謝罪 | ナノ


初期沖田が歩けなくなる話です。
ちょっと暗め。





沖田が歩けなくなった。事故だった。もう使い物にならないらしい。切断しなきゃいけないらしい。もうあいつの右足はない。どんなに騒ごうが喚こうが戻ってこない。


戻って、こないんだ。



「私、歩けなくなっちゃいました」



手術を終え目を覚ました沖田は一番にそう言った。笑ってるのは口元だけで目は涙でいっぱいだった。

毎日の様にあいつの病室に通った。沖田の話だと窓から見る外の景色が今の楽しみらしい。
看護婦さんは優しくていい人ばっかりらしい。
最近は二つ離れた病室の婆ちゃんと仲が良いらしい。
真選組のみんなに会えないのは寂しいけど、病院生活はなかなか楽しいと笑った。
どう答えていいか分からなかった。

無理に強がって笑う顔があまりにも痛々しいからか、それとも、

俺が歩けるからか。


なんにもいえなくて、慰める事すらできなくて惨めで情けなくて仕方なかった。
奥歯を強く噛み締める。
沖田はなんであんたが泣くの、と困ったように笑った。



「ごめんな、ごめん…」

「なに謝ってんすか」


なんでだよ。なんで沖田なんだよ。なあ、なんで俺じゃねえんだよ。


「俺がお前とかわって、」

「土方さん」



こっちに来て、と手招きされる。言われるがまま沖田に近づくとばちん、と音が鳴った。
じんじんと熱くなる頬。ビンタ、された。
沖田は笑ってなかった。



「軽々しくそんなん口にしてんじゃねぇよ」

「これは神様が私に与えた試練なの。あんたみたいな馬鹿じゃ乗り越えられる訳無い」

「だから、二度とそんな事言わないで」



ごめん、それしか言えなかった。
沖田はどんな気持ちで神様からの試練だなんて言ったんだろう。もし、もし本当にこれが神様からの試練だとしたら俺は一生神とやらを怨み続けるだろう。
知ってんだよ。
お前が外の景色になんて興味がないこと。
誰とも話をする気力すらないこと。


お前が一人で泣いてること。


あいつが何をしたって言うんだよ。
女だからって理由で剣の練習を人一倍していたのに。
誰よりも努力して一番隊隊長ってとこまで上り詰めたのに。
本当は誰よりも近藤さんの隣で剣を振っていたいのに。
なんでだよ。



「そうそう、私まだ副長の座狙ってますからね。せいぜい私が休憩してる内に腕を上げることですよ!」

「うるせーよ、お前に言われなくてもわかってる」

「すぐに追い付いてやるかんな!ばーか!」

「んなことさせねーよ」



じゃあな、とあいつに背を向けた時一瞬だけ見えた表情。
笑ってるのか泣いてるのか分からなかった。
あいつはきっと誰よりも強くて、脆い。
病院の扉を閉めすぐ横の壁によりかかる。天井を眺めていたら聞こえてきた。

鼻を啜る音、ばん、と何かを叩く音。


動け、という声。
あいつはきっと死んでしまった足を叩き、動かそうと必死になってる。
嗚咽がやまない、あいつは今泣いてる。声を殺して泣いてる。
俺は何も出来ない。傍に行き抱きしめることも、そんな資格すらない。


ごめんな。





2012/06.11


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