07 P.S.すきです



3月って、すごく切ない月だと思う。3年生が卒業を控えて寂しい雰囲気を抱えた学校に、私は目の奥がツンとしてしまう。放課後の教室はいっとう切なさを感じさせた。


「別に苗字が卒業するわけじゃねえじゃん」
「切原くんのばか、先輩が卒業しちゃうんだよ?」
「それは俺も寂しいけど。おまえ今から泣きそうになってるとかまじうける」
「うっさい、ばか」


切原くんの頭をぽかっと叩くと開いた通学バックに入っているラッピングに目を向け、またすぐに逸らす。目ざとく私の視線の先を追った切原くんがははーんって悪魔の笑みを浮かべた。試合の時よりかは小悪魔的だったがそれでも悪魔であることには違いない。余計な詮索をされる前に帰ってしまおうとバッグに伸ばした手は、空しくも切原くんの手に掴まれてしまった。


「この手はなんなのかな切原くん」
「いやー…っとお、隙ありぃっ!」
「あ、ちょっ、こらっ!」
「おまえこれ、幸村部長にプレゼントだろ!」
「違うから、はなせばかっ!」


幾分か身長の高い切原くんが手にした包みを持ち上げると、私は爪先立ちをしても届かない。指先をかすめる包みを必死に取り返そうと躍起になると必然的に縮まる2人の距離。 そうしてすったもんだしているうちに、ガラガラと教室の扉の開く音がした。


「赤也、あんまり可愛いマネージャーをからかわないでくれるかな」


私は切原くんの肩をつかんだまま静止する。扉の先には話の渦中の幸村先輩が立っていたのだ。先輩の言葉に真っ赤になる私を、切原くんはニヤニヤ見てくるからさらに赤くなる。悪循環だ。


「じゃあ苗字、俺先行くわ」
「は?」
「じゃあ部長、ちょっと先に部活行ってくるっす!」


切原くんは唐突に私の胸に包みを突き返し、先輩の脇をすり抜け走り去ってしまった。こちらが声をかける間もない足の速さは流石テニス部現部長と言うべきか。
ぽつり、残された私と先輩。包みを手にする両手が汗ばむ。先輩は消えた切原くんの方を見ながらやれやれ、と苦笑した。


「ところで、赤也となにを話していたの?」
「え?あの…えっと……」


不意にこちらに視線を向けられ、どきりと胸が鳴る。先輩の目が静かに私に問いかける。有無を言わせない雰囲気に気圧されて、言うか言わないか躊躇われた。
切原くんの言うとおり、このプレゼントは幸村先輩への誕生日プレゼントだ。 本当は朝一番に渡そうと思っていたんだけど、先輩にプレゼントを渡す子はたくさん居て渡すに渡せず、放課後までずるずる引きずってしまったのである。


「今日は幸村先輩の誕生日、なので……あー…」


もう今日を逃したらきっと幸村先輩にプレゼントなんて渡せない。先輩が卒業して高校に行ってしまったら、マネージャーと部長なんていう浅い関係は崩れてしまう。
渡すなら今しかない。


「誕生日だから?」
「その……お、お誕生日おめでとうございます!」


渡すというより押しつけるような形で幸村先輩にプレゼントを差し出した。恥ずかしくて下を向いたまま、目を固くぎゅっと閉じる。出来るだけ先輩の顔を見ないように。


「俺がもらってもいいの?」
「先輩に…先輩のためのプレゼントです」


先輩の言葉に顔を上げると、ふんわり柔らかく笑う先輩の顔があった。本当に嬉しそうに笑うから、プレゼントを渡した私の方まで嬉しくなってしまった。私の手ごと包みをぎゅっと握りこんで、もっともっと優しく笑う。


「ありがとう。すごく嬉しいよ」


良かった。プレゼントきちんと渡せて、本当に良かった。
先輩は気づいてくれるだろう。包みに添えた手紙に、その最後の一文に。
たった4文字にどれだけの勇気と気持ちを注いだか。もし気づいて、もし受け止めてくれたら。
その笑顔に期待してもいいですか?



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