「あ」
どちらが先に言葉を零したのか、もしかしたら同時に言葉を口にしていたのかもしれないが今はそんなのどうでもいい。優先すべきことはこの場からさっさと立ち去ること。せっかくの休日に嫌な奴に会った。気分が悪い。そいつに背中を向けどろんしようとした時、どうやら奴のほうが一足速かったらしく逃げようとした俺の腕を強く掴んだ。最悪だ。もう一度言う最悪だ。何度でも言おう。
「最悪だ」
「なーにが最悪だ、だよ」
「…何の用ですか」
「お前の大好きな家庭教師様に会ってその態度はないんじゃねえの?」
なるべく目を合わせず、出来るだけ早く会話を終わらせようとしたがどうやら無駄だったらしい。文句を言おうと顔を上げれば、家庭教師の時とは違い、パーカーにジーンズとラフな格好をしたあいつがいた。整った顔のせいかやはりどんな格好をしても様になってしまう。そんなことをぼんやり思っていたら、急になんだかよくわからない感情に飲まれ思わず視線をそらした。
「なんだよ」
「なんでもない、です」
「まあいいや、お前どこ行くの」
「今日のおは朝のラッキーアイテムを買いにホームセンターに行く途中です、それでは」
「待てよ、俺もホームセンターに行く予定だったんだよ」
絶対嘘だ。ニヤニヤと笑っているその顔に今日のラッキーアイテムの釘をいますぐに刺してやりたい。だがその釘がないんだからどうも出来ない。更に言えば現在も腕をがっちりと掴まれているので逃げることすら出来ない。せめてもの抵抗、と睨みつけてもこの人からしたら痛くも痒くもないんだろう。いまだ口角が上がったままの家庭教師に俺は諦めの息を漏らすしかないのだった。
2012/10.05
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