「そーうらちゃん」


またお前か、と頭痛がする。あたしの部屋の窓からニコニコしながらこちらを見るそいつはあたしのストーカーと呼んでもいい人間だ。
正直今すぐにも殴りに行きたい所だが、それはひらりと交わされてしまうのは目に見えて分かる。なのに、無駄だと思っててもどうやらあたしには我慢は出来ないみたい。


「おっと、危ないなぁー」

「てめぇ此処を何処だか分かって来てんのかィ?しょっぴくぞ!」

「分かってるよ、幕府の犬の所でしょ?俺一人も捕まえられないくらい甘い警備してるのはよくないネ、総羅ちゃんの身に何かあったら俺ここ潰すかもヨ?」


その目はどうも冗談に見えなくて、思わず近くにあった傘を掴んでそいつに向けてしまった。


「あれー?俺総羅ちゃんと殺り合う気はないんだけど」

「うるせぇよ、てめぇこれ以上此処を悪く言ったらあたしがお前を殺る」


あっ、と思ったらあたしの手元に傘はなくて。
カランと床に傘が落ちるのを横目で黙って見ていた。
本当に一瞬の事だった。気付いたらあたしは奴の腕の中にいて、この時ばかり窓の鍵を閉めておかなかった自分自身を憎んだ。


「俺、あんたのそういう所好き」

「か、むい」


耳元で囁かれたその言葉は、あまりにも破壊力抜群で、無防にも心臓はうるさく高鳴ってしまった。悔しい、なんでこんな奴に。


好きになんてなっちゃダメなのに…。


気持ちにブレーキかけてたつもりなのに。だんだんそんなのきかなくなってきて、傷つきたくなんてなかった。だから、叶うはずもない恋をしようなんて思わなくて。自分で決意していた事がこんな、いとも簡単に崩された事が悔しくて涙が溢れた。
こんなマヌケな所見せたくなくて、下を向いても頬を押さえつけられ、無理矢理上を向かされた。


「総羅、泣いてるの?」

「…っ、うるせっ、見んじゃねーやィ」

「泣くほど俺が嫌だった?」

「…そうだよ、嫌だったよ、全部お前のせいだよ、」


普段とはありえないくらい優しい声を出すもんだから、そんなあいつに溺れちまいそうで。
小さな抵抗、とゆっくり神威の肩を押してやったけど、それが合図かのように強く抱きしめられた。このまま何処かに行けたらいいのに、なんて。本当今日のあたしはどうかしてる。


「ごめん、泣かせるつもりはなかった」

「だから泣いて…っ」


反論しようと顔を上げれば、何も言わすもんかと口を塞がれた。畜生やられた。最悪だ。なんて心では思っていても、それを受け入れてしまってるあたしが何処かにいた。


「おい、総羅また仕事サボってんじゃねー!!出てこいコラ!!」


遠くから土方さんの声が聞こえて、やっと我に返ったあたしは勢いよく神威を突き飛ばした。


「うわっ、」

「てめっ、早くにげなせェ!土方コノヤローがきやした!」

「痛いなー、べつに俺はそいつが来ても構わないヨ?」

「あたしが構わなくないんでさァ!あんたに土方さんは指一本触れさせやせん」

「妬くなー、まぁいいよそんなにお願いするなら!」


じゃあね、と言ってまた窓から出ていく神威。緊張の糸がぷつりと切れたあたしはその場にへたり込む事しか出来なかった。


「総羅?お前部屋に居たの…か?」

「……」

「どうしたお前?耳まで真っ赤だけど?」

「……うるせーよ」


いけない、と分かっていても心臓はドキドキと煩くて。この心臓を握り潰せば、こんな苦しい思いはしなくていいのかな。



(それでもあたしは皆を裏切れなくて、)




2011/01.25
あたしが威初沖書くとだいたいはシリアスになります。






 
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