nausea | ナノ


※神威さんがドMで気持ち悪いです
そしてちょいと生々しい表現があるので注意です。





相性が合わないと感じる人はそれなりにいる。一緒に居たら居るほどイライラするし、ほっといてくれとさえ思う。だが、それらは出来るだけ会話をしない、関わらないようにすれば解決される。別に視界に映ろうが声が聞こえようが、関わらなければいいのだ。それだけの話。

だけどあいつの場合はどうだ。

あいつが視界に映れば思わず目を背けてしまい、あいつと同じ空気を吸ってると考えてしまえば涙目になり、話かけられたり、ほんの少し指先が触れただけで胃から異物が押し上がってくる。ここまであたしの全て、細胞までもが受け付けない人がこの世にいたのかと毎回驚く。
きっと"嫌い"という限度はとうに越えているだろう。
そんな奴が、だ。そんな奴が自分の席の隣になったとしよう。これは拷問か何かなのか、と感じてしまうのは無理もない話の筈だ。
先程から吐き気が止まらない。これは死んだほうがマシなのではないか、と思うくらいに辛い。視界が涙で歪んできた。



「よろしくネ」



向けられた笑顔の先に自分がいるのが嫌で嫌で仕方なかった。気持ち悪い。本当に気持ち悪い。
返事をする余裕なんてあるはずなく、口元を押さえ下を向く。出来るだけ意識を隣に向けなければいいんだ。それだけの事。何をこんなに必死になってるんだ。
ふ、と視界に映ったのは、奴の指先があたしの机に触れているところ。ああ、やめてくれ。もうこの机を使うことさえ嫌になる。何もいわず俯くあたしを奴がどう思ったのか、なんて考えたくないが少なくとも変な奴だとは思われただろう。好印象じゃなくても別に構いやしない。むしろ嫌ってくれ。そうしたらお互い寄り付かなくなるのに。



「もしかして沖田サン、照れてるの?」



あいつが発した言葉はあたしの予想を遥かに越えていた。
おい、ふざけんな。何をぬかしてやがんだテメェ。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。頼むから死んでくれ。あたしの視界から跡形もなく消えてくれ。
否定の言葉を述べようにも、胃から込み上げてくるこの何かをどうにかしないと声に出来ない。喉まできたそれをごくりと飲み込めば酸っぱい味がした。



「もしかして、沖田サン俺の事好き?」

「ーっ!!誰があんたなんか…ッ!!気持ち悪いんだよ!!死ね!!!!」



バン、と机を思いっきり叩いて声を張り上げた。ああ、そういえばこいつ、あたしの机に触れたんだった。背筋がさー、っと冷たくなり頭がクラクラする。必死で机に触れた手をスカートに擦りつけた。手がじりじりと熱くなってきてる事や、クラスメートの視線が一斉にあたしに集まった事なんかもうどうでもいい。どうでもいいから、この吐き気をどうにかしてくれ。ねえ、誰か。瞬きをすれば涙が零れた。



「はぁ…、沖田サン本当いいヨ、本当、はぁ、はぁ…」



急に息が荒くなったそいつにひっ、と小さく悲鳴をこぼしてしまう。
直に見てしまったそいつの顔は、頬は紅潮し、口角は上がり、目はニヤニヤとしている。
涙が止まらない。なんで、こいつこんな顔をしてるんだ。さっきあたしは結構ぼろくそ言った筈なのに。奴の顔は、まるでたまらないと言っているかのようで。
もう吐き気を堪えるのさえ、苦痛になってきた。



「俺ね、」

「やめて、もう…、な、にも言わないで…!」

「沖田サンの事、好きなんだよね」



嗚咽が止まらなくなった。もうだめだ。気持ち悪い。死にたい。こいつに好かれるくらいなら死んだほうがましだ。気持ち悪い。こんなの、ありえない。だから嫌いなんだ。気持ち悪い。
どうも奴はあたしが苦しんでるのを分かっててやってるみたいで、必死で吐き気を堪えるあたしをニヤニヤニヤニヤと見つめている。死ね。殺してやりたい。



「俺ね、あんたのその俺を蔑む様な目が堪らなく好きなの」

「それだけで、はぁ…、俺、3回はイけちゃう」



聞きたくない、と耳を塞ごうとしたが遅かった。あいつの声は全てあたしの耳から脳に入る。
あいつは狂っている、と脳裏で警報が鳴り響く。
ついに我慢できなくなったあたしは席を立ち、急いでトイレに向かった。胃の中の異物をすぐにでも吐き出す為に。



nausea
(摩擦で皮が向けた手を見て声を上げた)




2012/04.17
nausea=吐き気。


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