桜野様キリリク。


チェレン×N



「…で?結局今までどこ行ってたの?」


えへへ、と笑うNはきっと僕が彼をどれだけ心配したかなんて考えていない。
理由はだいたいわかる、どうせポケモン関係だ。


「トモダチがさ…」


ほらやっぱり。
だったら書き置きぐらい残してくれないと心配するじゃないか。こんな事口が裂けても言えないけどね。


「勝手な行動取らないでくれる?あんた世間知らずなんだからメンドーなめにあうでしょ」

「大丈夫だよ」

「君が大丈夫でも、僕がメンドーだから嫌なんだよ」


面倒だなんて酷いなー、と軽く笑うN。こいつ、自分がどれだけ危なっかしいか理解してない。
見た目は綺麗だし、女だと言ったら誰も疑わないだろう。しかも世間知らずときた。
知らないおっさんが、ポケモンがこっちにたくさん居るからおいで、なんて言ったら間違いなくついていくにちがいない。
そんな事を考えるだけでゾッとする。


「とりあえず、危機感は持っといてよ」

「分かったよ」


こんなやりとりをしたのが3日前。
只今の時刻8時、もちろん午前なんかじゃない。
こんな時間まで何やってるんだNのやつ。警告はつい最近したばかりなのに。
(まさか…、誘拐?Nの事だから有り得る…)
はっと思ってしまったこの事から、僕の思考回路は嫌という程にどんどんと悪い方に向いていく。
そして気づいたら僕はかけてある上着を引ったくって部屋を飛び出していた。
Nが行きそうなところ、検討なんかつきすぎて、片っ端から行くしかない。


「畜生、メンドーだな…」


僕は自転車に跨がり、ペダルを蹴りあげた。


───……


「ちょ、離してよ!」

「君なんて名前なの?」

「遊びに行こうよ」

「僕にはチェレン君が…」


聞き覚えのある声が、僕の名前をこぼした。音も立てずに静かに声がした方に向かうと、知らない奴らに囲まれてるNの姿があった。
ほら言わんこっちゃない。メンドーな事に巻き込まれてさ。
自転車が壊れる事なんて気にせず、僕は自転車から飛び降りた。
カラカラと車輪だけが回る音を耳にしながらNのもとにかけより、手を引く。


「わっ!チェレン君…?」

「僕の連れに近づかないでくれるかな?」


そう言って、ぎっと睨みつけると、ぶつぶつと文句を言いながら散っていった野郎共。
案外すんなり引き下がってくれた奴らにほっとした。


「あのねっ」


言い訳をしようとするNの腕を強く引いて、抱きしめる。何が起こったのか分からず、ぽかんとしている彼に吹き出しそうになったけど堪え、腕に力を加えた。


「チ、チェレン君!いきなりどうしたの!?」


きっと今のNの表情は真っ赤に違いない。顔が見れないのは残念だけど、もう少しこのままでいたいから。


「…心配したじゃん」

「え…?」

「………」


赤く染まる自分の頬をかくすかのようにNの肩に沈めると、小さく笑う声が耳元で聞こえた。


「僕結構愛されてるんだね」

「…うるさいよ」

「チェレン君大好き」


Nの腕が僕の背中にまわった。

ンドーだなんて、

(結局は僕の照れ隠し。)


2010/11.29







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