05 溺れてみるのも悪くない



「苗字先輩こんにちわ」
「…こんにちわ幸村君」

不意にかけられた声に後ろを振り返ればそこには案の定、清々しい位の笑顔をはりつけた後輩の幸村君がいた

”清々しい位の笑顔をはりつけた”


”はりつけた”



「ははは、酷いなぁ挨拶しただけでその顔は」
「君が何をしたいのか全くわからない」
「言ってるじゃないですか、俺は貴女を自分のにしたいって」

ニッコリと笑う彼はとても恐ろしい人
その笑顔の裏に真っ黒いナにかを携えていることを私は知っている

「…だからって、今回のは私の気持ちを無視しすぎじゃないかな?」

今まで私は散々彼のアプローチを受けてきた
一緒にお昼を食べよう、一緒に帰ろう、人気映画のチケット頑張って手に入れたから一緒に見に行こう
いつも突拍子のないものばかりで、いつも私の都合は無視してばっかりだった
流石にほっぺにキスをされた時は本気で殴ってやろうかとも思ったけど、けど、それはいつも度合いを弁えていて
本気で不快に思う事はなかった

だけど、今回のはそのレベルでは済まないと思う
度合いを超えてしまった

”幸村精市と苗字名前は付き合っている”

そんな噂が数日前から流れている
いつもと言って良いほど付き纏われているからその所為かと思ったが聞く所によるとそれはどうも幸村君本人が発信者だったらしい

「…?俺は先輩の気持ちを無視したつもりなんてありませんよ」
「は?」

至極当たり前、とでもいう風に彼が言う
いやいや、意味わかんないから
その嘘の噂の所為で私がどれだけ大変な思いをしているか









トンッ


「っ」


…しまった…




何か近寄ってくるなぁ、と思った
思ってはいたんだよ…無意識にあとずさってる自分にも気付いてたんだよ…

…これが狙いか幸村君

気付いた時にはもう遅い
私は壁に追いやられ、目の前にはとても良い笑顔の幸村君

そして幸村君が次にとって行動は

「…名前さん、いい加減素直になったらどうですか?」

そう、私の耳元で言うというなんとも心臓に悪い行為

「っっ…!!」

急激に顔が熱くなっていく

「ふふ、真っ赤だ」

うるさい、そんなのわかっている
でも抑えられないんだからしょうがないじゃないか

悲しい事に彼氏いない歴=年齢、の私はこういう事に全く免疫がないし、勿論縁もない
それなのに、そんな純粋代表のような私の反応を見てこいつは楽しんでいるのか…っ

「名前さん、もう俺の事好きだろう?だから話したんだよ、俺達は両思いだって」
「…っ、何言ってるのよ私は何回も断っている筈だけど?」
「俺は諦めないって言ったし、最近は断られてないし」
「…え?」
「最近は曖昧にしてたでしょ、貴女」

……確かにそうかもしれない

「もうさ、本当に素直になっちゃいないよ」

そう言うと幸村君は今まで異常に近かった体を離した
その表情は少し前までの”愉”だけの笑顔ではなく、どことなく真剣さを含んでいるように見える

「…苗字名前、好きだ、俺の彼女になんなよ」

改めて言われたその言葉に胸が高鳴る
その言葉が命令形だろうと気にならない位に


あれ…
私、前までは面倒で仕方が無かったのに
笑顔の裏に隠されたどす黒いのに変わりたくないと思ってたのに


いつからだろう
彼の言葉を否定しなくなったのは

いつからだろう
彼の言葉を嬉しく思うようになったのは


「そろそろ良い返事を、くれないかな?」


恋人なんていらないと思っていた
恋をして一人に執着するのも、執着されるのも面倒臭かったから
何よりも優先させるなんて絶対無理
友達と遊びたいし、普通に男子とも話したい、友達だもん


「それでもいいよ、別に束縛するつもりなんてない…ただ、そいつらよりも少し近くに居たいだけ」

恋人なんて面倒なだけだと思っていた

特に幸村君なんて有名人となると更に
噂だけでも大変だったんだから…

…だけど、


「幸村君、私彼氏なんて居た事無いからどうすればいいかわからない」
「いいよ、俺がこれから教えていくんだから」
「………じゃぁ、…よろしくお願いします」

だけど、

幸村君になら…なんて




溺れてみるのも悪くない



(ところで私、一応先輩なんだけど…) (先輩ってもたった1つ年上なだけだし、彼女に敬語使うとか嫌だしそもそもあんた年上に見えないし) (っひど!!…さっきの返事やっぱり無しの方向d) (は?何言ってんの?) (…すいませんでした何でもないです)



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