一話


学校からの帰り道、下から押し上げる熱気に顔をしかめながら俺はのろのろと歩を進めていた。

「あっぢぃ…」

「うるさい倉間。暑いって言うな…余計暑くなる…」

「じゃあなんて言えばいいんスか…」

「喋らずに歩けよ…」

一緒に帰っている南沢さんのそっけない返事にムッとして、横目で南沢さんをちらりと見やると俺と同じように汗だくな体を怠そうに揺らしながらその人は歩いていた。
白い首筋を玉のように伝う汗がえらく官能的である。…なぜこの人はこんなにもエロいのだろうか…あれか、食ってるモンが違うのか。それとも環境か。

いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。実はこれから南沢さんのお家におじゃまさせて貰う事になっているのだ。

憧れの南沢さんのお家…!!やべ、緊張してきた…

「あ、倉間。」

「っ!なななななんですか!?」

「なんだよその反応…」

「な、なんでも無いっスよ!!」

びっくりした…いきなり話しかけられたら誰でも驚くよな普通…

一気に跳ね上がった鼓動を抑えながら南沢さんの様子を窺うと、未だに訝しげな顔をしながら首を傾げてこちらを見つめていた。

て、天使…!!

っとそうじゃなくて…!!

「そういえば南沢さん!俺になにか言いたい事あったんじゃないですか!?」

「ん?ああ、そうだった。俺んち……あ、着いたからいいや。中入ってから話す。あがって。」

「お、お邪魔します。」

歯切れの悪いところで話を切られたことに少々不満を持ったものの、待ちに待った南沢さんの家に俺のテンションが一気に上がった。

一歩足を進めると、埃一つない綺麗な玄関が目に飛び込んできて、やさしげな色で統一された木製の家具達はその雰囲気をとてもやわらかいものにしていた。

「きれいな玄関っスね〜」

「親が綺麗好きだからな」

思わず感嘆の声をあげると、頭上から心なしか嬉しそうな声が降ってきた。
気になって見上げるとそこには僅かだが笑みを浮かべた南沢さんがいて、ああ、この人もこんな顔をするんだなあだなんて一人南沢さんに見とれていた。なんだか新たな表情を見れた気がして嬉しかったのだ。

そして南沢さんに導かれるままにリビングへと通される。

「ちょっとここで待ってて。」

南沢さんはそう言い残し、俺を置いてリビングを出て行ってしまった。

しんと静かで整ったリビングはなぜだか落ち着かなくて、俺は辺りをキョロキョロと見回した。すると棚に並べられた写真立てに目が行き、興味心からその写真立てを見に行った。

「うっわ…!かわいい…!!」

そこには幼稚園児の南沢さん(園児服に"あつし"と書いてあったから間違い無いだろう)の写真が立てられていて、その南沢さんが余りにもかわいかったので思わず食い入るように見た。
しばらく南沢さんの可愛さに目を奪われていると、隣の写真立てに目がいく。そこには小さい南沢さんと…この隣の人…誰だろう。
顔立ちがすごく南沢さんに似てる…短髪だけど、少し髪を伸ばしたらそっくりなんじゃないだろうか。いとこか何かか?と考えを巡らせていると、後ろにいきなり衝撃が走り俺は衝撃に耐えきれず前に倒れてしまった。

「うわあっ」

「あーつしー!お帰り〜!」

「な、なな!?」

だ、誰だ!?この人俺と南沢さん間違えてるみたいだ…とりあえず誤解をとかなければ!

「すす、すいません!人違いです!」

「そーだよ兄貴。俺はこっち。」

あわてて叫ぶと、いつのまにか後ろにジュースの入ったグラスを2つ持った南沢さんが呆れたような顔で立っていて…って…えぇ!?

「南沢さんのお兄さん!?」

「え、あれ?あれれ?」

南沢さんのお兄さんは俺と南沢さんを何度も見返し自分の誤りに気づくと、すぐさま俺の上から避けてごめんごめんと笑いながら謝った。

「いや〜よく見てなくてさ!ごめん!」

「周りに注意して行動を起こせっていつも言ってるだろ…あ、倉間。これ俺の兄貴。さっき兄貴のこと倉間に言おうとしてたんだが…会ってからのが早いかと思って。」

「これってなんだよ酷いな〜。篤志の兄ちゃんです!倉間くんだっけ?よろしく!」

そういってにこやかに笑いかけてくる南沢さんのお兄さん。整った顔立ちを綺麗に緩ませて笑う姿を見るとさすが南沢さんのお兄さんというかなんというか…


つーか…まさか南沢さんにお兄さんがいたなんて…
聞いてない。そんなの聞いてないぞ。



俺はその場で立ち尽くして、乾いた笑みを零すことしかできなかった




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