「おい、チェレン」

「…なんだい」

「さっきからこれはどういう事なんだ」


俺がそう聞いたら、チェレンは僕だって参ってるんだと言わんばかりの表情をした。

事の発展は、まず俺が学校に来た時からだった。
いつもの様に、チェレンに起こされて一緒に登校して来たはいいが、俺らが学校に来たらまず1番に近づいてくるNが来ない。
まあ、それはいいとしよう。別に俺らがNのところに行けばいいんだから。
そして俺らがNに近づいた瞬間、奴はチェレン君頑張って、と意味深な言葉を投げ掛け教室を出て行ったのだ。
その事を初めに俺らが彼に近づくと、何度も似たような事をするN。まるで友達の恋を応援するかの様に。


「お前、Nになんか余計な事言ったのか?」

「言ってないよ、言ってないけど…」

「けど?」

「勘違いされたと思う、いや勘違いされた」


深くため息を吐くチェレンに、ため息をしたいのはこっちだと睨みつける。


「どんな勘違いをされたんだよ」


自然の声のトーンが低くなる。
チェレンは俺がイライラしてるのに気づいたのか睨みつけてきた。
俺も睨みつけてみたが、そんな行為に意味がない事に気づいたチェレンは、すっと俺から視線を逸らし下に向けた。


「僕が君の事を好きだと勘違いされたみたいなんだ」

「は?」

「…否定はしたんだけどね」


Nの行動の意味が分かると、呆れたと同時に彼らしくて笑いが込み上げてきた。チェレンも俺が笑うと、一緒になって小さく笑った。


「どうするトウヤ?」

「どうするもこうするも、ね?」

「分かってるよ、放っておくんだろ?」

「だって、その方が面白いだろ?」


我ながら悪趣味だと思う。でもこれはこれで楽しいんだから仕方ないよね。
どうせNは俺らが居ないと、生きていけないと思うから。
あいつは一人じゃないって事を知っちゃったのだからさ。



そんな会話をしたのが、昼休みで今は放課後。
Nはというと、ついに堪えられなくなったのか自ら俺らの元へやって来た。


「ごめんねチェレン君、僕寂しくなっちゃって…」


小さく頭を下げるNに、チェレンは口角を少し上げた。
そんなチェレンに俺はドSだな、と耳打ちをする。
すると彼はムッとして、君は人の事言えるの、と呟いた。
まあ、俺もにやけちゃってる時点でチェレンの言う通り、人の事言えないのかもしれねぇんだけど。

(でもNが可愛いから仕方ねーよな)


「別にいいよ、それにNは勘違いしてるみたいだし」

「勘違い?」

「この際だから言っちゃうけど、僕はトウヤの事を恋愛感情として好きじゃない」

「れん、あ?ん?」


よく意味が分かってないNに少しイラついた様子のチェレン。
俺は黙って彼らを見守る。だってそっちの方が変に口出すより面白いし。


「だから、君が思ってる好きと僕が思ってる好きは違うんだよ!」

「好きって感情に違いがあるの?チェレン君は面白い事言うね」


わざとらしく、本日何回目かのため息を吐いた後、チェレンは俺に助けを求めるかのように視線を向けた。
あいつもお手上げかよ。俺はチェレンから視線を外しNに向ける。すると彼は俺を見つめかえす。
まるでNは、自分が何か可笑しい事でも言った?とでもいうような、不思議そうな顔をしていた。


「Nって恋とかした事ないでしょ」

「ないよ、そんな不確かな事なんて」

「不確か?」

「ゲーチスが言ってたよ、愛だの恋だのは不確かで信用出来ないって、僕はそんなのしたくないからね」


ゲーチスとはきっとNの親の名前だろう。こいつは一体どんな教育を受けてきたんだ。
こいつが友達を作ろうとしなかった訳も少し分かったかもしれない。
横目でチェレンをみてみれば、心底悲しそうな目をしていたかと思ったら、鋭く何かを決意した目に変わった。
チェレンは今どんな気持ちでNを見てるんだろう。
哀れになった?それとも同情?
いや、どちらも違う。
優しい彼の事だ、きっとNを護ろうと考えているんだろう。


「へー、そうなんだ」


全く感情の篭ってない俺の返事に、チェレンは眉間にシワを寄せた。
チェレンは優しすぎるんだ。でもその優しさが仇となる事を知らないでしょ。
思わず、口角が上がってしまった俺に険悪な視線を向けるチェレン。
残念だったねチェレン、Nは俺が貰うから。




俺はNの気持ちに付け込む事にした。






(別にそれでもいいよ、Nが俺の手に入るならね)



2010/12.19






 
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