幸せになりましょう | ナノ



〇月×日。
もうすぐ彼女と出会って3ヶ月目になる。もう少しで3ヶ月記念日なんだから顔ぐらい合わせたい。だから彼女のバイト先に来てみた。
笑顔で接客している。向けられる笑顔の先に俺が居ないのが残念。少し、話でもしようと思ったがなんだか忙しそうだからやめた。


〇月×日
昨日はバイト先に行ったのに忙しそうで話せなかったから今日は電話をかけてみる事にした。幸い今日はバイトが休みなはずだ。
どくん、どくん、と高鳴る鼓動をどうにか押さえ付け、震える手で彼女に電話をかける。


「…もしもし、」


久しぶりに話すから無駄に緊張して彼女が出た瞬間電話を切ってしまった。これはきっと彼女も怒ってしまったに違いない。
そうだ、メールにしよう。電話だと直接会話するから緊張するけど、メールなら別に直接話す訳でもないし気軽に送れる。

さっきは突然切ってごめん。
もうすぐ俺達は出会って3ヶ月だね。
この記念日は盛大にお祝いしたいから絶対空けといてね。

よし、これでいいだろう。画面には送信しましたの文字。今頃喜んでくれてるといいなあ。


〇月×日
3ヶ月記念日まであと一週間をきった。あれから彼女とは連絡をしていない。
会えない、話さない分だけ記念日に会う喜びが増えるからだ。
でもどうやら俺にも限界というものがきたらしい。彼女不足だ。彼女が足りない。会いたい、話したい、抱きしめたい。
この衝動に負けた俺は彼女のバイト先に来てしまった。
ちょうどバイトが終わったみたいで、裏口から出て来た。
そして一緒に帰った。やっぱりこの間の事を怒ってるのか口をきいてくれなかった。しかも他の誰かと電話してやがる。
まあ、今回は仕方ないか。
彼女の歩幅がいつもよりか大きい。何回もきょろきょろ、と辺りを見回す。そして俺と目が合った瞬間走り出してしまった。
きっとこれは誰かにつけられているから先に帰る、というアイコンタクトに違いない。それを口にしなかったのはきっとそのストーカー野郎に先に帰るのがバレてしまうからだ。
さすが俺が好きになっただけある。頭がすごく良い。

もう少しで3ヶ月記念日。本当に楽しみだ。


〇月×日
3ヶ月記念日まであと3日。
今日はいきなり雨がどしゃどしゃと降ってきて、気分は沈むばかり。そういえば彼女は傘をちゃんと持っていったのだろうか。
この雨で傘がないとなると風邪をひいてしまう。俺は慌てて傘を二つ持ち彼女が通う学校へと走った。

傘立てにビニール傘を入れておく。でもこのままじゃ彼女に傘を置いていった事に気づいて貰えない。
だから四つ折にした紙に、傘を置いておくからよかったら使って下さいと書いて彼女の下駄箱に入れておいた。これで大丈夫だろう。


〇月×日
明日は3ヶ月記念日。何をしてあげようか。
いろいろ考えた結果プレゼントなんかより、二人でその日はずっと一緒にいるのが幸せだと俺は思う。俺がそう思うんだから彼女もきっと同じだろう。
でもただ会うだけじゃ駄目だ。サプライズが必要だ。
そうだ、明日は彼女はバイト。部屋に帰った時に俺が居たらどうだ。きっと驚いてくれる。そして歓呼の声をあげてくれるに違いない。
考えるだけでドキドキが止まらない。にやける口元を隠しすらしないで、俺は早速準備にとりかかった。










「ただいまー…」

「おかえりー!総羅待ってたヨ」



誰も居ない筈の自分の部屋に返事があったのだから、驚くのも無理はない話。そもそも驚かれるのも想定の範囲内だ。
ばさり、と鞄が彼女の手からすり抜け落ちた。
額には汗が滲み、口をぱくぱくと動かすも声にはならないみたいだ。俺はニコニコしながらゆっくり彼女に近づく。



「ねえ、」

「あ、う…、は、」

「びっくりした?」

「ああ…、あ…」



彼女と鼻がぶつかるくらいに近づくと、瞳に涙が溜まっているのが分かる。瞬きをすればそれが目からこぼれ落ちた。
そんなに、泣くほど喜んでくれるなんて。どうも照れる。
そっと彼女の肩を引き寄せて抱きしめた時だ。



「あ゙ああ゙ああ゙!!離せえ゙ええ゙!!!!ああああ゙あ゙!!」

「離さないよ、総羅も本当はそれを望んでる。今日は記念日なんだから素直になりなヨ」

「違う、違う…!!あたしは、」


「あんたなんか知らない!!!」



なに、それ。今まで一緒に居たのに。記念日にそんな事言われたら俺だってカチンと来る。
今までずっと君を追い掛けて、君の事を毎日毎日考えて、君の全てを知りたくて、必死に後をつけたのに。
今日だってそうだ。今日の為に適当な嘘で大家を騙して鍵を借り、それでスペアキーを造ってまで喜ばせようとしたのに。
いつも君を想ってるからここまでつくせたのに。
そんな酷い言葉は駄目だよ。



「ねえ、死にたいの?」



サイドに束ねた髪を強く掴み、無理矢理俺に視線を合わさせる。
もう一度ねえ、と問い掛ければ彼女の目から涙がボロボロと零れた。


「あ゙ああああああ゙ああああああああ゙あ!!!」



彼女は歓声を上げた。これだ、これを聞きたかったんだよ。
大好きな総羅。これからもずっと一緒だよ。






幸せになりましょう
(これからも、この先も、永遠に、)






2012/04.14

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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