「じゃあトシ、総羅頼むなー」

「え、ちょっ、近藤さん!」


そう言うや否や、総羅を俺の自室に置いて仕事に行ってしまった近藤さん。
俺は今日、久しぶりの非番だったからゆっくり休める場所にでも行こうと思って居たのに、突然部屋に来た近藤さんの言葉に俺の計画は丸つぶれになった。
"総羅に江戸を案内してやってくれ"
正直なんで俺がって思ったけど、総悟は今日は生憎非番じゃない。山崎の野郎にも頼んでも良かったんだが、総羅とあいつはまだ名前も知らなきゃ、顔も合わせていない。そんな中俺が適役だったって訳だ。
不服に思ってるのはどうやら俺だけじゃないようで、今現在俺の隣に居る総羅も、口には出さなくても表情を見るからに不満そうだった。

(…どうするか)

まあ、どうせ土方コノヤローとなんか歩きたくねーよとかなんとか言って、すぐに部屋から出ていくだろう。総羅は一人でぶつぶつ何かを自問自答していたかと思えば、バッと顔を上げ俺を見つめる。
バッチリ交わる視線、自然と頬に熱が集まってくる感覚に嫌気がさした。


「…土方さん江戸案内よろしくお願いしまさァ」


総羅の口から出た言葉は意外にも、俺が思っていた答えと違った。余りにも予想外で、そして案外素直な所もあんだなと、呆気に取られていたら、総羅は慌てて口を開いた。


「か、勘違いすんなよ!あたしはこれ以上無知で皆に迷惑かけるのが嫌なだけでさァ!」

「おーおー、総悟とは違い仕事熱心でよろしいこと」

「いいからさっさと案内しろよ土方バカヤロー!」

「テメェ、それが人に物を頼む態度かコラ」

「うるせーよ、もう喋んなよお前、息臭いんだよクソが」


俺一応お前の上司だからね、なんて言えばすぐにその座を取ってやるから構いやせん、と返ってくる。
本当今はここに居ない総悟と話してるみたいだ。小さくため息をついてから、総羅の手を取って部屋から出た。


─────…


「あっれー?土方君が女の子連れてるなんて珍しいー、何?彼女か?彼女なんですかコノヤロー」

「手繋いでんじゃねーヨ、見せびらかしやがって!お姉さんこの男キモい餌食うから別れるのをオススメするヨ!」

「二人ともやめてくださいよみっともない!」


ああ、また面倒なのが出てきた。江戸を案内していたらばったり万事屋に出くわした。本当今日の俺は運が悪い。
思わず頭を抱えたくなった。


「なんなんですかィ、この馬鹿丸出しの奴ら」

「なんだとォこの野郎!お前こそちゃらついた髪型しやがって何アルか!」

「おーおー、言うねェ!お嬢さんも頭に変なのつけちゃって、面白い美的感覚してらっしゃる」


気づいたら、総羅とチャイナは喧嘩をおっぱじめた。本当総悟とそっくりだな、喧嘩する相手も同じなんて。
はぁー、と深くため息をついてから俺は喧嘩をしてる総羅の首ねっこを掴んだ。


「うぁ!テメッ、何するんでィ!離せ!」

「俺はお前らの喧嘩を見るために貴重な時間を潰したんじゃねぇんだよ」

「うるせー!こいつとさっさと決着つけなきゃ胸糞わりぃんでさァ!」


ジタバタ暴れる総羅に苛立ちが募った。本日何回目かのため息を零してから、俺にまだ何か文句を言ってる女を抱き抱え肩に担ぎ上げる。


「ちょ、お前何すんでィ!このセクハラ上司!総悟に訴えてやらァ!」

「はいはい」

「さっさと下ろせ馬鹿!」

「万事屋、邪魔したな」


もう面倒事はゴメンだ、と言わんばかりにその場を立ち去ろうとしたら、誰かに着物の端を掴まれる。
なんなんだ、と振り返れば俺の大嫌いなあいつ。


「お前いい加減にしろやァァ!!もうなんなんだよお前!さっさと帰りてェオーラ出してただろ俺!察しろよ!これだから天パは嫌いなんだよ!」

「うるせーんだよ!!お前の事なんか心底どうでもいいわ!!それよりそちらのお嬢さん、随分顔も話し方も総一郎君に似てるね」

「そういえばそうアル、こんなにムカつく奴はサド以来ネ」

「そりゃそうでしょうや、総悟はあたしの双子の兄貴なんですからねィ」


あっ、と思った時には遅かった。目の前にはニヤニヤしてる万事屋の奴ら。総羅に悪気はねェのは知ってるが、何でもペチャクチャ話すのはよくねェと思う。
当の本人はこの状況が、どんなに俺らに不利か分かっちゃいねェ。静かに、そして素早く逃げようとしてもそれは俺の着物の端を掴んでる奴にいとも簡単に阻止されてしまうのだった。


「で?土方君、今いくら持ってるの?」


ああ頭痛がしてきた。




(これで俺の財布が空になる確率は0に等しくなった。)




2011/01.19





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