないです。……相澤先輩が傍に来てくれたから」
不安だったり、嬉しかったり、恥ずかしかったりで感情がぐるぐると駆け巡って訳が分からなくなってくる。顔が火照っているのを感じながら、また相澤を窺うように見れば、彼は何かに気づいたように、"あっ"と短く声を上げた。
「それ」
高く結い上げた髪を指さす彼の言いたいことが理解できた防人は赤い顔で微笑んだ。
「ええ、前に相澤先輩にもらったものです」
彼女の長い黒髪を結んでいるのは、相澤の捕縛武器。指先で優しく触れる様子から防人にとても大切にされているようだ。
「これがあると、情けないことはできないなって励まされるんです」
微笑んでくる防人に相澤の胸が跳ねる。こそばゆくて仕方がなくて顔を背けた。
「先輩、遠慮なくいただきますね」
両手を合わせてから、彼女がサンドウィッチを食べ始める。どうやら好みの味だったようで、一口食べると嬉しそうな目をして次を口に運んでいた。横目にその様子を見てから、相澤も食事を再開する。
風が木々の間を走り抜けていく。木漏れ日が揺れてキラキラとしている中で微笑む防人に相澤もつられて口元に笑みを見せた。
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