Clap



平糖ひとつ






















あれは確か10月頃だった。

試験勉強のため徹夜で教科書とにらめっこしていた時、部屋の扉がノックされた。

「徹夜は体に良くないぞ、灰斗。集中力も落ちる」

「兄さん」

入ってきたのは兄さんで、どうやら勉強を手伝ってくれるつもりらしかった。

兄さんは教え方が上手くて、俺のノートを見ながら足りない情報や覚え方を丁寧に追記してくれた。

おかげで勉強はめちゃくちゃスムーズに捗った記憶がある。


「いいか、初等科の魔術で重要なのは魔力量じゃない。基礎知識と、それを応用するイメージ力だ。“氷雪”ひとつでも、ただ詠唱しただけだとこのくらいにしかならない」

そう言いながら、手のひらの上でキラキラと舞う雪の結晶を見せてくれた。

それはそれで綺麗だったけど、具体的なイメージと兄さんの魔力量が上乗せされた凄まじい威力の“氷雪”を知っているだけに、原形はそんなものなのかと逆に驚いた。

「この考え方は中等科以上でも必要になってくる。強力な魔術を使うには魔力もそれだけ消費するが、いかに消費を少なく魔術を応用して練り上げるかがセンスの見せ所だ」

「言ってることは理解できるんだけど、いざやってみると難しいんだよなぁ」

「すぐに出来なくてもいい。意識して練習すること」

「頑張る」


兄さんはいいよな、何でもセンス良くてすぐいろんなこと出来て。

喉元まで出かかった言葉は飲み込んだ。

輝かしい経歴の裏で、兄さんが努力してることは知ってる。

俺が平凡なだけ。

そう思って生きてきた。

羨ましいけど仕方がない。


頑張ると言いながらふてくされていたのが顔に出ていたのか、兄さんが突然話題を変えてきた。

「そういえばそろそろハロウィンだが、初等科のイベントは今年もあるのか?」

「え、あー……試験勉強に追われて忘れてたけど明日だ……」

「なら対策としてこれを持っていけ」

ふわっと甘い匂いがして、兄さんの手には瓶が一つ。

中身は星屑を詰めたような瓶いっぱいの金平糖だった。

そしてもう一つ反対側の手に現れた別の小瓶を渡される。

「お前にはこっち」

「……中身同じじゃないの?」

「そう思うなら一つ食べてみると良い」

言われるがままに瓶を開けて、一つ星を口に放り込む。

カリ、とかみ砕いた瞬間、何かが弾ける感覚があった。

「兄さん、これもしかして」

「疲労回復、集中力向上、その他体調や魔力の巡りを良くする効果がかかっている」

「すごい……」

「治癒魔法の応用だ。あぁ、忘れないように言っておくが一つで十分だからな。食べ過ぎるなよ?カンニングを疑われるぞ」

少し自慢げな兄さんの表情に、俺もちょっと嬉しくなった。

きっと兄さんなりに考えて、徹夜してまで勉強しなければならない俺のことを気遣ってくれたんだろう。

「ありがとう兄さん、もう少しだから頑張るよ」

「お前は十分頑張ってると思うがな。俺はもう寝るが、困ったらいつでも呼べ。おやすみ」

「うん、おやすみ兄さん」


兄さんが置いていってくれた直筆ノートとアドバイスのおかげで試験は無事に終わった。

イベントで配った金平糖は素朴な味わいと好評で、そのあと真似してもいいかと作り方をいろんな人に聞かれた。



俺の手元には、まだ小瓶に入った特別な金平糖がある。

一つずつだとなかなか減らないというのに加えて、なくなってしまうのが勿体ないという気持ちもあった。

たぶん欲しいと言えばまたくれる気がするけれど。

このひと欠片に込められた兄さんの気持ちを、じっくり味わっていこうと思った。





































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ハロウィン感ゼロですがハロウィン拍手と言い張ります←

短くてすみません……

来月はもっと頑張ります


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