06 惚れたら負けだとわかっていた



うぁーさぁーみぃー。
暦の上じゃ春真っ盛りな三月だが寒い。今日は花の月曜日だし早く帰ってゆっくりしましょっと思って下駄箱から靴を取り出した。
「やぁ。」
やぁ。ってなかなかナチュラルに使いませんよね。
「やーやー。幸村くんじゃぁないですかぁ。」
私は手にとったばかりのローファーを振りながらいつもの調子で返す。幸村くんは超傑作パーマを風になびかせながらにっこにこ。あんた寒くないのか。
「やけに急いでるね。何か用事でも有るの?」
ややっ。これで無いなんて簡単に返したら寂しい奴だと思われてまう。
「予定は未定!」
「まぁ暇人を絵に描いた様な君に用事なんて有るはず無いよね。」
「きゃぁっ幸村くんったら冗談キツーイっ。」
私はパーマネント幸村に背を向け、靴を履き変える。床冷たい。
「冗談だったら良かったのにね。」
幸村氏も私と並んで靴を履き変える。女顔なのに足の大きいこと。
「ホントにねぇー。」
あれ、これ一緒に帰っちゃってるな。まぁいいか。
「ところで。」
ばいざうぇい?
「おー?」
「俺今日誕生日なんだよね。」
それは知ってます。学年の女の子達ががザワザワしてましたもの。カイジ的な意味で。
「ほう。つまり君のご両親は五月頃に君を作成したわけだね。」
「ははは、君は思考は本当クレイジーだね。」
「ははは、君の髪型は本当クレイジーだね。」
幸村氏はにこにこしながら私の頭を掴んだ。そして握った。何だかデジャヴュ。
「きゃー幸村くんの髪型越えちゃうわー。」
「さえずるな。」
「ごめんなさーい。」
幸村くんはため息を一つ吐いて私の頭を離した。絵になるなぁ。
「で、何かくれたりしないの?」
「え。」
「誕生日プレゼントだよ。当然だろ?」
幸村キングタム炸裂!催促されたのは従兄弟(六歳)以来だよ。とりあえずブレザーのポケットを漁ってみる。使いかけのポケットティッシュとのど飴の包み紙しかない。
「ポケットティッシュがあるおっ。」
「駅前で配って来いよ。」
「どっぎゃーん!幸村くんは何が欲しいのー?」
私がそう聞くと、幸村くんはとってもお美しく微笑み、流れるように私の冷えた頬を触って、そのまま耳を触って、髪を撫でた。
「な、に。」
「君自身かな。」
とどめを刺すように囁かれた言葉は私のキャパシティをとっくにオーバーしていて触られた所からどんどん熱が広がっていく。顔の血流が超上昇。やばいやばい不本意だがかっこ良すぎる反則やばい軽口がなんも出てこない。そんな私を優しく見つめていた幸村くんがパッと手を離した。
私が呆けているとミスター幸村は楽しそうに口を開いた。
「なーんちゃって。今の君の顔が最高に面白かったから、プレゼントは免除してあげるよ。」は め ら れ た !
私が色んな意味で動けないでいると、幸村くんは満足そうに笑って幸村家への道へ。
「幸村のバーカ!天然パーマネント!」
極悪鬼畜幸村の背中に叫ぶと、極キチ村がくるりと華麗にターンなすった。私はおそらくまだ顔が赤い。幸村はまだご機嫌フェイスくたばれえええ!
「じゃぁ、言い換えてあげる。」
何がじゃ。何をじゃ。くそ顔熱い体熱い。前にも有ったぞこんなこと。
「『今の君の顔が最高に可愛かったらプレゼントは免除してあげるよ。』じゃ、また明日ね。」
幸村氏は微笑と再び固まった私を残して爽やかに帰路へ。なんだあいつ、馬鹿、ニヤニヤ顔、変態サディスティックめ。全身パーマネントになってしまえ。

…っだああ、もう、

HAPPY BIRTHDAY!


惚れたら負けだとわかってはいたけど。




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